第7章 カルタゴの奇跡(4)
「ああ! それなら、多分『アレ』のことだね」
「……アレ、って??」
宿屋に着き、荷物を降ろし運ばせようやく落ち着いたところで。商団の他の者には『好きな所で好きなように食べるように』と、ここまでの労をねぎらいお金を渡し。ハインハイルにミカエルとアヴァインの三人は、一緒に食事を頂きながら宿屋の女将に例のことを聞いていたのだ。
女将は、一度宿屋の奥へと行き、それから一本の水筒を持って戻り、その中身のモノを透明なグラスに注いだ。
「なんだい……こりゃあー!?」
グラスの中の水らしきモノは、時折 《黄金色の光》を仄かに放っていた。とても不思議な水だ。
「まあ~つい最近になって、分かったことなんだけどね。この街の外れに住む、盲目の老婆が、家の近くに湧く湧水で毎朝欠かさず顔を洗っていたそうなんだが。ある日、突然、その見えなかった筈の目が、見えるようになったらしくてねぇー。
なんでもその時、その湧水の水が、眩い程の黄金色に輝いていたらしいんだよ」
ハインハイルは驚いた顔をし、ミカエルは興味深そうな表情で聞いている。
実際、この目の前のグラスの中は、実に不思議な色のモノだった。
「まあ、この水のお陰で本当にその目が治ったのかどうかなんて分からないんだけどねぇ。
そのお婆さんの話を聞いてからというもの、街の皆がその婆さんの家まで水を貰いに行く様になってね。それで本当に病気が治った人とか、体の調子が以前よりも良くなった人とか居るモンだからさ。今じゃあ、毎朝・毎夕その水を求めて、人の行列が出来るようになった、って訳だよ」
女将はそう言い終わると、グラスをあと2つ置き。その中へ水を入れてくれた。
「まあ、いいから。ちょっとだけ飲んでみな。別に金なんて取りゃしないよ」
言われて、3人で顔を見合わせ頷き。それから一緒にグラスを手に持ち、一斉に飲んでみる。
「……特に変わった味はないなぁ」
「ふむ……」
「普通……ですよね?」
それを聞いて、女将は『やっぱり?』って顔を見せる。
「アハハ♪ 大体、みんなそう言うね! 見た目は御覧のとおり、不思議なんだけど。実際飲んでみると、特に変わった味はしないんだよ」
「……へぇ」
それでも……見た目が違うという事は、コレには何かが含まれている筈だ。一応でも、セントラル科学アカデミーを卒業していたアヴァインは、そのグラスの中の水を見つめ、直ぐにそう感じる。
「しかし……その話が本当だとすると。これはちょっとした商売になりそうな気配ですな」
「ええ、確かに」
ハインハイルがグラスを片手に真剣な表情で、それを見つめながらそう言い。ミカエルさんもそれを聞いて、納得顔に頷いている。
そこは流石に、二人共商売人だ。
「残念だけど。商売ならすでに、始めているよ」
「え?」
「その、婆さんがね。この水筒1本につき、銀貨3枚だとさ。
それでも毎日、百人以上は来ているし。水は元手も掛からないからねぇ~。ボロ儲けしているらしく、今じゃ人も雇って、その湧水ごと柵も張り囲い中に屋敷まで建てちまっているよ。
全く、大した婆さんさ!」
それを聞き、3人は互いに顔を見合わせ、ため息をつく。
◇ ◇ ◇
「何にせよ……一度くらい、訪ねてみたい気はするなぁー」
宿屋の2階の窓辺で、グラスの中に残る例の不思議な水を見つめていたハインハイルが、ふいにそう言ったのだ。
ミカエルさんもそれに頷き、こちらを伺う。アヴァインもそれに反応し、頷いた。
何よりも興味深いし、それに……。
「『商売をすでに始めている』といっても、話によればこの街中に限ったことの様ですし。その水を他の街でも売る手がまだ残されているのだとすれば、或いは……」
流石はミカエルさんだ。目の付け所が違う。
アヴァインとハインハイルは、それに頷いた。単なる興味の他、ついでに商売にも繋がるとなれば、申し分ないコトだ。
「では早速、明日にでも伺ってみることに致しましょうか?」
その提案に、異存など当然になかった。
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