第6章 仮面の商人 (9)
――次の日。朝から前回と同じ場所で陣取り、売り始め、その後3日間で全てを完売した。手元には、銀貨589枚。
思ってた以上だ……既に倍いっちゃってるし、驚きの結果だよなぁー。
これをハインハイルから言われた通り《ハインハイル交易ギルド》の支部にて、薬を安く大量に買い込み。手元に銀貨30枚だけを残した。
州都アルデバルから北にある鉱山都市アユタカまでは、馬車で1日の距離だった。朝から出る駅馬車に乗ると、その日の夜には到着出来た。
そして次の日、薬屋にそれを持ち込むと、それは即日完売した。というのも、丁度鉱山の一部で崩落があったらしく、大量に必要だったらしいのだ。
アヴァインはそれを聞いて、薬屋で必要量と他に必要なものなどはないか確認し、再び州都アルデバルへと急ぎ戻り、薬と他に頼まれたものを仕入れ。即日、鉱山都市アユタカに戻った。
それもあって、銀貨1287枚。
随分と利益も上がって申し訳ないくらいなのに、感謝されてしまったのだから、なんとも気持ちは複雑だ。
「まあ……結果よければ全てよし、だよな?」
今度は、それで鉱物を大量購入する。
この鉱山都市アユタカにも《ハインハイル交易ギルド》の支部が有り、同じ様に手紙をそこでも見せると割り引いてくれた。
銀貨1200枚分というと、驚くほどの量を持って来たので、なんというか困ってしまう。
幸い、ギルドの方で馬車を安くレンタルしてくれることを知り、アヴァインはそれをレンタル契約する。
しかしそれで現れたのは、今にも死んじゃうんじゃないか?と思われるような馬が引く馬車で。その馬の目も実に眠たそうで、やる気があるのか無いのか……ついでに馬車自体もボロボロで車輪も錆びだらけ、どうにも心配になってしまう。
「長い道中、もし途中で動かなくなったりでもしたら、大変だよ……」
そんな訳で車輪の錆び落としを半日掛けて行い、荷台の穴も塞ぎ、どうにかこれで運ぶこと位なら出来るだろう。
そう思い馬を遠目に見ると、退屈そうに欠伸なんかをやっている。
残りの心配といえば、あっちの方だろうなぁ……。まあ~無理だけはせず、マイペースに行けば何とか大丈夫だろう。
アヴァインはそう思い、急ぐこともなく一路ひたすらに、休み休みアクト=ファリアナを目指すことにした。
◇ ◇ ◇
4日後の夕方。アクト=ファリアナへ到着してその鉱物を売ると、銀貨1786枚にもなったから驚きだ。
早速、《ハインハイル交易ギルド》へ行きブリティッシュと会い、銀貨500枚を支払い、正式にギルド会員となることが出来た。
ハインハイルにこの前の礼を言おうと思い、ブリティッシュに訪ね聞くと。ハインハイルは今、交易の為に長く不在しているとの事だった。
「まあ~、別に礼には及ばないよ」
ブリティッシュはそう言うが、アヴァインは「感謝していたとお伝え願えますか?」と頼み、ギルド本部を出て、闇市へとその足で向かった。
そして闇市で会員証を見せたが、何故か今回は1割引きだった。どうやらハインハイルがくれた手紙は、余程特別な魔法の掛けられたものだったらしい。だったら、この手紙の方をまた使おうかな? と思ってよく見たら、残念なことに使用期限が昨日までで切れていた……。
思わずため息も出そうにもなるが、世の中、そんなに都合の良いことがいつまでも続くモンじゃないよなぁ~?
アヴァインはつい都合よく物事を考えていた自分自身にため息をつき、頭を掻きながら今晩泊まる宿屋へと足を向ける。
が、そこへ急報を知らせる者が現れた。
何事か訊ねると、ここまで一緒に旅して来た馬の容態が相当悪いらしい。
アヴァインは急ぎ馬屋へと駆けつけたが、既に息も絶え絶えで。こちらへ静かに目線を向けたかと思うと、まるでそれを確かめその役目を終え安心したかの様に、アヴァインに優しく抱かれたまま安らかにそのまま逝った……。
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