機装怪獣グレイゴオウ

@hanta000

プロローグ

 温泉街『芙米フベイ』の沿岸で後に「怪獣」と後に呼ばれるモノの出現が確認されたのは、15年前の夏の真昼間の事だった。


 観光客が何気無く撮ったその写真には確かに、黒く細長い、何物かの尻尾のような影がハッキリと焼き残っていた。それ一枚ではよくある、今まで人をイヤになるほど騙してきたような物に過ぎなかったはずなのである。


 つまり、フェイクだとしつつもこんな生物いたら面白いよね……と夢を見合うような、単なる話題の一つ。ニセモノと分かって楽しむ物だと掃き捨てられてきたようなモノ。そうされるのが普通だった。


 だが……同時多発的に似たような写真が撮られた事で、状況は今迄に無い「現実感」を持つ事となった。要するにそのUMAには節操という物が無かったのだ。


 この事件は大いに話題となり、UMAには「愛称」が与えられた。そう、愛称である。かくして『ベッピー』と名付けられたこの怪獣は「観光資材」の名の元に、ある意味人間のいいように使われた。


 先ず、『ベッピー饅頭』が芙米のお土産の定番として定着した。より抜かれた純和風の白餡と、ラムに漬けられたレーズンの2種類の餡が、バター風味の洋風の皮に包まれたそのお菓子は、人々の心をそれはまあ鷲掴みにした。


 ベッピーを呼ぶ歌として作曲された『ベッピーの歌』は、時がCDの凋落期にあるにも関わらず、初動売り上げ80万枚を記録。ベッピーが芙米フベイに住むある子どもとの友情を描いたミュージックビデオは、動画共有ポータルサイトで10億回の再生を記録した。それらの現象に伴い地元の歌手であり『ベッピーの歌』を歌った男性二人ユニット『ラッカ星人』が大ブレイク。


 その他の細かい『ベッピー現象』を上げればキリがない。ベッピー(の妄想)を模った巨大遊具の建設(ちなみにベッピーの全体像は、尻尾の虚映が実は頭部なのではないか、という偉い先生の解釈に基づき、多くのイメージ図の中では首長竜とされていた)。アニメや漫画のキャラクターとのコラボも実現したベッピーの携帯ストラップ。


 新たな生命への期待や希望が象徴付けられたベッピー型の植物プランターと、それに伴う『生き物をだいじに運動』。地元の小学校を対象にしたベッピーの塗り絵大会(この時既に大人達が勝手にベッピーのイメージ図を首長竜だと決めつけていたが、それにしてもさあ子どもたち、未だ見ぬベッピーの姿を思い描いてみよう、といったアプローチが何故なかったのだろう)なども『ベッピー現象』の一つである。


 後で分かった事だが、この時既に調査隊が芙米フベイ沿岸に派遣されていた。それで、足の存在も確認されていた。そうであるにも関わらず、芙米の観光業者(或は市そのもの)と政府との癒着により、事実は完璧に隠蔽されていた。ベッピーが上陸し、大きな騒ぎになる「その時」までで……






 「その時」。


 芙米フベイ全域に避難命令のサイレンが響き渡り、警察と猟友会が街に急行した。そして、何も出来なかった。多くの人間は実際の、全長30mを超える大型のベッピーが既に廃墟となった町を闊歩しているのを見て思い出した。私達はフィクションの絵に慣れ、デカい奴への畏敬、恐怖をこれほどにも忘れていたのか、と。多くの人の目に焼き付いた災厄の実なる姿のはっきりしたものは、何一つ残されていない。


 国の中心では首相官邸に危機対策本部が設置される。国内の三つの基地から飛び立った偵察ヘリより状況の凄惨さが続け様に報告されていたにも関わらず、やけに長びいた会議の末に、ようやく「なんかさ……危ないらしいね」と判断が至り、防衛隊内に『ベッピー対策統合隊』が発足。


 海・空の防衛隊が出動。威嚇射撃では海に戻らないと確かめられた後、命中させる事が許可される。だが市民の避難が十分でない事もあり、市街戦は困難を極める。遠く離れた災害対策本部より「じゃあ……橋でも落とす?」という非常にアホな作戦が提案されるも、怪獣の大きさと地元の橋の大きさが当然のごとく合わないと判断され、却下。


 結局何発目かの対艦ミサイルをも耐え抜いたその巨大生物は、気が済んだかのように突然海へと帰っていき、事態は収束。結局周辺の役所、温泉街、秘宝館などには壊滅的打撃がもたらされた。






 しかし、悪夢はそこで終わらなかった。その一年後二体目の巨大生物『リオーナド』が今度は反対側の国に上陸。10か月後には、別の大国で火山の噴火と共に巨大生物『ソビラ』が出現。「愛称」は単なる「呼称」へと変わり、「巨大生物」が「怪獣」と呼ばれるようになるまでは、実にシームレスだった。


 地球全体が、瞬く間に『怪獣の時代』となった。人間は団結したが、その団結には色々なカタチがあった。ある「団結」は立ち向かい、ある「団結」は怪獣に対して祈り、ある「団結」は諦めたかのように妄想の世界に耽った。団結どうしが敵となり、団結の中でも諍いは生まれ、結局地球は争いだらけになった。


 『怪獣の時代』が5年続いた時、人間によく似た生物が多く搭乗したとある宇宙船が宇宙より飛来した。その宇宙船は、地球の怪獣を駆逐したか?違う。地球が混乱に陥っているのを良い事に侵略を始めたのか?そうでもない。では、宇宙人は自らが所有する怪獣を繰り出し、地球の怪獣はそれに対し「自然の敵だ」などというもっともらしい理由を肩に背負いそれに対抗したか?それは丁度その時に流行したネット小説の題材の事だ。


 キラビト(吉良人)と呼ばれるその宇宙人は、地球の怪獣を捉え、研究の末、兵装を付けて武器にする事に成功したのだ!

 これらのサイボーグ怪獣は総じてガイタスと呼ばれたが、機装獣ともANIMA(アニマ)とも呼ばれた。


 その所以であるとされる操縦方法はキラビトが感じた通りに、感覚をも怪獣と共有しながらキラビトを操縦するというシンプルなモノであり、怪獣はそのキラビトに対する服従を、似た内面を持ったキラビトにしか受け付けなかった。長く操縦している内に、怪獣の姿はキラビトの姿と似てくるという研究結果も発表された。


 怪獣は大きく、それに見合うだけの『動かす場所』というのは限定された。そこで、キラビトが選んだ場所が地球である。悪い意思を持ったキラビトは地球に降り立ち略奪を始め、地下闘技場の代わりに地球をバトルフィールドに選び、サイバー怪獣バトルで賭け事を始めた。


 人間は全く別の形でその安心を脅かされる事になり、人々は同じ形をした宇宙人という明確な敵を見つける事で、本当に団結し、地球に降り立ったキラビトを重犯罪者と認定し、ガイタスの駆除に乗り出した。


 当のキラビト政府はそれらの悪行に関与していないとの声明を出しており、人間とはしれっとした顔で友好の姿勢を取りつつある。ガイタスの駆除に関しても「どうぞご勝手に」といった具合で、それを止める事も、強力する事もしない。


 結果、人間は防衛隊に全てを託し、ガイタスに立ち向かう。だが見るがいい、キラビトの科学力を、ガイタスの性能を!パンチ、キック、テール!


 それだけではない。『ユイツブキ』はガイタスおのおのに備わっている能力の事で、搭乗するキラビトによってそれは発現するようにできている。『コスタレラ』の拡散ビームを見よ!『マレシガ』の爆発鱗粉はどうだ!


 ああ、人間の作りし光線車も、空中艦隊も、全て堕ちていく、ふふっ。あ、つい吹き出してしまった。かくしてガイタスと人間との死闘はショーとなり、キラビト星全体を今日も熱狂させているのである。


――『人間サイドから見たガイタスの研究』キラビトファクトリー刊より抜粋

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