第5章 新たなる道への旅立ち (5)

 一言でアクト=ファリアナへ行くと言っても、簡単なことではなかった。先ず、このキルバレス市内から出るのにも困難を極めるからだ。

 道の至る所に衛兵が居り、顔だけは見られない様に俯きながら通る。流石に街の門だけはどうしようもなく、通り掛かりの商人に金を渡して積荷の中に隠れ込み、なんとか抜け出せた。


 キルバレスから北へ10キロも進んだ所で、その商人とは別れ。そこから北東のアクト=ファリアナを目指すが、時折、主要な街道の為、衛騎兵が行き来し。その都度、隠れる始末だった。しかも所々に関がある為、迂回するしかなく。気がつけば道に迷い、カンタロスの貯水池の山々に近づいていた事に気づく。どうやら東ではなく、北へ歩いてしまっていた様だ。


 あれからもう、10日が経つ。


「あークソッ! 普通だったら、こんな苦労はしないのに!」

「まあ、そう言うなよファー。お陰でこんな綺麗な場所が見れて、ラッキーじゃないか」


 カンタロスの大水源からの豊富な水で、辺り一面、見渡す限りの湿地帯が広がっていたのだ。


「ああ、全くだな。しかし、下手に近づくんじゃないぞ。動物一匹歩いていない所を見ると、相当な底なしだぞ、ここは」


 確かに、鳥や小型の動物らしい生き物は見掛けるのだが。この湿地を自分達ほどの動物は一匹として歩いていなかった。


「あー良かった……。ファーに言われなかったら、危うく踏み込んでしまうところだったよ」

「……お前のそういう、迂闊うかつなトコ。なんとかならないのかぁ?」


「ハハ。まあ、善処はします。約束は出来ないけど」

 それを聞いて、ファーはため息をついている。


 ようやくその湿地帯も抜け、大きな川で魚を獲り。弓矢で、鳥を射抜き。枯れ木を集め、火を熾しその日の夕食とした。

 この辺りには、木の実も多く。とても豊かだ。


「これだけの土地を遊ばせているってのは、なんとも勿体無い話だよなぁー……」

「まあ、仕方がないよ。カンタロスの大水源の周囲30キロ圏内への立ち入りは、基本禁止されているからね。

要は、あの山々が見えている所での狩りとかは、ぶっちゃけやっちゃダメなの」


「なんだ。じゃあー、俺たち。ルール違反してたの?」

「まあ、そういうことになるね?」

 最後の鶏肉を貪り食べていると、その向こうでファーが呆れ顔を見せていた。


「アヴァインさ。この魚とか焼く時、普通に火を使ってなかったか?」

「うん、鳥もね。そりゃだってまさか、生じゃ食べられないでしょ? ハハハハ♪」


 そう返すアヴァインの言葉を聞いて、ファーは頭を抱え、ため息をつく。


「衛兵がこの煙を見たら、この場所がバレるとか、思わなかったのかぁ?」

「……あ」


「あ、じゃないぞ、アヴァイン。まあ、気づかれなかったから、良かったものの……」

 とファーが言うも間もなく。ザザザ……と茂みをかき分ける音が聞こえ、数名の衛兵が弓矢を構えていた!?


「クッソォォォォォオー!! 逃げるぞ、アヴァイン!!!」

「──お、おう!!」


 颯爽とその場から飛び出す様にして逃げ出し、間もなくそこへ弓矢が無数に斉射されていた。実に危なかった。危うく、串刺しだ。


「おい、アヴァイン!」

「え? なに??」

 死ぬ程に全力疾走で走りながら、ファーは言った。

「お前のその、迂闊なトコ、本気で直せっ!!」

「善処はするよ、約束は出来ないけど!」


「だから、そこは約束をしろ、ってのっ!」

「生来の人の性格って、そんな簡単には直らないものなの!」


「だから、そこをなんとかしろ、ってのぉッ!」

「だから、全力で善処はするって! 約束は出来ないけど!!」


「だぁ───かぁ───ら! 頼むから、約束しろってのォ───!!

お前と一緒に居ると、命が幾つあっても足りねぇーよっ!!」


 2人の足元と頭を弓矢は掠め、そんな弓矢の雨の中を2人で全力疾走し、なんとか衛兵達からの追撃を2人は振り切ったのである──。


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