第二章 アクト=ファリアナの心友
第2章 アクト=ファリアナの心友(1)
それから一週間後のこと。カルロスは首都キルバレスのパレスハレスにて、科学者会の代表として最高評議会に対し、パーラースワートロームからの全軍撤退に関する要望書を提出した。
「グレイン・バルチス殿からの報告によると。あの国の民は、実に話し合いの
最高評議会の議会場中央にある壇上で弁舌するカルロスワシに対し、評議会議員たちはざわめきたった。
そうした中、手を挙げ発言する者が現れる。
「技師長はそう申されますが、彼の地との戦いは既に、始まっているのですぞ!
今ここに至り撤退といったところで、彼の地の民との溝が埋まりましょうや?
ここで退くは、将来に余計な遺恨や災いの元を残すばかりなのではありませんかな? 技師長」
「……」
誰かと思えば、ディステランテ・スワート評議会議員だ。
彼の言うことは、もっともな懸念だった。それを聞いて、他の評議会議員も納得顔に頷いている。
しかしカルロスとしては、今回ばかりはここで退く訳にいかなかった。
「ならば、ディステランテ議員殿は。だから彼の国の民を根絶やしにせよ、と申されるのかね?」
「……そうは言いません。しかし、我々が何よりも重んじるべきは、この国の利益となる結果であると私は考えます。
カルロス技師長はまるで、彼の国パーラースワートロームの代弁者であるかのように伺えるが、これは如何に申し開かれるか?」
「……」
流石に弁の立つ評議会の、それも実力者だけのことはある。流石のカルロスも思わず言葉に詰まってしまう。
確かに、ディステランテ評議会議員の発言の方が、この場……共和制キルバレスの最高評議会議事堂パレスハレス内では正しい筋だろう。
ここは何よりも、国益を最優先にして話し合うべき場、であるからだ。
「更に問わせて頂きますが……カルロス技師長。あなたは、グレイン・バルチスの名を、先ほど挙げましたね?」
「……ああ、言うた」
「では……グレイン・バルチス技師殿が、我々キルバレス国民を裏切った謀反人であると知った上での、発言だったのですかな?」
「……ああ、そうじゃよ」
そのカルロスの返答に、評議会会場は一気にざわめき始める。
「聞くところによれば……その謀反人であるグレイン・バルチス技師とあなた様は、非常に親しき仲であったと聞いております。それについては?」
「ああ、間違いない。よき友人であり、今も尚このワシにとってかけがえのない親友じゃよ、グレインはのぅ」
それを聞いてため息をもらす者や、噂話を始める者が出始めた。その会場の雰囲気は忽ち、今にもこの場に居るカルロスを断罪するためだけに開かれていたかのような空気感へと変わりゆく。
この評議会議員ディステランテを相手にするには、カルロスは性格があまりにも正直過ぎた。
「噂によれば……彼の地へと行ったグレイン殿と、頻繁に手紙のやりとりを行っていたとか。
これも、まことですかな?」
「ああ、頻繁というほどではないが、やりとりはしておった。それが何だというのだね?」
そのカルロスの返答を耳にして、中には頭を抱える者も居た。そして同時に、『やったぞ!』とばかりに表情を明るくする者もいる。
そして、今まさにカルロスと対峙する評議会議員ディステランテ・スワートは、周りの者達から気付かれない程度で口元をニヤリとさせ言う。
「カルロス技師長……。実は既に、私の手元にはこういう情報も来ているのですよ」
「情報? ……なんのことだね」
「あなた様は、謀反人であるグレイン殿の元へ『製造機器を送らせた』……これも事実ですかな?」
「………」
最高評議会場内は、その問いの答えを聞こうと。皆、静まり返る。そんな中……カルロスは全てを納得した表情で、こう答えた。
「ああ……そうじゃよ。送った」
「「「──!!」」」
「衛兵!! 今直ぐに、カルロス技師長を捕らえよッ!」
会場の周りに居た衛兵がそのディステランテの命を受け、カルロスを一斉に取り押さえた。
「な──なにをするのだ。ディステランテ!! お主、気でも狂ったか!?」
最高評議会会場の中央壇上にて取り押さえられながら、カルロスはそう叫んでいた。
それを聞き、ディステランテはニヤリ顔でこう答えてくる。
「それはカルロス技師長、あなた様の方ですよ。
あなたがグレイン殿に送った製造機器で、グレイン殿が何を造られたか、ご存知でしたかな?
彼の地でしか使えない特殊な新兵器を、彼は造り。そしてそれを、使ったのです──」
「なっ──!?」
「その為に、多くの我々キルバレスの同胞がその命を落とした。
つまり、あなた様はそれに荷担した《加害者》……となるのです」
「……」
「連れて行け!!」
『ハッ』
噂ではカルロスも聞いていた……しかし、ディステランテからそう改めて言われた事で、カルロスの中でそれらの事がようやく関連付けられ。そのことで、瞬間的に自己喪失に襲われ、そのまま何も考えられぬままに衛兵たちから引きずられるようにして、この最高評議会場内から連れ出されてゆく──。
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