第二章 次の問に対して適切な語彙を書け
⑴ 人間の本性は善であろうとする
①
探偵社から車で15分くらいのところにある、地区の中でも大きな総合病院、唐竜総合病院。
ここには、哲翁探偵事務所専属の先生と個室があるんです! 零思さんは、その先生に足の弾丸を抜いてもらって、その個室にいます。零思さんと私のほかには、希孔納さんだけ。この後、心子さんが来るはずなんですけど・・・。
そう思っていたら、個室の扉が開き白衣姿の男の子が入ってきた。
「おじさん、今度は何やらかしたの?」
入りながら、あきれた口調で男の子は言った。
「何でもないよ、逸仁。てか、お前『また』ってどういうことだよ!」
零思さんはベットの上にいてもいつも通りです。
入ってきた男の子は、よく見ると医師の格好をしていた。
何回もお世話になっているのに、いまだに間違えてしまいます。
「学之くん、ごめんなさいこんな時に」
「いいんですよ、智恵理さん。これが僕の仕事ですから」
そう言うと、学之くんは白衣のポケットから袋を取り出した。中には鈍く銀に光る細長いものが入っていた。
「
零思さんは「ふふっ」といいながら目をそらす。
「え! な、七発!?」
「あれ、智恵理さん見てなかったんですか?」
「慌てていたので・・・」
学之くんは零思さんに袋ごと弾を手渡すと、一週間の入院を告げて病室を出た。
学之くんと入れ違いで二人の人が入ってきた。
「おいおい、何やってんだよお前は」
「大丈夫ですか?」
入ってきたのは心子さんと天咲だった。
天咲も私と同じように大学へ進学後、探偵社に入ったようです。なんか、不思議な感じです。
「まったく、どいつもこいつも俺のことを気にしちゃくれない・・・天咲ちゃん、君だけだよ~気にしてくれるのは~」
「あれ、零思さん智恵は気にしてくれないんですか?」
「あぁ・・・気にした?」
「しましたよ!」
救急車を手配したのも今まで付き添っていたのも私だったというのに、ホントにもう、この人ったら・・・。
そんなことを話していると
「そうだ心子、アレのことだが・・・」
「アレ・・・あぁ、あのUSBか、どうしてる?」
「今絶賛解析中だ。本体は俺の事務所にあるから」
「そっか。・・・にしても何があったんだよ、襲撃か?」
「そんなとこかな?」
「そんなわけないでしょ!」
私がそういうと、少し「フッ」っと笑って黙ってしまいました。
と、その時。
「データの解析が終了いたしました。『雛菊』への転送も、先ほど完了いたしました。心子さん、天咲さん、お見舞いありがとうございます。」
「おう、桜。ありがとな。まぁ、お見舞いくらいどうってことはないよ」
個室の中のスピーカーから聞こえたオペレーターのような女性の声に対して、心子さんが言った。
この個室は、事務所専用の個室なのでこの部屋全体が紅桜と通信がおこなわれているのです。なので、先ほどスピーカーから聞こえた声の主は紅桜なのです。私たちは親しみを込めて『桜さん』と呼んでいます。それにしても桜さんはすごいです。パソコンなのに私たちの声もわかってしまうんですから。
ほんと、誰かと電話で話をしているかのようです。
桜さんが言っていた『
こちらは零思さんが作ったらしいです。零思さん曰く、「紅桜とかなり違う」らしいのですが・・・違いは、声が男性である他はよく分かりません。
「天咲ちゃん、希孔納、智恵ちゃん、ちょっと席外してもらってもいいかな?」
「? ・・・わかりました」
私たち三人は個室から出て待合室で待つことにした。
②
暫く、天咲曰く女子トークが続いた。
内容としてはほとんどが探偵社周りの謎や噂についてだった。これを女子トークと言うのだろうか・・・。
零思さんの戦闘服が何故ロングコートなのか、とか、雛菊と紅桜は恋人を参考に作った、とか、零思さんや心子さんは元々秘密結社や裏組織の人間だった、といった確かめようのないものばかりの話だった。
そんな会話を続けていると、個室の扉から心子さんが出てきた。
少し、表情が曇っていた。然し、その理由はすぐに分かった。
私たちを見つけ、近寄ると・・・
「零思の希望で、次の戦闘はこっちで持つことになった。それと、智恵理さんと希孔納ちゃんはそれまで、うちの方に来てほしいんだけど・・・大丈夫?」
「・・・へ?」
零思さんはまた無理難題を言ったようだ。心子さんは零思さんから、解析したデータに記載されている敵幹部の戦闘を頼まれ、さらに私の保護も頼まれたのだ。戦闘はともかくとして、私を『保護』とは、どういうことか。訳が分からず、私も表情が曇った。しかし、いつものように何か考えがあるのだろうと、いろいろ言いたい気持ちを抑え、心子さんの探偵社に行くことにした。
③
「いつ来ても、すっごい大きいなぁ~・・・」
零思さんが入院している予定の一週間分の荷物を持って心子さんの事務所まで来た。
心子さんも哲翁探偵事務所と同じように、インテルガトスとの戦闘も請け負っているちょっと変わった探偵社の所長さんなのですが・・・何と言っても規模が違いすぎます。働いてる探偵の方もも数百人で、多すぎるため部署が分かれているようなのです。また、私たちの事務所が少し大きめのビル一つに対して心子さんの事務所、『
正に哲翁探偵事務所超DX《デラックス》版です。
ビルの中に入り、エレベーターで10階まで上がる。
病院で話し合い、階の空いている部屋を貸してもらえることになったのだ。天咲の部屋の隣だった。
「やっぱ大きいなぁ・・・こういう所、私の事務所にないからうらやましい」
「智恵のとこのほうが落ち着くよ。こういうとこなんか忙しなくて逆にそっちのほうが羨ましいよ・・・それに、零思さんと二人っきりだしね」
天咲がからかいながら言ってきた。
「な・・・なに言ってんの! ふ、二人っきりじゃないし・・・そうですよね? 希孔納さん?」
「ふにゃ? ・・・そう言われれば、私が事務所にいないときは二人っきりにゃのか。私もいない時間のほうが長くなってるから最近は二人っきりにゃね」
希孔納さんも少し笑いながら私に視線を飛ばしてくる。
「ふ・・・二人して! もう!」
そんな話をしているとエレベーターが止まり、扉が開いた。
ビルの中とは思えない、まるでマンションにいるかのような階だった。
天咲の案内で、借りる部屋へ移動する。一応、お世話になるので、荷物をおいたら一度所長室へとあいさつに行く。
「結構いい部屋にゃ」
「ほんとにこの部屋いいの?」
「いいんだよ、住む人いなかったら宝の持ち腐れだもの。とりあえず、どうする?」
「まず、挨拶に行かなきゃだね」
私たちは、荷物を部屋に置くとそのまま部屋を出た。
またエレベーターへ乗り込み、所長室のある7階へと移動する。心子さんのオフィスの部屋だ。
それにしても、零思さんと心子さんは同じ立場(所長)なのに、全然格が違う気がします。心子さんの探偵社の支店長が零思さんみたいな。
7階所長室。私の事務所にない重厚そうな扉。その扉をノックし入る。
「失礼します。智恵理さんをお連れしました」
天咲が先行して入る。するとそこにはすでに先客がいた。
「分かった、これで通しておこう。・・・お、来ましたか」
「所長、新しい探偵でも雇ったんですか?」
発言や身なりから推測するに、ここの探偵さんでしょうか。
「ああ、違うよ、例の保護対象の」
「あ! 哲翁さんのところの!」
そう言うと、私の前まで来て、
「どうも、いつも哲翁さんにはお世話になっております」
と、挨拶をするとそのまま所長室を出ていった。
「あの人も私たちお同じで、インテルガトス対応の探偵さんなの」
天咲がそう紹介してくれた。
「さて、智恵理さん、この事務所については知っていると思うけど端末に関しては主オペレーションが菊になるので、それだけ。後の細かいことなんかは天咲から聞いてください」
そう心子さんが言ったとき、
「所長、まもなく対策会議の時間です。智恵理さん、希孔納さんもどうぞご出席ください」
と、男性の声が。
おそらく雛菊でしょう。私たちは愛称で『菊』と呼んでいます。
「え、私もですか?」
「ふにゃ、私もかにゃ?」
私たちは声をそろえて言った。
④
空五倍子探偵事務所4階大会議室。私たちがそこに行くと、すでにたくさんの探偵の方がいた。
私たち4人が前に出るとざわめきは一瞬止まったが、また少しするとざわめきだした。聞こえてきたざわめきは私たちのことを言っているようだった。
「注目!」
天咲の一声で全員の目線が私たちに向かう。
「これより、対インテルガトス幹部作戦会議を開始します。それにあたり、まずは、今回作戦に参加してくれます哲翁探偵事務所の智恵理さんと希孔納さんを紹介します」
天咲がいきなり私に振ってきた。
「か、考藤智恵理です、よろしくお願いします」
「哲翁希孔納にゃ、よろしくにゃ」
普通に挨拶をしたが、その直後今までの発言に関して何か引っかかるものがあった。そんな私をよそに、天咲は続ける。
「それでは、雛菊、お願い」
「かしこまりました。今回みなさんにお集まりいただいたのは、ご存知の通りインテルガトス第伍幹部『ニヤメム』を確保するためです」
「え、私も参加するの!?」
小声で天咲に聞く。
「当たり前でしょ、そのために二人に来てもらったんだから」
「あたしの潜入捜査も役に立ったにゃ」
雛菊の説明は続く。
「ゴーレム体である第漆幹部、第陸幹部はすでに哲翁さんと智恵理さんが破壊してあります。そこのデータを解析した結果、岩手県に潜伏していることが判明しました。そこで、今回は精鋭を集めた捕獲作戦を実行します。尚、本作戦は捕獲を目的としております、ご注意ください。ではまず、心子所長、天咲さん、智恵理さん、希孔納さんが本作戦に参加します・・・」
そのあとは、複数人の名前が挙がった後、明日作戦を開始すると言われ会議は終了した。
「なんで私たちまで作戦に出ることになってんの」
「そうにゃ、保護対象じゃなかったのかにゃ?」
会議の後、私と希孔納さん二人は天咲に詰め寄った。
「ま、まぁ今回は幹部との対決なわけだし、経験者ほしいし、それに、これは零思さんから言われたことだし」
ほんとに、あの人は何を考えているのか、まったくもってわかりません。
「にしても、智恵はすごいよね。幹部と戦いに大阪まで行って・・・」
「え!? お、大阪!?」
「え、違ったっけ。ねぇ、菊?」
「はい、確かに前回の幹部との戦闘は大阪の団地内にて行われております。おそらく智恵理さんには伝えられてないのではないかと・・・」
絶句です。もう何も言えません。実際に声が出ませんでした。
「じゃ、じゃあ部屋の番号は・・・」
「あの幹部の法則として、同数値を使うためそこから場所の特定がされたのかと思われます」
「えっと・・・つまり?」
「全国どこでも団地の三番棟402の人を襲っていたということです」
「何も伝えないなんて、零思さんらしいね」
天咲が笑いながら声をかけてくる。私はもう、ため息しか出なくなってしまっていた。
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