実験少女とおっさん騎士

甘枝寒月

第0章 出会い、そして始まる。

第1話 背信の研究

 大歴4096年9月4日。

 その日、騎士団は合同部隊で街道に居た人を襲う魔物を倒し、王都には普段の半分くらいの部隊しか残っていなかった。だからだろう。普段なら別の隊が引き受けるハズのあの任務が俺たちの部隊に任されたのは。

 そして、この日を俺——糸井川大地は一生忘れないだろう。


「目標施設を確認しました」

 部下の中村から報告が入る。

「わかった。二重ふたえ、頼む」

 それを受け、魔術で中を探るよう指示を飛ばす。

「了解。一葉知秋、察知!」

 一瞬、彼女の周りが青く輝く。そして、次の瞬間には施設が丸裸にされた。

「タレコミ通り。ここの施設、違法研究している。内部の人員、20名ほどの研究員、子供5名。あと……」

 二重が珍しく言い淀む。

「あと、よくわからない、2名。恐らく子供?」

「おそらく? ……内部での研究に関係あるのか?」

「わからない」

「……まあ、ここでこうしていてもしょうがないか。突入!」

 その命令で、部下が一斉に施設に突っ込んでいった。扉を強引に破壊し、内部の研究員を抵抗する間もなく取り押さえる。

「騎士団だ! ここで違法研究がされていることはもうわかっている。後ろ盾の大臣ももう逮捕された。抵抗は無駄だ」

 その言葉で全てを悟ったのか、研究員達はおとなしくなる。

「隊長! 研究員によると、被験者が奥にいるらしいです! おそらく二重の察知の子供かと!」

「わかった! 二重。先導してくれ」

「了解!」

 二重の案内で、施設を進む。その先には、少し大きめの部屋があったので。そこに入ると、そこには3人分の人影があった。

 1人は、亜麻色の髪に紅い目の少女。1人は、黒髪に黒眼の少女。おそらく、被害者だろう。そして、もう1人は。

「官九郎……?」

 俺の親友、賀茂川官九郎だった。


「官九郎、なんでお前がここに」

「変なことを聞くなよ、大地。 俺はここで研究をしていたんだ。そしてこの子達が研究の成果だ。俺の夢だ!」

「お前の夢、だと!?」

 少女達に目をやると、驚かせたのか官九郎の陰に隠れる。その時、亜麻色の少女の頭に、犬のような耳がついているのを見てしまった。慌てて黒い少女を見ると、気づきづらいがその瞳孔が縦に割れていた。

「官九郎、この子達に何をした!」

「大声はやめろ。この子達は音に敏感なんだ」

「わ、悪りぃ。じゃない!」

 いつもの通りに叱られたからか、つい立ち話でもしているような気分になってしまう。

「そのくらいの声なら大丈夫かな。お前には前に話したことがあるだろう? 俺の夢について」

「ああ。魔物による被害をなくしたい、だよな。忘れてない」

「そう。そしてお前も同じ夢を持っていた。そのために騎士になって、魔物を倒している」

「そうだ。……それに、何の関係がある」

「だが、それじゃダメなんだよ。お前達が戦うだけじゃ、ただ対処療法にしかならない。人間1人1人が魔物に対抗できるようにならなくちゃいけないんだ」

「……」

 確かにそうだ。俺たちが戦っても、その前に人が襲われていたり、間に合わなくて手遅れになったり、手の及ばなかったことはいくらでもある。

「だから。……だから、この子達なんだ。子供のうちに魔物の細胞を上手く移植すれば、その力は体に馴染む。全人類が魔物の力を持てば、人は魔物に対抗できる!」

「な!?」

「大地。俺は間違っているか?」

 官九郎は、微笑んできた。

「……分からない」

 人間が生き残るには、その道しかないのかもしれない。

「だが。……だが、俺はいやだ。人は人のままで生きていくことに意味があると思っている。魔物の力ではなく、人の力で生きていくことに」

「『人』に変わりはない! とは、思ってくれないか」

「ああ。残念だ」

「そうだな。残念だ」

 なぜ。なぜこうなってしまったのか。あの時酒を酌み交わしながら語った夢は同じだったはずなのに。

「大地。残りの子はキメラ化していない。あっちにいるから保護してあげてくれ。それと、この子たちをよろしく頼む」

「ああ」

「いやだ、とは言わないんだな」

「わかってて言ってるだろ?」

「勿論だ」


 その日、その施設からは7人の子供が保護され、5人はカウンセリングののち民間の施設に。キメラとなっていた2人はーー

「隊長さん!」「隊長さん」

「ああ、なんだ?」

 不用意に外に出すわけにもいかず、俺たちの部隊預かりとなり騎士団の寮で暮らしている。

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