第22話 戦姫《バルキリー》の戦果


 トリケラを初めて倒してから俺達は拠点に帰ることになった。2日程掛けて拠点に戻ってくると、ホールの中は大工事のただ中だ。

 獣機コングが20機もいるから複数の工事が同時平行で行なわれている。


 俺達が戻った翌日に、ベラドンナがバージを5台曳いて拠点を出発した。

 拠点を出て南に1,000kmはヴィオラが同行する。

 このまま真直ぐ南に下がり赤道付近を東に辿るらしい。

 戻ってくる時も同じコースを取るそうだ。確かにそれなら巨獣の襲撃は殆ど無いだろう。

 円盤機も偵察用を2機載せているから、広範囲な監視で例え巨獣がいたとしても避けて通れる筈だ。


 小さな鉱脈を探してはパージに積み込んでいく。ガリナムでさえ100t級を4台曳いているからな。少しずつでも継続すればそれなりの量が確保できる。

 そんな事をしながら拠点に戻ると、3日程の休憩に入った。

 

「しばらくはノンビリできるわ」

「結構、色々あったからね。確かに疲れたよ」


 窓際のソファーに座ってフレイヤとビールを飲む。

 ドミニクはクリスと共にホールの大改装の指揮を執っているようだ。

 現在進行中の工事で一番大きなものは、奥の洞窟から洞窟の外に繋がるダクト工事だ。防食性に優れたステラム合金製の直径2m程のパイプが、ホールの中央深さ10mの位置で伸びていく。

 この工事に獣機15機が交替制を敷いて従事しているそうだ。

 残った獣機で長さ1kmの桟橋の枠組みが行なわれている。

 小型核融合炉が据え付けられたので電力は十分にある。建設用の重機を動かすのに不自由は無いようだ。


「このホールを歩けるようになるのは何時になるのかしら?」

「それほど期間は掛からないと思うよ。硫化水素と二酸化炭素のガスの発生源は分ってるんだ。そこから発生するガスをダクトで外に出して、山頂から空気を取り入れれば、このホールを防護具無しで歩けるようになるさ。このまま行けば1年は掛からないんじゃないかな?」

 

 そうなると、やはり定期便が欲しくなるな。輸送専門の業者もいるみたいだが、場所が場所だから輸送費が高くなりそうだ。しばらくは、自前で輸送せねばなるまい。


「今度の便にカテリナさんのラボの人達が乗ってくるそうよ。なんでも、この地で研究を進めるらしいわ。こんな辺鄙な場所で研究するなんて変わってるわよね」

「辺鄙ならではの研究ってことかな。王都では意外と制約があるのかもしれない」

「その辺りはどうでも良いんだけど、桟橋の一角にプールを作るらしいわ。早く出来ると良いわよね」


 北緯50度以北だから、ここはどちらかと言うと寒冷地になるのだが、俺には昼夜の寒暖さが大きいだけのように思える。

 昼の荒地では40度近くに気温が上がるし、夜は零下に下がる事だって日常茶飯事らしい。

 良くもそんな娯楽施設を作ろうと考えたな。

 水の確保と騎士団員の士気を考えればそれもまんざらでは無さそうだ。たぶん温水プールになるんだろうけど、桟橋の大きさは半端じゃ無いからな。意外と大型施設になるんじゃないか?


 ビールが無くなったところで、シャワーを浴びてベッドに入る。

 後、1日休日が残ってるから、先ずはゆっくり休もう。

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 次の日は1日を部屋で過ごす。昼食はさすがに食堂に出掛けたけど、緊急出動の放送の心配もない拠点でののんびりした休暇は贅沢以外のなにものでもない。

 夕食を終えるとフレイヤが直に出掛けて行く。俺は待機所でゆっくりと仲間とタバコを楽しんだ。と言っても、そこにいたのはアレク達3人だ。


「……その噂は私も聞いたわ。ブリッジ勤務の友人だから、噂の信憑性は高いと思う」

「どうしよう! 私、今年はまだ水着を買っていないのよ」


「まあ、それはそれとして、確かに桟橋の奥に奇妙な凹みがあるのは俺も知っている。それが噂を読んでるのかもな」

「水は途中の大河で汲めば良いですし、電力は有り余ってます。意外とやるかもしれませんよ」


 俺の言葉にサンドラ達が目を輝かせている。

 あまり期待はしないで欲しいけど、何らかの娯楽施設は必要だろうな。

 

 近場で鉱石を採掘していたある日の事。

 自室で何気にスクリーン写る映像を眺めていたら、何時もの館内ニュースが流れてきた。


『ベラドンナは無事王都に到着した模様です。パージの荷を積み替え7日後に拠点に戻ってくるそうです。もう1つの朗報です。王都と拠点を結ぶ定期便が構築されることになりました。10日おきに運航されるとのことです。これで、王都での休日を定期的に過ごせるかもしれません。楽しみですね……』


 定期便は便数が多いな。という事は、中型の高速船か?

 小さなノックの音がしたら扉が開いて、ドミニクとレイドラが入ってきた。団長権限で全ての扉を開くことができるというのも問題があるんじゃないか?

 俺の考えなんて気にもなら無いようだ。テーブル越しに席に着いたので、冷蔵庫から缶ビールを取り出してドミニク達の前に置いた。

 プルタブを引いて、缶をカチンと鳴らしたところでゴクリと一口飲む。


「交渉は上手く行ったようね。積荷の5%が運賃になるけど、これは想定の範囲内。10%までは覚悟してたから、アデルには感謝してもしきれなわ。騎士団員の休暇も定期的に出せそうだわ」

「かえってそっちが重要よ。娯楽施設は簡単なものを作ろうとしてるけど、やはり王都には敵わないわ」

「やはり、プールを作るのは本当だったんだ」


「簡単だし、ここは緯度が高いから冬は雪が降るのよ。年中入れるプールなら

外へ出ようなんて考えないでしょうからね」

「となると、戦機ナイトが後2機欲しいな。でないと俺の休暇は無くなりそうだ」


「クリスが期待してるわよ。出来れば戦鬼オーガが欲しいと言ってるわ」


 そんな話をして帰って行ったのだが、何のために俺のところに来たんだろう?

 情報のリークだとすれば、フレイヤの方が適任だろうし、生活部に頼めば館内ニュースで皆に教えてくれるはずだ。


 それから何日か経って、鉱石を探しに2隻が拠点を離れる。

 拠点を出て100km程過ぎたところで2隻が平行して船を進める。前回よりも2km程南に位置して西に向かうようだ。


 周囲の監視は円盤機が行なうから、部屋で外の風景を眺めながらコーヒーを飲む。

 狙いは戦機ナイトらしいが、そう簡単には見付からないだろう。鉱石を探しながら偶然に見付かることもある。と考えた方が良いんじゃないかな。


 今回の航行は大型パージがベラドンナに使われていいるので100tパージを8台もヴィオラが曳いている。

 小さな鉱床を5つも見つけたらそれで一杯になってしまいそうだ。

 

「これで、2回目よ。小さな鉱床もこれからは採取するのかな?」

「鉱床には違いないし、貴重鉱石はあまり大量にはならないからな。それに、短時間で鉱石を積み込めるから安全性も高い」


 鉱石を採掘している時は艦内にイエローⅠかⅡが発令されている。万が一を考えて待機所に集まってはいるのだが、雰囲気的にはお茶会の感じだな。


「前回の巨獣の話を聞きましたか?」

「俺達が倒したトリケラだろ。円盤機の奴等が教えてくれたよ。小型肉食巨獣の良い餌になってたらしい。シレイン、俺のファイルの画像を出してくれ」


 アレクにしなだれていたシレインが端末を操作して俺達の近くにスクリーンを展開した。

 

「この画像は艦内ニュースでも流れていたから皆も知ってるな。シレイン、スクリーンを小さくしろ。……問題は、これだ!」


 次の画像にはトリケラが20頭近く倒れているところが映し出された。

 ベラスコが驚いて食入るように見ていたが、画像が直ぐに切り替わる。今度は戦機ナイトが射撃を行っている光景だ。


「見たな。俺達だけの秘密だったが、ベラスコも知っていた方が良いだろう。あれが先行したリオの戦果だ」

「あれだけで20頭はいましたよ。リオさんの戦機ナイトが使っているのは40mmライフル砲。あれだけ倒すには、軍の大型砲による一斉射撃でもなければ不可能です」


 俺とアレクの顔を交互に眺めながら、更なる説明を要求しているって感じだな。

 

「最初に見たときは、王国研究所の新型獣機コングの試作品だと思っていました。戦機ナイトのような重量感がありませんからね。稼働時間が長いとなれば尚更です。王国が戦機ナイトを真似て獣機コングを改良したと考えれば納得できたんです」

「それはまた都合よく解釈したもんだな。だが、騎士の仲間内で話には聞いた事が無いか? ……戦機ナイトには3つの種類があるとな」


 ベラスコが炭酸飲料の入ったグラスを掴むと、ゴクリと音を立てて一口飲み込んだ。


戦機ナイト戦鬼オーガ……。確かにもう1つあると聞きました。戦姫バルキリーでしたね。騎士団は戦機ナイトを持って始めて騎士団たると言ってましたね。戦鬼オーガを持つ騎士団は数えるほどだと……」

「12騎士団でさえ戦鬼オーガを持つ騎士団は限られている。それほど少ないんだ。俺も後5年を経ずに戦鬼オーガを降りることになる。そしたら、ベラスコ……お前が戦鬼オーガを駆るんだぞ」

 

「良いんですか? カリオンさんやリオさんだっているじゃありませんか?」

 

 ちょっと信じられないと言った表情だが、アレクの言葉を嬉しそうに確認している。


「カリオンも、俺の後に直ぐ引退だ。そして、リオについては、先程の話に戻ることになる。一応名前だけは知っていたようだな。……後々誤解が生じないように、ベラスコにも話しておく。良いか、リオの機体は戦機ナイトではない。戦姫バルキリーなんだ」


 飲みかけていた炭酸飲料を噴出してベラスコが立ち上がった。

 苦しそうに咳き込み始めたぞ。サンドラが背中を叩いてあげてるが、吃驚して飲んでいた炭酸飲料が気管支に入ったようだ。


「ありがとうございます」と言いながらドサリとソファーに腰を下ろす。

 

「……戦姫バルキリーは3機が現存していると聞いています。王族専用とは言っていますが、それを動かした様子がありません。かつてパレードにお披露目された戦姫バルキリーを見た者の話では台座に座った戦姫バルキリーの隣に王子が立っていたと言っていました。そのパージを30機の獣機コングが引いていたそうです。俺達はその話を聞いて思ったものです。戦姫バルキリーをまともに動かせる騎士はこの世界に存在しないのではないか? ……とね」


 そう言って改めて俺を見た。


「まあ、そういう訳だ。戦姫バルキリーの武装の話は噂では聞いているな?」

戦姫バルキリーが内蔵していると……。当時の武装がそのまま現在でも使用できると聞いてます」


「それがあの結果だ。リオ、何を使ったんだ?」

「40mmレールガンです。出力は半分程度ですが、1発で3頭を貫通してました」


「円盤機の奴等は不審に思うだろうが、放っておけば良いように解釈してくれるだろう。だが、ベラスコには真相を話しておく。将来はヴィオラ騎士団の戦鬼オーガを駆って戦機ナイトを統率するのだからな。リオは遊撃隊だと思えば良い」

 

 ベラスコが俺を見ながら頷いた。

 納得はしてくれたんだろうな。数年後の戦機ナイトを駆る者達はどんな顔ぶれになるんだろう。


「少なくとも5年は後だ。それまでには戦機ナイトをちゃんと操れるようになるんだぞ。拠点にはシュミレーターも出来るらしい。連携を中心に教えてやる」

 

 アレクの言葉にベラスコが嬉しそうに頷いた。

 将来の騎士筆頭だからな。頑張って貰わねばなるまい。

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