第30話 半舷上陸?


 アウロスの体高は18m程だ。

 その姿がはっきりして、顔の目を確認した時に、75mm砲が一斉に火を噴いた。

 立て続けに6発放つと冷却用の炭酸ガスが砲身から放出される。

 生憎と、アウロスの脱落は無いようだ。

 命中せずに、至近弾だったらしく血を流しながらこちらに迫ってくる。少し距離が長すぎたようだな。


「アリス行くぞ!」

『了解です。マスターの選択で発射します!』

 

 何時の間にか、泥濘が浅くなっている。後数kmで泥濘地を逃れる事が出来るだろうが、そこにいるのがアウロスなんだよな。

 大口を開けて突進してくるアウロスの口内にレールガンを撃ち込む。

 ミディアム設定の弾速は秒速4kmだ。下顎だけを残して頭が吹飛んだ。

 次のアウロスに狙いを付けると、腹に弾丸を発射する。50cm程の穴が空いて背中の肉を盛大に抉り取る。

 その場に倒れたアウロスにサンドワームが群がってきた。何かグロイ光景だな。


 3発発射したところで、75mm長砲身砲がアウロスを指向する。続けざまにシリンダーの弾丸を全て発射すると再度装填モードに移る。

 今度は数百mの距離だから、4頭のアウロスが泥濘の中に転倒している。さらに接近してくるアウロス目掛けてレールガンを放った。

 

『アウロスの群れの中を突破しました。周囲30kmに巨獣反応無し! 僚艦を応援しますか?』

「とりあえずベラドンナに飛ぶぞ!」


 その場で大きく跳躍すると、反重力アシストで距離を伸ばして、ベラドンナの装甲甲板に降り立つ。

 75mm連装砲6門が次々と砲弾を放つが、炸裂弾を使用しているためなんだろうか、相手にあまりダメージを与えていないようだ。

 レールガンを続けざまに発射してアウロスを倒していく。

 6頭倒したところで、泥濘地を脱けだした。

 後は、ヴィオラだがあっちにもレールガンはあるからな。

 ここで今回の戦闘は終了って事で良いだろう。


『ベラドンナのブリッジから、感謝するとの連絡です。それと、ヴィオラから帰艦指示が出ています』

「とりあえず終了って事だろうな。戻ろう!」


 ベラドンナの艦橋に片手を上げると、ヴィオラに跳躍する。

 ヴィオラの装甲甲板には、もう戦機が残っていない。かろうじて昇降装置に乗ったベラスコが頭だけ出して俺にライフルを振っていた。

 反対側の昇降装置にアリス乗ると、ゆっくりとカーゴ区域に下り始める。

 ハンガーに固定されたアリスから下りると、ベルッドじいさんが俺を待っていた。


「判っちまったか?」

「しょうがないですね。40mmAPDS弾ではアウロスを止められません」


「まぁ、しょうがあるまい。……で、どうする。今後も40mmを使うのか?」

「そうですね。通常弾を使いますよ。爆裂するなら、色々と使い道はありそうです」


「そうじゃなあ……。注意を引くなら、もっと口径が大きい方が良いんじゃが、仕方あるまい。弾頭の炸薬量だけ増やしておくぞ」

「すみません。何時も迷惑をお掛けします」


 ドワーフの老人は、俺を見て笑いながら俺の肩を叩いた。

 ベルッドじいさんの趣味みたいなものなのだろうな。俺は頭を下げて、カーゴ区域を後にした。


 待機所に行くと、そこは酒盛りの最中だった。もう、警戒態勢は解除されたのだろうか? 俺がソファーに腰を下ろすなり、ビールが渡された。


「とりあえず、全員無事で良かった。そして、王女様の腕もたいしたものです。あれだけ距離が離れていても倒せるんですからレールガンは素晴らしいですね」

「撃つ位は出来るのじゃ。リオのように僚艦を跳躍して巨獣を倒すことなど出来ぬの残念じゃ」


 王女様もそれなりに活躍出来たという事か。となると、サーフィン計画は上手くいきそうだぞ。ドミニクの母親の事だ。きっと良い物を作ってくれるに違いない。

 

「それで、警戒態勢は解除されたんですか?」

「ああ、泥濘を出て直ぐにな。巨獣達は泥濘を目指して集まってるようだ。その反対方向に進んでいるんだから、しばらくは安心だ。もう1時間もすれば再び鉱床を探査し始めるさ」


 それなら、俺は一眠りしよう。朝早くに起こされたから、眠くなってきたぞ。時間的には、中途半端な時間だ。まだ19時だからな。

 部屋に戻るとシャワーを浴びてベッドに入る。夕食はお腹も空いていないから、このままで良いや。

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 ふと目を覚ますと、ヴィオラは停止している。

 という事は、鉱石試掘の最中なんだろう。200tパージと100tパージを曳いているからな。たっぷりと採掘できる筈だ。

 フレイヤ達は採掘が終了するまで、周囲に目を光らせているのだろう。

 円盤機があるといっても、それに頼るのは問題だ。何時、どんな巨獣が来るとも限らない。

 ベッド際の時計は午前5時半を示している。少し腹が減ったけれど、食堂が開くのは6時半前後だ。

 着替えを済ませると、ソファーに移動する前にコーヒーセットで、マグカップにコヒーを入れた。

 船窓からは隣のベラドンナの姿が、ようやく顔を出した朝日に光っている。

 のんびりとタバコに火を点けると、端末を操作してスクリーンを展開した。

 拠点を出てからのコースを見てみると、大きく四角形を描くように東に進んでいたようだ。後500km程進んで北に向かえば拠点に着くだろう。泥濘を避けて大きく迂回したところで鉱床を見つけたんだな。


 6時を回ったところで食堂に向かう。

 こんな時間でも客はいるようだ。すでに数人の客がテーブルで朝食を取っていた。開店時間より早いから、食堂担当の連中にすれば迷惑な客だな。


「こっちじゃ!」

 王女様の元気な声に、艦首の窓際のテーブルに行くと、王女様とリンダが朝食を食べている。

 野菜サンドに柑橘系のジュースとは健康的だ。テーブルの開いた席に座ると、やって来たウエイトレスの少女に何時もの朝食を頼む。


「昨日はおもしろかったのう。久しぶりに戦機との違いを見せてやったぞ」

「殿ですからね。バージも大型ですから、王女様がいてくれて助かりました」


 俺の言葉にうんうんと頷いている。

 根は良い子なんだよな。ちょっと口調が問題だけどね。


「軍の55mm砲よりも長砲身の50mmは威力がありますね。艦のドワーフに早速、作ってもらうことにしました」

 

 リンダも、それなりに思うところがあったようだ。

 

「それなら、俺が貰っても良いかな? 40mmだと、砲弾の炸裂が小さいんだ。あまり巨獣が注意を払ってくれなくてね」

「殺すならレールガンを使えば良いのじゃろうが、確かに40mmはグレネード並みじゃからのう。リンダの55mmを使うが良い。我が進呈するのであれば問題はなかろう。マガジンは5発じゃぞ!」

「十分です。後でベレッドじいさんに相談して見ます。炸裂が倍以上になるでしょうし、煙幕なんかも張れそうです」


 良い物を貰ったな早起きは三文の得とはこんな事なんだろう。そんな話をしながら、俺達の朝食が終った。



 食堂を出ると、王女様とリンダを連れて待機所に向かう。

 そこには誰もいない。まだ早いし、獣騎士達は採掘に励んでいるからね。


 俺達のソファーに腰を下ろすと、リンダが紅茶を持ってきてくれた。

 コーヒー党なんだが、折角入れてくれたんだからお礼を言って飲み始める。

 コーヒーとは違って、香りとほのかな苦味が良いな。これはストレートで頂こう。

 2人を見ると、ミルクを入れている。あれだと飲んだ後に水が飲みたくなりそうだ。


「昨日、カテリナ博士から連絡が届いたのじゃ。次の出撃には持って行けそうじゃが、練習はせんといかんようじゃ」

「王女様はサーフィンをした事があるんですか?」


 俺の質問にふるふると首を振った。


「生憎と、見た事があるだけじゃ。だが、何とかせねばなるまい。こう見えても、スポーツは得意なのじゃ」

 

 にっこり笑いながら答えてくれた。

 ホントかな? って感じは残ってるんだが、場合によっては手伝ってあげなくちゃならないような気がする。

 採掘は、昼過ぎまで続いて、バージ全てに積載出来たようだ。

 これで拠点に帰れる。空荷で帰るのは何となく嫌だけど、これだけあるなら大威張りで帰れるぞ。


 俺達は4日後に拠点に近付いた。

 尾根の間に入るといよいよ拠点が目の前だ。拠点の入口まで数kmのところで、バージを切り離し始めた。

 何でも、ホールに輸送艦が2隻バージを曳いてきたらしい。500tバージは俺達のバージとして使えるから、このバージは輸送艦が曳いて帰るのだろう。


 それにしても、中継点となると大掛かりに王国が手を入れているな。この中継点により、西の荒地の鉱石採取が容易になるのだから、それだけの価値があると見てるんだろう。


 ラウンドシップだけで洞窟を抜けてホールに到着すると、そこは工事の真っ最中だった。

 3つの桟橋を同時平行で作っている。東の桟橋にラウンドシップを止めると、船窓から工事用の照明で煌々と照らされたホールをしばらく眺め続けていた。


『騎士団長より団員に連絡。15日間の休暇をとる。今後も2回の鉱石採掘を行なった後は15日間の休暇をとることとするので、この期間中は各部局の人員を半数王都に送り出す。部局長は1800時までに今回と、次の休暇予定者をリスト化して生活部局長に報告すること。繰り返す……』


 休暇か……。これはフレイヤが決めてくれるだろう。

 給料もそろそろだな。だいぶ採掘が捗ったから期待できるんじゃないか?


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