能ある鷹は爪を出す
俺は一日の仕事のノルマを午前中で片付けてしまう。仕事を効率良く運ぶために、考えたルーティンをなぞるようにこなす。それができない無能社員は一日中、必死に仕事をし、それでも終わらなくて、残業している。俺の会社は残業代を出すホワイト企業だから、無能な奴の方が、毎日定時で上がる俺より給料の手取りがいい。世間が間違っているのはこの点だ。無能で時間内に仕事が終わらないで残業している馬鹿を「会社のために全身全霊をかけてくれている」と評価し、時間内で仕事を終え、就業時間を守って帰宅する俺を「仕事に対する情熱がない」と批判するのだ。勘違いも甚だしい。俺は無駄な残業をせず、会社の人件費を減らし、ノルマを果たすことで、会社に利益をもたらしているのだ。
そんな俺の不満を爆発させる事件が起こった。会社で大掛かりなリストラが行われることとなり、そのメンバーに俺が俎上に上がったのだ。会社は俺の陰の働き、貢献を見ていなかった。単なる怠け者の社員として、切り捨てたのだ。俺は会社に嫌気がさし、リストラを受け入れた。
俺は元いた会社と同じ業種の企業を設立するため、本気を出した。お得意先にスポンサーになってもらい、これはという、後輩社員に声をかけ、起業した。初めは小さな企業だったが、アメリカから輸入した雑貨類がウケけたのと、全国の知られざる逸品を紹介したことで、売り上げが急上昇し、元いた会社の業績を食い潰した。その会社はまたリストラで窮地をしのぐらしい。俺はリストラされた元の会社の社員をことごとく雇った。汚名返上に燃える彼らは猛烈に働いた。
社長になった俺は、創業時には本気を出したが、会社が安定してくると、元の仕事ぶりに戻った。仕事は午前中で終え、午後は好きなことをする。そして定時には上がって帰宅する。その時、社用車は使わない。電車と徒歩で帰る。経費を少しでも抑えるためだ。俺はいつも陰ながら会社に貢献している。
そんな俺が臨時の株主総会で代表取締役社長を解任された。仕事に怠慢だという理由である。俺は甘んじて受け入れた。
今、俺はまた新しい会社の設立資金を調達するため、奔走している。目標は前の会社を倒産に追い込むまで叩き潰すことだ。
能ある鷹は必要な時には爪を出すのだ。
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