第26話 魔法の果実を、召し上がれっ!(後編1)

 私は、修理した穴を再びあけて外へと出た。幸い、こちら側にはあの大トカゲはいない。 


 私が慎重に身を隠しながら倉庫の入り口の方に回ると、遠くから一匹、あの大トカゲがこちらをうかがっているのが見て取れた。


 恐らくはあいつが宗谷さんの言う、ずっとここを見張っている大トカゲだろう。私達が出てくるのをああやって待っているようだ。まるで巣穴から出てくるネズミを待ち構える猫のように。


 捕まれば、命はあるまい。


 私は息をのむ。

 失敗は許されない。


 一度ポケットにしまってある私の杖をぎゅっと握りしめた。この間お姉ちゃんから受け継いだばかりの、魔法使いの杖。


 これを貰った時、心の底から嬉しかった。私みたいな魔力もほとんどない人は普通魔法使いにはなれない。その力に気づかずに一生を終えることがほとんどだし、気づけたとしてもまともに魔法なんて扱えない、出来そこないの魔法使いと見られてしまう。


 けれどそんな私にお姉ちゃんは魔法を教えてくれた。魔力が少ないことも考えてくれて、私にも出来る魔法というのを丁寧に教えてくれた。


 私は教わった魔法をひたすら練習した。菜園での作業とお姉ちゃんにお仕えする以外の時間で、出来る限りの修行を重ねた。

 その甲斐もあって初級の魔法は一通り習得できた。魔力の少なさだけはどうしようもなかったけれど、それでも魔法使いと名乗ることを許された。


 そしてお姉ちゃんから杖を受け継いだ時に、喜びと同時に責任も感じた。今までは名前だけの魔法使いと言われてもしょうがないような私だったけれど、お姉ちゃんの杖を受け継ぐからには、立派な魔法使いになろうと誓った。お姉ちゃんのような、皆から尊敬される魔法使いになりたいと願った。


 だから私は、ここで逃げちゃいけない。


 私はゆっくりと立ち上がり、目立つように声をあげた。


「おーい! こっちだよー!!」

 声をあげると、あの大トカゲはすぐに反応した。びくっと身を震わせるようにして顔を向け、ぎょろりとした目玉がこっちを見た。その光景に私の方こそびくりと身を震わせてしまいそうだった。


「そ、そらー! ここまでおいでー!! って、きゃっ!?」

 大トカゲを誘い出そうと挑発すると、すぐにこちらに向かって走ってきたのだ。あまりにも事態が急速に動いたので、思わず動揺してしまう。


「こっ、こっちよっ!!」

 それでも何とか気力を振り絞り、出てきた時と同じように倉庫の穴に向かって駆け出す。大トカゲは流石に足も速く、あっという間に距離を詰められていく。

 私は全速力で穴まで戻りながら、大トカゲがやってくるのを待つ。倉庫の裏まで大トカゲが回ってきた瞬間、私は穴に飛び込んだ。


「装果っ!」

 穴に入る私の手を宗谷さんが引っ張ってくれる。中では、皆が緊張した様子で待ち構えていた。


「皆さんっ! 来ますっ!!」

 私の叫び声と同時に大トカゲが穴に首を突っ込むようにして入り込もうとしてきた。

 倉庫にあいた穴の大きさは、子供一人が屈んで通れる程度。大トカゲは案の定つっかえると、そのままバキバキと穴を広げながら突き進んでくる。倉庫の壁も何のそのといった感じで体の半分くらいを既にこちらに入れている。


 私は再び息をのみ、トカゲがこちらに入り込む直前を見計らい、言った。


「今ですっ!!」

 私の掛け声に一斉に皆からわあっ、と声が上がり、皆が掴んでいたそれが引っ張られる。同時に入り込んできたばかりの大トカゲは片足を取られ、大きくバランスを崩した。


 大トカゲに絡みついたのは、あのビニールカーテンだ。


 あの穴から私が逃げ込んで来れば、大トカゲは絶対にそこを追ってくるはずだ。それを見越して罠を仕掛けた。地面にビニールカーテンを這わせ、即席で足を引っかけさせる仕掛けを作ったのだ。全員で左右に分かれ、突っ込んできた大トカゲに合わせてカーテンを引く。


 結果は、大成功だ。


「よっしゃあっ!」

「やりましたっ!」

「装果ちゃんっ! 今よっ!」


 メイドの皆からの声に押されるように、私は魔法を使う。無論大トカゲに魔法をかけるわけではない。あの大トカゲに魔法が効かないことはお姉ちゃんから教わっているし、お姉ちゃんですら苦戦した相手に私が魔法で勝てるとは思えなかった。


 私が魔法をかけるのは、大トカゲの足を取ったビニールカーテン。


「それっ!!」

 引っかけた片足を引きずり込むように、大トカゲの体にぐるりと巻きつけるようにカーテンを動かす。


 カーテンの端を掴むようにして、力を抜いて、お姉ちゃんに教わったやり方で『モノを動かす魔法』を行使した。暴れる大トカゲの力に放しそうになり、けれど何とか持ちこたえ、カーテンを一回転させるような感じで巻きつけた。


「今じゃっ! 引っ張れえぃっ!!」

 ジイヤさんの叫びで巻き付いたカーテンの端を左右から思いっきり皆が引いた。大トカゲはたまらずぎゃあと声をあげて、床に転げて倒れた。


「ぐっ! 凄いっ!?」

「ち、力、強っ!!」

 皆の力を合わせてもまだ暴れる大トカゲを押さえるには不足していた。ぎゃあぎゃあと鳴き叫び回る大トカゲに、皆が歯を食いしばって耐えている。


「こ、のおっ!!」

 私も先端を魔法で掴み、結び目を作ろうと動かすが、大トカゲの暴れる力が強すぎてなかなか上手くいかない。


 とんでもない相手だ。普通の人間じゃ、寄ってたかってかかっても敵わない。こんなのを相手に、お姉ちゃんやダキニさん、薫さんは戦っているんだ。


 だけど、負けるわけにはいかない。私が未熟だからって、ここで引いたら皆の頑張りだって無駄になる。諦めたら、皆が大トカゲに襲われてしまう。


 私が、守るんだ。

 大切な人を、守るんだ。


「くっ、ああああああああっ!!」

 渾身の魔力を込めてビニールカーテンを引き、結び目を作れるように絡める。あとは、先端を引っ張るだけだ。


「皆さんっ! 引っ張って下さいっ!!」


 最後の仕上げに、皆が息を一つにして力を振り絞った。最後の断末魔のように大トカゲからぎゃあと鳴くのが聞こえ、ビニールカーテンが、大トカゲに完全に巻きついた。


「やっ、やったっ!」

 皆が一斉にその場から離れる。大トカゲは片足を巻き込まれており、上手く立てずにじたばたとその場でもがく。工業用規格の頑丈な素材とあって、さしもの大トカゲも引きちぎることが出来ないようだった。


 皆が歓声を上げる。作戦は成功し、ここを狙っていた大トカゲを捕らえることが出来たのだ。


 私もほっとするが、まだ終わっていない。


「行きましょうっ! 今のうちですっ!」

 私の言葉に全員が頷き、ドアの外へと足を向ける。


 皆が駆け出していく中、私の手を自然な形でとるようにして、その人は私の隣に立った。


「装果、ありがとう。よく頑張ったな」

 誰であろう、宗谷さんだった。


「あっ……は、はい!」

 宗谷さんの満面の笑みからの言葉に、私は嬉しくて飛び上がりそうになる。誰よりも声をかけて欲しい人に、一番いい笑顔で、一番いい言葉を貰ったのだ。


 それは以前お姉ちゃんに向けられていた、私が羨んだ笑み。宗谷さんの『特別』が込められた笑み。


 それを、私に向けてくれたのだ。


 感極まって泣きそうになりながらも、歯を食いしばるようにして堪える。まだ、私達の冒険は終わっていないのだ。せめてお屋敷に帰るまでは、しっかりしていなければならないのだ。


「行きましょうっ! 宗谷さんっ!」

 私は大好きな人の名前を呼んで、その人の手を引くようにして、倉庫を後にした。



 外に出ると、見えるところには大トカゲは見つからなかった。お姉ちゃん達や薫さんがひきつけてくれているのか、それともたまたま見える範囲にいないだけか。


 ダキニさんはあの大トカゲは徘徊していると言っていた。それならいないうちに一気に移動しなければ。


「お屋敷まで、一番近い順路で行きましょうっ!」

 そう促して皆で駆けていく。静かに、周りに注意を配りながら、それでも急ぎ足で。緊張の中、幸いなことに一度も大トカゲに見つかること無くお屋敷のそばまでやってこれた。


 たどり着いたのは正面玄関ではなく裏手の通用口。いつも私達メイドが使う方の入り口だ。


「大丈夫なようですね」

 先頭のジイヤさんが周りを確認してゴーサインを出す。周りに大トカゲはいない。皆の顔にも笑みが浮かぶ。


 あと少しだ。


 お屋敷まで、あと少しだ。


 ここまで来ると余裕が出たせいか、お姉ちゃん達の方が心配になってきてしまう。


 お姉ちゃんは凄い魔法使いだし、ダキニさんもいる。絶対に大丈夫だと思うけれど、お姉ちゃんの所から離れる直前に見た大きな黒い影は、大トカゲなんか目じゃない位の危険な何かだった。


 漠然としか見えなかったけれど、大きな鳥のような姿をしていたと思う。


 あんなのを相手に出来るのだろうか。


「装果?」

「あっ、すいません、行きましょう」

 宗谷さんに声をかけられて我に返る。そうだ、まだお姉ちゃんの心配をしている場合じゃない。私達だって安全じゃないんだ。


 私たちはジイヤさんの合図で静かにお屋敷へと駆けていく。通用口まであと少しだ。あと少しで、お屋敷の中に避難できる……。


 本気で、そう思っていた。


「えっ……」

 私だけじゃない、皆も突然の出来事に立ち止まる。人間の本能なのか、それを見た時にふっと息を潜めるように全員が行動をぴたりと止めたのだ。


 だが頭では無駄な行動だと分かっている。息を潜めるなんて今更だ。


 目の前に、あの大トカゲがすっと現れたのだから。


「な……んで……」

 その大トカゲはまるで私達がここに来るのを分かっていたようだった。お屋敷の陰から見計らったように現れ、立ちふさがったのだ。


「待ち伏せ、されたの?」

 誰かがぽつりとそう言った。そんな事があるはずないと誰もが思いたい中、どう考えてもそうとしか考えられない登場の仕方だったのだ。


「あっ!? あっ!」

 また誰かが声をあげる。皆に緊張が走る中、私達の後方から、二体また新しい大トカゲが現れたのだった。


 あっという間に、囲まれた。


 私達はもっと考えるべきだったのだ。


 入り口で私達を見張るようにしていたあの大トカゲ。思えばあいつも賢かった。遠く離れて、私達が出てくるのをずっと待ち構えていたのだから。

 それだけの頭があるのなら、お屋敷の方で待ち構えている大トカゲがいるかもしれないと、どうして考え付かなかったのか。


「そ、そんな……」

「もう、だめ」

 そんなささやきが聞こえる。この状況に、皆が絶望しているのだ。


 一匹だけでも大変なのだ。それが三匹。しかも囲まれている。絶体絶命だった。


「くっ!」

 先頭のジイヤさんが背中で皆を庇うようにしながら歯噛みする。宗谷さんも深刻な事態に震えながら汗を流す。皆、がたがたと震えることしか出来ない。


 私のせいだ。


 私の判断が、間違っていたのだ。


 あの倉庫で、大人しくじっとしているべきだったのだ。お姉ちゃん達が助けに来てくれるまで、ひたすら待っていればよかったのだ。


 そうすれば、こんな事にはならなかった。


 こんな……最悪の事態には……。


「ご……め、な、さい……」

 私は震えながら謝った。

「ごめんな、さいっ……」

 ここまで我慢していた涙が溢れ、止まらなくなって。


 情けない。悔しい。


 私は何も出来ない。


 魔法使いだなんて肩書きも、私には相応しくなかったのだ。


 思い上がりも甚だしかった。


 何が皆の役に立ちたいだ。力になりたいだ。


 その結果が、こんな事に……。


「装果……」

 すっと、誰かが私の前に立った。まるで目の前の大トカゲから私を庇うように。


「宗谷、さん……」

「大丈夫だ。大丈夫だから」

 そう言って、振り返りながら宗谷さんは笑った。ガタガタと震えながら、それでも、背にした私に笑顔を向けた。


 私を、安心させるように。


「栃豊家に仕えて数十年。歳は取りましたが、これでも昔は空手の道を極めようとした身。このようなトカゲの二匹や三匹に、遅れは取りませぬっ!」

 そう言ってジイヤさんも、大トカゲに立ち向かうように構えた。


「そっ、そうよっ! あたしもケンカ強いんだからっ!」

「こっちきたら、噛みついてやるっ!」

「蹴っ飛ばしますっ!」

「そうよっ! あっちいきなさいよっ!!」

 皆が、次々に触発されたように、勇ましい声をあげて奮い立った。


「み、なさん……」

「大丈夫だ、装果」

「私の目の黒いうちは、指一本触れさせませぬっ!」

「装果ちゃん、あとちょっとだよっ! 頑張ろうっ!」

「私たちも一緒だから」

 宗谷さんが、ジイヤさんが、皆が、そう言って私を励ましてくれる。私を勇気づけてくれる。


 そうだ、何を一人で落ち込んでいたのだろう。諦めていたのだろう。


 どんなに絶望的でも、どんなにつらい状況だろうと、逃げないって決めたじゃない。


 こんな時に皆と一緒に頑張らなくて、どうするというのだ。


「わ、わた……私もっ!」

 涙を止めて、前を向く。


 やるべきことは、まだ残っている。


「たっ、戦いますっ!!」

 杖を構え、魔法で火花を大トカゲに向かって放つ。大トカゲはそれに反応して一歩退いた。

「おおっ! ナイスっ!」

「この調子で進みましょうっ! 装果さんっ! 出来るだけ前のやつを脅かして退かせてくださいっ!」

「はっ、はいっ!!」

 私は再び火花を放つ。火の玉を出す魔法は魔力の消費が多すぎるから私には使えない。威力は低いけれど魔力消費が少ない火花の魔法。何とかこれで注意を引き続けなければ。


 火花でも驚かせるには十分な効果はあるようで、大トカゲはぎゃあぎゃあと鳴きながらゆっくりと警戒し後退する。その動きに合わせて、私達も前に進んだ。


 後ろの二匹もいきり立つ私達に警戒し、飛びかかっては来ない。そうだ、そのまま大人しくしていて欲しい。


 じりじりと、少しずつ、少しずつ前へ進む。皆が緊迫した空気を纏って、お屋敷へと近づいていく。


「うっ、く! ふううっ!!」

 けれど私の魔力も限界だった。普段ならもっともつのに、恐らくモノを動かす魔法を使った後だからだろう。疲労が一気に溜まっていく。


 あと、あと少し。


「あっ! がっ! くぅうぅっ!!」

 腕に痛みが走る。無理に魔力を引き出し続けているからだ。本来ならもうとっくに魔法を使うのを止めなければならない状態。使い続ければ、体の方に限界が来る。


 でも、もう少し。もう少しだけ。


 あとほんの少しだけでも。


「あっ……」

 ふっと、自分でもはっきりそれと分かるくらい、自分の中の魔力がなくなったのに気付く。火花が消え、大トカゲはそれを見計らっていたかのようにぐっと力を込めた。


 飛びかかる大トカゲ。誰もが最悪の事態を思い描く。


 宗谷さんが私を庇い、ジイヤさんが構えて、皆が身をすくめる中……。


 一本の白い槍が、飛びかかってきた大トカゲを刺し貫いていた。


「えっ!?」

 胴体を貫かれた大トカゲは槍の勢いに飛ばされながらも、驚愕したようにそちらに目を向けていた。


 貫いた槍が大トカゲの魔法を無力化する力で粉になる。舞い散るそれが小麦粉であると、私達はすぐに気づけた。


「悪いな。ちっとばかし手間取っちまってな」

 槍を飛ばした主の声が聞こえる。私たちの後ろから、ロングの黒髪を揺らして悠然とした足取りで彼女は現れた。


 あ、いや、正確には彼、なのだけれど。


「ギリギリ、間に合ったって所か?」

「薫さんっ!!」

 皆の顔がわあっ、と輝く。この場面で、この人ほど頼もしい存在はいない。


 お屋敷の元ボディーガード、そして、今は専属コックの凄腕魔法使い。


「よく持ちこたえたな、装果の嬢ちゃん」

 薫さんはそう言って咥えていたタバコに触れることなく火をつける。薫さんお得意の火の魔法だ。


「こっからは俺が引き継ぐぜ」

 薫さんがそんな風に言う間に体勢を整えていた一匹が、薫さんに飛びかかった。私達が危ないと思う間もなくその大トカゲの首に白い布が巻きつけられた。


 布、ではなく、布のように固められた小麦粉だった。


 首に巻きついたソレを引っ張るように、薫さんは大トカゲをぶんと空高く放り投げた。それを追うようにして舞い散る火の粉の鱗粉。続いて爆音、爆風。


 大トカゲは、空中でその命をあっさりと散らしていた。


 残った一匹は薫さんとの力の差に恐怖を抱いたのか、くるりと向きを変えて一目散に逃げようとした。だが、その行く手には火の壁が現れ、再び向きを変えようとしたところで再び火の壁。


 大トカゲを中心に、火の渦が巻き起こっていた。


「お前らに恨みはねえが、うちの連中をたっぷりと怖がらせてくれた礼だ」

 火の渦が狭まっていく。大トカゲはぎゃあぎゃあと鳴きながら狭められる熱風の壁に押しつぶされていく。

「じっくり中まで火を通してやるからな」

 大トカゲに触れる部分から魔法は無効化されているはずだが、火の壁は一向に消えることなく、消えた分だけまた厚みを増して大トカゲを包み続けている。


 大トカゲは暫く暴れていたが、身動きが取れない状態で、ついに無効化が出来なくなったのか、一気に燃え上がり、けたたましく鳴き叫びながら火の渦と一体化するように巨大な火柱となっていった。


「と、全員無事か? けがはないか?」

 そんな凄まじい光景をよそに、薫さんは私達に歩み寄ってきた。


 これが、本当の魔法使いの力なんだ。


 私は改めて、その凄さと途方も無さを感じるのだった。

 私がここに至るには、一体どれだけの時間が必要なのだろう。


 ……いや、元々魔力のほとんどない私では、きっと生涯到達できない所だ。


 本当に、敵わないなあ。お姉ちゃん達には。


「装果の嬢ちゃんも、よく頑張ったな。初級魔法使いとしちゃあ上出来だ」

 薫さんはそう言ってくれたけれど、私はその言葉に首を振った。


「いいえ、私だけじゃありません」

 そうして、ほっと一息ついている皆を見て、言った。


「皆で、頑張りました」

 私一人の力じゃ、ここまでたどり着くことも出来なかった。

 宗谷さんが庇ってくれたから、ジイヤさんが鼓舞してくれたから、皆が勇気を出して、一緒に立ち向かってくれたから、私は頑張れたのだ。


 魔法使いの私一人が頑張ろうだなんて、思い上がりだった。


 最初から、皆がいてくれたというのに。

 誰かを助けたい、力になりたい、頑張りたいという思いは、みんな一緒だったのだから。


「そうか……そりゃあ、何よりだ」

 薫さんは私の言葉に目を細めてこの上なく嬉しそうに笑うと、ぽんと私の頭に手を置き撫でてくれた。


「よーし、じゃあごたごたが片付いたら、うちのやつら全員でバーベキューパーティーだ」

 薫さんはそう言って、不敵に笑う。


「滅多に手に入る肉じゃねえからな。楽しみにしておけよ」

 薫さんの言葉に、全員まさかとさっきまで火の渦にのまれていた大トカゲを見た。


 こんがりいい具合に焼けたその姿に、流石は薫さん、と誰もが思わずにはいられなかった。

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