ウサギとカメ
——もしもし、カメさん。俺、ウサギだけど。率直に聞くね。どうして、君は鈍いんだい?
ウサギからカメに電話がありました。
「何を突然おっしゃるのです。僕はまだ本気を出していないだけです。そんなら二人で駆けっこをして勝負しましょう。小山の向こうの麓までどちらが先に駆けつくか勝負しましょう」
——大きく出たね。それなら大々的にやろう。観客を集めてテレビ局を呼んで、スポンサーをつけて、一山当てよう。うちの息子がイメージキャラクターをやっている、花菱UFO信託銀行に掛け合ってみるよ。
「じゃあ僕はヨドガワカメラに頼んでみます」
——冠スポンサーが二つか。あとは俺が小さいスポンサーを集めてみるね。じゃあ日程とかも俺が詰めるから、また連絡するよ。
「よろしく。お互い、健闘を祈ろう」
電話は切れました。
「よし、のろまの汚名を返上するため、特訓するぞ」
亀は張り切りました。
一方、ウサギはスポンサーの獲得、観客動員のチケット販売の手配。当日の警備態勢の準備と駆け回りヘトヘトになってしまいました。しかし、
「カメさんなんかにゃ、歩いてでも勝てる」
と強気に営業活動に勤しみました。
そして駆け比べの当日。超満員の中『花菱UFO信託銀行プレゼンツ、ウサギバーサスカメK−1グランプリ』が始まりました。K−1のKは駆けっこのKです。特設スタンドには世紀の対決を見ようと集まった十万の観衆が集い、今か今かと対決を待っています。
ウサギの体調は最悪でした。仕切り、営業、広報を全部一人でやったからです。対してカメはこの日に合わせて絶好調。しかし、歩みが遅いので勝てるとは誰も思いませんでした。ブックメーカーの倍率でも99.8パーセントがウサギに賭け、博打好きの輩だけがカメにかけます。
ウサギの控え室にはタチの悪そうな男が入ってきて、
「五十万ドルやるから、負けろ」
とウサギを脅しました。しかしウサギは、
「正々堂々戦う」
と突っぱねました。
さあ、レースのスタートです。位置につくウサギとカメ。スターターはなんとナボナ大統領。
「レディース、ゴー」
ピストルが打ち鳴らされました。余談ですがナボナ大統領は「銃なき社会」を目指しています。
号砲とともにカメが突然、手足を引っ込めました。試合放棄かと誰もが思った瞬間、隠れた頭手足の穴からジェットエンジンのように日が吹き出しました。そしてクルクルと体を回転させると、空中に浮かび、ビューっと空を飛んで行ってしまいました。
「僕のお父さんはガメラだ!」
カメは叫びました。
一方、ウサギはびっくりして、腰を抜かしましたが、
「なにくそ」
とカメを追いかけます。しかし、疲労で頭が朦朧とし、コースアウトしてしまいました。そしてその瞬間、ガシッという音がして、足に猛烈な痛みを覚えました。
「ああ、ウサギ取りの罠だ」
慌てて足を抜こうとしますが取れません。とうとうウサギはマクレガーさんに捕まり、マクレガーさんのおばさんにミートパイにされてしまいました。ウサギさんの本名はピーターラビットのお父さんと言います。バカボンのパパみたいなもんです。
カメは圧勝しましたが、レース後、疲労で倒れて、一万年生きるところを九千歳で過労死してしまいました。
世の中何事もほどほどがいいようで。
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