第4話 魅惑の果実(前編)
ここは私の部屋。
白と落ち着きのある色で全体を覆い、机や棚、その他の小物の茶色が木の質感を感じさせる。清潔で落ち着いたちょっと大人な部屋。と自分では思っている。
その部屋の天蓋付きベッドに腰掛けて、床に正座で座り込みながらお茶を飲む彼女を見つめる。
「結構なお点前です」
カーペットに正座で座る彼女も異質ながら、ガラスのコップに入った緑茶を湯呑みのように啜る姿も異質。というより、彼女自身の存在が異質。
「この茶は冷たくてそれでいてよく風味も溶け込んでいます。手間暇かけて作られたのでしょうね。これを入れた方は、よほど茶に精通した人物なのでしょう」
そんな事を笑顔で言ってくる。爽やかな笑顔なのだが、爽やかすぎてそれが社交辞令なのか本心からなのか区別がつかない。
あとそれ、冷蔵庫からペットボトル出している所見たから市販のお茶よ。美味しいのはメーカーの努力だから、間違ってはいないのかもしれないけど。
何故こんなことになっているか、今から話そうと思う。
――
「あ、あく……」
装果が震える声で呟く。恐らく『悪魔』とでも言おうとしたのだろう。私もまったくの同意見だ。
ダキニ、と名乗った彼女を前に、私と装果は動揺を隠せなかった。
彼女の纏う雰囲気は、私達とはどこかかけ離れた印象を与える。次元が違う、という言葉で片付けていいのか分からないが、少なくとも私達が普段絶対に出くわさないだろう何かであることは間違いなかった。
その美しく整った顔に鋭い目。人間離れした質感の白髪に異形ともいえる装束。そして飾りにドクロ。
こいつはやばい。本能的にそう思った。
その彼女が一歩踏み出す。
私も装果もその動きにびくりと反応する。私は咄嗟に、怯えている装果を背中で庇うように動いた。逃げ出したい気持ちでいっぱいだったが、心の中に残っていたお姉ちゃんとしての矜持が私にそうさせた。
その様子を見て、ダキニと名乗った彼女はぴたりと動きを止める。
そして、しばらく私を見つめ……。
「え?」
「お会いできて光栄です。我がマスター」
その場で片膝をつき、私に向かって恭しくこうべを垂れてそう言ったのだ。
「あ、は、はい……」
それに対して思わず敬語で答えてしまう私。
「あなたにお仕えする日を、長年夢見ておりました」
面を上げた彼女の顔には、紅潮した頬と潤んだ瞳。なかなかに艶っぽい表情だ。まるで恋する乙女のような顔だと思った。
私と装果は、思わず顔を見合わせる。
「え、ええと、あなた、私の使い魔、よね?」
私が自信なさげにそう聞くと、彼女はにこりと笑ってこう言った。
「はい。私はマスターに仕える使い魔です。マスターに心よりの忠誠を誓います。何なりとお申し付けください」
お、おおお。
これはまた凄いことを言う。
「そ、そう。私の使い魔なのね。よく来てくれたわ。これからよろしくお願いするわ」
私は彼女の持つ雰囲気にたじろぎながらも、召喚自体が成功したことにまずは安心した。
魔法使いの呼び出す使い魔は、大まかに分けると3種類に分別される。
一つは命令を聞き、実行する機械のような受け答えのタイプ。ヒト型以外に多い。
これは楽だが複雑な命令はこなせないし、不測の事態に対してはその都度こちらから指示を出さなければいけない。要は、考える脳をあまり持たないタイプだ。
もう一つは命令は聞くが、それよりも本能を優先してしまうタイプ。これもヒト型以外に多い。
複雑な命令も理解できるほどの頭脳を持つが、命令を実行するかは本能しだいという気まぐれさももつ。獣っぽい見た目のやつは大抵がこれだ。
そして最後は、命令を聞くかどうかはその個体と、主人との関係次第という完全なヒト型タイプ。
ヒト型に近づくにつれ知能が高くなり、命令を理解できる範囲も大幅に増える傾向にあるが、そのかわり感情に従って行動することが多くなる。つまり、完全に実際の人と人との関係になるのだ。信頼関係が無ければ命令は聞かないし、気が進まなければ抵抗する。ある意味使い魔としては一番扱いづらい部類だ。
恐らくこのダキニは最後のタイプだ。見た目は完全に人だし、知能もかなり高いだろう。
そして肝心の信頼関係。使い魔は呼び出した時点で呼び出した人間に対し自分の親や兄弟のような信頼を初めから持っていると言うが、このダキニを見るにどうやらそれ以上。忠誠心のようなものさえ感じる。
これは、とんでもなく優良な使い魔を呼び出せたのかもしれない。
「じゃ、じゃあ、そうね……まずは、えーっと」
早速何かを命じてみようと思ったが、今させる仕事がない。というより知らない。これから私が梨を育てるうえで必要になるだろうと思って呼び出した労働力なのだから、私が何をするかを理解していない現状では指示の出しようもないのだ。
「うん、ひとまずうちに来なさい。まずは歓迎するわ」
私がそう言って笑いかけると、ダキニは優しく微笑み返し、私の招待を受けた。
――
そうしてうちの屋敷を一通り案内し、今は私の部屋。
装果は一旦菜園の仕事に戻し、ダキニと一対一で向き合っている。一対一と言っても、立ち位置からしてベッドの上に座る私が上、カーペットに座る彼女が下という主従の図式は出来上がっている。
「それで、えっと……どう? 我が家は」
私は彼女ととりあえず打ち解けようとして笑顔で話しかける。まだ彼女の纏う雰囲気になれず、ちょっとおっかなびっくりな所はあるけれど。
「はい。流石はマスターのお屋敷ですね。広くて立派で、使用人の者達も皆明るく気さくそうでした」
まるで淑女のような綺麗な受け答え。ううむ、丁寧で好感が持てるのはいいけれど、何か底が見えない不気味さがある。
「そう。あなたもゆっくりくつろいでくれるといいわ。ちゃんと部屋も用意するから」
「いいえ、それには及びません。私はマスターのお傍にずっとお仕えしますから」
そう、こんな風にさらりと模範解答のような答えを……。
「ん? 今あなたなんて言った?」
「マスターのお傍にお仕えするので、部屋は必要ありません」
ダキニはその鋭い目でにこりと微笑む。彼女の白い髪はそんなちょっとした動作でもふわりと揺れる。
「え、いや、その気持ちは嬉しいけれど、あなたもずっと四六時中私の傍にいると大変でしょ? 遠慮せずに自分の部屋を持ちなさい」
「お気持ちはありがたいのですが、マスターのお傍を離れるわけにはまいりません。いつ何時賊が押し入らないとも限りませんし」
賊って、今時そんな言い方しないわよ。
「これからは、お食事でも、お風呂でも、お休みでも私がお供致します。ですからどうぞ安心してお過ごしください」
胸に手を当ててうっとりとした表情でそう告げるダキニ。いや、ちょっと待ちなさい。その仕草さっきの台詞と合わせると怖いんだけれど。
「今後はマスターのお世話は全て私にお任せ下さい。服の着替えから、その、アレのお世話まで喜んで致しますので」
ポッと頬を染めてそんな事を言い出すダキニ。っておいおいおい!
「ちょっ、アレって何よアレって!? お世話とかいいからっ! あなたには農業を手伝ってもらえればいいからっ!」
「遠慮はしなくてもいいんですよ? 私はその、同性でも大丈夫ですので」
「余計悪いわっ!」
な、何なんだこのダキニという使い魔は。
妙に大人しく下手に出ていると思いきや、突然、脈絡もなくこんな事を言い出したり。
「というか、あなたは一体何なの!? そこから詳しく話しなさい!」
「はあ、私はダキニです」
「それはさっき聞いたわよ!」
ふふふ、と笑うダキニ。いかん、完全にペースが狂わされている。
この意図的にとぼけたような態度。そしてとらえどころのない独特な雰囲気。異形の装束。こいつは、ちょっとやばい奴だったかもしれない。
「……言っておくけれど、私はあなたのマスター。呼び出した使い魔は私の魔力を糧に生まれたもの。だからあなたが何であれ、私がその気になれば消滅させることも出来るのよ」
「ええ、知っていますよマスター」
私の脅しにも動じる様子を見せない。肝も据わっている。
「これは警告よ。私の大切な人たち……お父様と、うちに仕えているみんなを傷つけたら許さないからね」
私は杖を取り出し、ダキニに向ける。一応の威嚇のポーズだ。
流石の私でも、人として意識を持っている使い魔を消したりなどしたくない。けれど、もし私の周りの誰かを危険にさらすことになれば、容赦はしない。
これは、使い魔を呼びだした魔法使いとしての責任だ。
「お優しいのですね、マスター。下々の者にまで気にかけるなんて」
「下々? 私はそんな風には思ってないわよ。うちの屋敷の人は、みんなあたしの家族みたいなものなんだから」
私がそういうと、ダキニはその笑みを引っ込めた。鋭い目が私を真っ直ぐに捉える。それだけで結構なプレッシャーが私にかかる。
やっぱり怖い。
「そうですか。いえ、失礼しました。マスターを侮っていました」
そう言って居住まいを正し、そのまま頭を下げた。カーペットに正座したままの姿勢でそうしたものだから、それはどこからどう見ても土下座にしか見えないわけで……。
「い、いや……何よ突然! そこまでしなくていいってば! 分かればいいわよ、分かれば」
私はペースを乱されっぱなしで混乱する。時々こちらを馬鹿にしたような態度を取ったり、からかったりしながらも、何故かこのダキニは低姿勢で私に『服従』する姿勢を見せている。
何か騙されているような気もするが、私に仕える姿勢はどうにも本気な気がする。一体何だというのだろうか?
「……じゃあ、さっきの続き。まずはあなたの正体をはっきりさせておきましょうか」
私は勤めて冷静に聞こえるようにそう言った。
「あなたは誰? 出来れば名前だけじゃなくて、えっと、素性も知りたいから何か話して」
「誰、ですか。先ほども言いましたが、私はダキニです。地方によってはダーキニーや
「そう……ん? ダーキニー?」
記憶に引っかかる単語が出てきた。
「よく稲荷などとも呼ばれていました」
「……は? え?」
稲荷って、お稲荷様の事よね?
「ちょ、ちょっと待って!」
私はベッドから降り、涼しい顔をしている彼女の前を通って急いで自分の机まで向かう。ノートパソコンを開き、素早くキーボードにダ、キ、ニと打ち込んだ。
「マスター、それは何の魔法ですか?」
「魔法じゃないわよ、科学よ。って、ダキニって!?」
インターネットで検索をかけると、すぐに出てきた。
【ダキニ】
ダーキニー、荼枳尼(だきに)は仏教の神で天部の一人。インドのヒンドゥー教の女鬼に由来し、日本では稲荷信仰と習合して荼枳尼天と呼ばれる。
「……あなた、神様っ!?」
私は改めてダキニを見る。
人であるのに人ならざる気配。おかしな格好に捉えどころのない態度。
すべてに説明がついてしまうような気がした。
「ええ。神様ですよ、マスター」
「ひ、ひええっ」
変わらずにっこりとほほ笑む彼女に、私は再びたじろいだ。
初めて見る神格を持った使い魔。私がついさっき、ちゃちゃっと呼び出した。
……いや、そんなバカな。
「う、嘘でしょ!? そんなわけ……そんなわけないわっ!」
神格を持った使い魔とはその名の通り、神様として崇められる地位、またはそれに仕える者の名を持つ使い魔の称号である。歴史に名を残す大人物から、はたまた神話や伝説にしか登場しないような超大物まで含まれる。
そう、使い魔として最上の、そして、破格の存在なのだ。
「おいそれと神様なんて呼べるわけないじゃないっ! 呼び出したのは私よ! 神様を呼ぼうなんて気はこれっぽっちもなかったし、それに、私の歳でろくな準備も無いのに神格の使い魔を呼んだなんて、前代未聞よっ!」
「ええ、流石は私のマスターです」
「そのさらりと流すのやめてよ!」
あい変わらずニコニコと笑う私の使い魔、ダキニ。
「何をおっしゃいますか。マスターは、偉大な魔法使いです。私のような神を何の準備もなく呼び出すなど、筆舌に尽くしがたいほどの才能です。流石は私のマスターと誇りに思います」
「だ、だから無理なのよそんな事、本来は……」
そう、いくら才能豊かで美人の私でも、そんな事は不可能に近い……。
「ですが全く前例がないわけではないでしょう? 例えなくても、マスター程の人物なら、歴史を塗り替えるほどの偉業を成し遂げても、何ら不思議はありません。使い魔である私には分かります。マスターほどの才があれば、これくらいのことは容易く出来るのだと」
「え? あ、ああ、そ、そう?」
そう言われると、何だかあり得ないことではないのではないかと思えてきた。
「ま、まあ確かに? 前例はほとんどないけれど、準備なしで神格を呼び出した熟練の魔法使いの話はあるし、不可能ではないのかもね」
「そうです。流石聡明なマスター」
ふ、ふふ。やっぱり私ってすごいのね。
「と、いうわけです。私が何者かは理解していただけましたね」
そう言ってふふふと笑う私の不敵な使い魔。姿勢よく正座しながら涼しげな顔をしてこちらを見つめる。
私は机に備え付けの椅子に、ゆっくりと腰を下ろした。
「え、ええ。神様……なのよね? あなた、曲がりなりにも」
実は結構失礼な事を言っている気もするが、この際そこは置いておこう。
「はい。ですがマスター、私は神である以前にマスターの使い魔です。ですからどうか気兼ねなく、私に命じる主として振舞ってください」
お、おお。こ、これはすごい。
ひょっとして神様と知れたら、こっちが敬語を使って敬う側になるかと思ったが、この優秀な使い魔ダキニはそれでも私を主と崇めてくれるらしい。
という事は私、神様に崇拝されるほどの魔法使いってこと?
いや、これは紛れもない偉業だ。何の準備も無しに神格を持つ使い魔を呼び出せたのだ。これを発表すれば、魔法少女試験を免除して魔法少女になることも可能なのではないか?
すごい、本当にすごい!
「そ、そう。じゃあ遠慮なく私はあなたの主として、色々命令させてもらうわ」
「はい。マスターの御心のままに」
そう言って再びかしずくダキニ。ああ、やばい、凄い気持ちいい。
「なら早速、あなたの生い立ちを聞かせてもらおうかしら?」
私は椅子に座ったままの姿勢から足を組み、主としての初めての命令を下す。ああ、何という破格の優越感。
神格の使い魔の話ともなれば、その内容は神話の中身そのものだ。むしろ当事者からの視点なのだから、そこいらに転がっている伝承など霞んでしまうほどの価値がある。歴史学者が涎を垂らし、喉から手が出るほど聞きたい話を、贅沢に聞いてあげようじゃないの。
そう思って命令したのだ。
ところが……。
「覚えていません」
爽やかな笑顔と、よく通る声。神格ともなれば話の出だしからして違う……。
「え? 何ですって?」
「申し訳ありません。覚えていませんので話せません」
しばしの沈黙。沈黙を破ったのは、ダキニの茶を啜る音。
「……はああ!? 覚えてないってどういう事よ!?」
「さあ、何故でしょうね? 記憶喪失ですかね」
大胆不敵に、子供がつく嘘のようなすっとぼけ方をする我が使い魔。顔だけはいっそ嫌になるほどすがすがしい笑顔で。
「いやいやいや! ちょっと待ちなさいよ! あなたやっぱりダキニじゃないでしょっ!?」
私はびしっと指を突き出して、今も呑気に茶を啜るこの謎の使い魔に向けた。
「危うくおだてられて流される所だった! あなたがダキニだって証拠、何にもないじゃない! 神格なんておいそれと呼べないわ! やっぱりあなた、何か嘘ついてるでしょ!」
「困ったマスターですね」
ふう、とため息を吐くダキニ、いや、ダキニかもしれない彼女。
「私がダキニか、ダキニでないかなど証明しようがありません。私がダキニと言うのですから、いいじゃないですか、ダキニで」
「な、何よその適当な言い方っ! 私は絶対認めないからねっ!」
「では、マスターは私を何だと思うのですか?」
突然の切り替えしに、私は虚を突かれる。
「何って……何か分からないけれど」
いや、本当はある程度分かっている。
この使い魔は、普通の使い魔ではない。
使い魔は呼び出した後も術者と魔力的に深い関わりを持つ。使い魔の魔力の源は、元は術者のものだからだ。
だから呼び出した私にはわかる。
この使い魔、ダキニと名乗った彼女からは、途方もない力を感じる。それこそ今まで体験したこともないくらいの強く、温かい力。
私はこれまでに何度も召喚術を使い、使い魔を呼びだしてきたが、それとは次元が違う。根本的な何かが、違っている。
そして初対面で見せたあの圧倒される雰囲気。間違いなくこいつは『別格』だ。
「それに私が何であれ、この身はマスターに忠誠を誓った身」
彼女はコップを置いて立ち上がると、そのまま真っ直ぐこちらに歩いてきた。私の前に立つと、成程私よりも背が高くて威圧感があるが、不思議と見下されていたり、見下ろされているという感覚はなかった。
それはどちらかと言えば、遠い昔に感じたような、懐かしさ。
見守られている、というような感覚が近いだろうか。
……何か、引っ掛かりを覚える。
「先ほども仰っていましたが、意にそぐわない時はマスターの手で私を葬ってもらって構いません。私の身も、心も、マスター、貴方のものですから」
その場でひざを折り、再び私の前で忠誠を誓う彼女。恭しく私の手を取り、その上にそっと口づけをして。
近くで見ると、改めてこの使い魔の容姿が飛び抜けているのが分かる。その奇妙な格好を除けば、白く長い髪は毛皮のように美しく、その顔つきも彫刻のように整っている。胸も結構ある。文句なしに美人だ。これが普通の人間なら。
「……どうして私に忠誠を誓うの? 使い魔として呼び出されたから? それに……そう、思い出した。あなた最初に会った時に、長年仕えるのを夢見ていたとか、そんなこと言ってたわよね」
そうだ、私は確かにこいつがあの場でそう言ったのを聞いたのだった。
「まるで私を昔から知っているような口ぶりだった。あれは何?」
私の言葉をゆっくりと噛みしめるように、彼女は静かに顔を上げ、したたかにこう言った。
「すいません。それも、記憶喪失です」
少し困ったような、それでいてどこかとぼけたような、底の見えない笑顔。けれども、そこに敵意も悪意も感じられない。彼女の澄んだ瞳は、私を真っ直ぐに見つめている。
私が騙されやすいだけかもしれないが、この笑顔は、信用してやってもいいと思えた。
どうやら私の根負けだ。
「ああ、分かったわ。あなたは『ダキニ』。ダキニってことにしておくわ」
「はい。ありがとうございます、マスター」
私のため息交じりの言葉に、ダキニはこれ以上ないくらいの笑顔を返してくるのだった。
これが、私の農業奮闘記の一日目になる。
農業奮闘記と言ったのに、この日は農業そっちのけでダキニ、つまりダーキニーの詳細を調べる作業で残りの時間を費やした。インターネットで調べられるだけ調べて、お父様の書斎の本も借りたりした。
自分は記憶喪失だなどと言うポンコツ使い魔の尻拭いは、当然だが呼び出した魔法使いである私の仕事になるのだ。仕事をさせるためにこいつを呼んだというのに、逆に仕事を増やされるとか全くもってとんだ誤算だった。
それでいくつか分かったこともあるのだが、それはまたおいおい話していくとしよう。
初日でもうひとつ苦労したことと言えば、私と一緒に寝ると言って聞かなかったダキニを、何とかあてがった部屋に押し込んだことだろうか。
私の魔法少女への道は、まだまだ遠い。
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