第16話 巨獣の口が開いた


「レイドラの神託によると、北緯52度付近が狙い目だと言っていたわ」

 

 俺の部屋に深夜訪ねてきたドミニクが言った。

 やはり50度を越えるって事か……。


「俺に話しても良かったんですか?」

「北緯50度を越えたら、先行偵察をやって貰うわ。円盤機も良いけど、あれは直援って感じね」


 それにしても、やはり怪しい魔方陣の上で踊りながらトランス状態になって神を呼ぶんだろうか?

 これだけ科学が発達してるのに……。いや、科学が発達したからこそ神に祈るのかも知れないな。北緯52度を適当に流して、運よく見つけられた場合は神のお告げによるものという事になるんだろうか?

  俺が考え込んだのを見て、笑顔を見せる。


「私が怪しい宗教を信じてると思ってるの?」

「でも、副団長が……」

 

「彼女の場合は確立の一番高い場所を選んだに過ぎないわ。彼女は竜人族。寿命は私達と比べれば3倍以上長いのよ。それだけ情報を持っているの。レイドラの頭の中にね。その情報を自分だけの電脳で解析した結果を私に教えてくれるのよ。ある意味、神託ってことでしょうけど、……裸で魔方陣の上を踊ってなんかいないわ。でも、そんな噂があることは知ってるみたいよ」


 あえて、噂を否定しないという事は、自分の持つ情報を知られたくないという事だろう。ちょっとストイックな感じがするのもそれに拍車を掛けてる気がする。


「ところで、このごろ艦内ニュースでカテリナさんを良く見るんだけど」

「ああ、あれね。一度やったら、はまってしまったらしくて……」


 コーヒーの残りを急いで飲み干すと、ソファーから腰を上げて俺の部屋を出て行った。

 わざわざ深夜に訪ねて来なくとも良さそうな話だったけど、壁に耳ありって事なんだろうか? 少しは団員に変化があったようだけど、身元調査は専門の業者にやらせて問題が無い事を確認していると、フレイヤが教えてくれたんだけどな。


 まだ、フレイヤは帰ってこないけど、先に休むことにしよう。

 交替勤務のシフトが中々定まらないようだから、すれ違いが多いこの頃になってしまった。


 翌日目を覚ますと、隣のベッドにフレイヤが丸くなって寝ている。かなり寝相が悪いから、ベッドのサイドには落下防止用の柵が作ってあるけど、この間はその柵を越えて落ちてたんだよな。まぁ、今のところはだいじょうぶだろう。


 シャワーを浴びて黒のツナギに着替えるとにガンベルトを巻いて部屋を出る。

 食堂で、お薦めの夕食を注文して食事を取ったが、1人だと直ぐに終ってしまうな。

 その脚で、上にある待機所に向かうと、朝から5人が酒を飲んでいた。

 いつものソファーに座ると、サンドラが氷の入ったグラスに酒を注いで渡してくれた。


「やはり、北西に向かってる。北緯50度はもうすぐ越えそうだぞ」

「ドミニクより先行偵察を仰せつかりました。50度を越えたら指示するそうです」


 俺の言葉に5人が顔を見合わせた。


「やはりな。レイドラの神託はそう来たか」

「でも、1人でだいじょうぶなんですか?」


 ベラスコが心配そうに俺に言った。

 それを面白そうに周りが見ている。


「リオの戦機ナイトは俺達の戦機ナイトより小さいが、その分素早く動けるんだ。そして巡航速度も俺達を凌駕している。武装は40mmライフル砲と長剣で少し心細いがな」

「俺は一緒に行けないんですか?」


 行きたかったのか?

 だが、戦機ナイトでは無理だ。円盤機ならアリスの巡航速度には付いて来れるだろうけど、3時間ではねぇ……。


「俺が許可しない。リオなら1人でだいじょうぶだ。だがお前が行けば動きが制限される。それに、お前の戦機ナイトでは地中探査が出来無いだろう?」

「リオさんの戦機ナイトなら出来るんですか?」

「ああ、不思議なことに出来るんだ。それに、あの戦機ナイトを動かせるのはリオただ1人。俺達の戦機ナイトはヴィオレ騎士団の共通財産だが、リオの戦機ナイトはリオの財産だ」


 アレクの言葉にベラスコが絶句すると、ありえないって顔を俺に向ける。


「そんなことって、あるんですか? 戦機ナイトを個人用にするには燃料やメンテナンスでとてもじゃないですけど……っ! まさか、貴族!」


 途中で何か思いついたと思ったら、貴族と来たか。

 確かに貴族の財力があれば個人所有も可能だ。実際に持っている貴族もいるらしい。


「なにバカなことを言ってるんだ。貴族様がこんな場所に好き好んでくると思うか?」

「ひょっとして、いるんじゃないかと……」

 

 アレクの笑いながらの言葉に、ベラスコが引き下がる。

 だが、意外といるのかも知れないな。何といっても貴族は暇だ。暇にまかせて騎士団を率いているかもしれないぞ。


「色々とあるんだ。それにリオの戦機ナイトで俺達と同じ事は出来無いだろう。お前たちは長砲身の50mm砲だが、リオの戦機ナイトは40mmなんだぞ」


 それを聞いてベラスコは納得したみたいだ。

 どうやら、貴族趣味で作られた戦機ナイトだと勘違いしているようだ。素早さを得るために武装を犠牲にしたと思ったのだろう。


「でも、ヴィオラは依然として北西を目指してるのよね。このまま行くと、この張り出した山系にぶつかると思うわ。山脈の裾野は巨獣の住みかよ」

「北緯52度を進むと言っていました。そうなると……この山系には近付かずに済みます」


 スクリーンの地図は山系を数百km離れて、北緯52度の緯度線が表示されている。

 離れてはいるが、極めて近い。

 この辺を縄張りにしている巨獣がいるとすれば、十分に奴等の縄張りに入ることになりそうだ。


「50度を越えるのは、明日の早朝になりそうだな。気を付けて出発しろよ」

「ええ、わかってます」


 皆と一緒に数杯のグラスを傾け、早々に自室に戻る。

 今夜はフレイヤは当直だし、ドミニクも毎夜は来られまい。久しぶりにゆっくりと熟睡できるな。

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               ・


『現在、ヴィオラとの距離60kmです。このまま進みますか?』

「もうしばらくはこのままだ。上空の円盤機が俺達を監視している」


 早朝に、お弁当を2つと数日分の携帯食料、それに飲料水の大型水筒を食堂で受取り、アリスに乗って荒野を駆けている。

 巡航で時速50kmの速度はたちまちヴィオラを引き離す。

 円盤機の哨戒範囲100kmを超えるまではこのまま駆けるつもりだ。


「ところで、鉱脈の気配はあるのか?」

『小さなものはありますけど、一々採掘するのは面倒そうです。埋蔵量100tを越えねば、ヴィオラを停船して採掘する意味は無さそうです』


 この速度でも地中探査が出来るんだから大した性能だ。

 だが、ドミニクが狙っているのは何の鉱脈なんだろうな?

 

 出発して6時間。

 アリスのコクピットで簡単な食事を取る。

 ゼリーのような携帯食料なら、アリスの中でも取れるからな。

 さすがにお弁当は無理だと思う。


『そろそろ、ヴィオラからの距離120kmです』

「俺達の任務は先行して巨獣の監視だ。場合によっては戦闘も許可されている」

『それならば、上空に移動すべきでしょう。50m付近であれば他の監視者に気付かれる事もないでしょう。速度は200km離れた状態で時速30kmに落とします』


 アリスが大地を駆ける姿勢で少しずつ上空に移動を始めた。

 高度50mをやや前傾姿勢を取って飛行する。

 反重力発生装置を4箇所使って、重力傾斜を自由に作り出せるアリスならではのことだ。


 数km以上の見通し範囲に、巨獣はいないみたいだな。

 アリスの動体探知レーダーにも10km四方に反応はない。地上では5km位なんだが上空に上がったことで探知範囲が広がったようだ。

 更に上昇すれば探知範囲は広がるのだがそれでも20kmを越える事は無い。単なる地上レーダーなら50km程は探査が出来るけど、動体探知のように移動物体だけを捉えることは出来ないようだ。


『ドミニク様は何を探してるんでしょうか?』

「ん? 鉱石じゃないの。騎士団って、結局、採掘業者だと思ってたけど?」

『ですが、大河を越えてからは小さな鉱脈はありますが、それほど価値のある鉱石でもありませんし、埋蔵量も100t以下ですよ』


 要するにこの辺りには鉱床が無いという事なのか?

 だが、この世界には大型鉱床が殆ど無い。精々100から300t程の鉱脈がそれこそ無数にあるのだ。

 あれから、だいぶ日が経っているのに100tを越える鉱床が無いのもおかしな話ではある。

 ひょっとして、全く違う何かを探しているのか?

 

『ヴィオラより暗号電文です。……小型巨獣を右45度。距離80kmに発見……以上です』

「指示は?」


『北西の尾根を調査せよ。但し、高度を80m以上に上げないように。との指示になります』

「分った。指示に従ってくれ」


 あの尾根に何かあるという事か?

 竜人族の古い記憶をレイドラが伝えているのかも知れないけど、その記憶の示すものとは何なんだろう。


『見えてきました。あれが目的の尾根のようです』

 

 視野の外れにボンヤリと影がある。荒地の風で砂が舞うから遠くの景色はボンヤリとしている。まだ距離は100km以上あるだろう。

 

 30分ほど過ぎると、尾根の形が見えてきた。

 木の生えていない岩山のようだ。高さは精々千m位に見える。

 裾野は東西に数kmだが、その姿は、荒地にグンっと脚を伸ばしたような形に見えなくも無い。そして遠くの峰々に続いている。

 

『巨獣の群れが見えます。イグナス級。推定50頭前後だと推定します。移動速度は時速数km。このままですと20分経たずに頭上を越えます』

「少し上昇してくれ。群れの上空100mなら脅威と認識されないだろう。無理に狩る事は無い」


 ゆっくりとアリスが高度を上げる。

 この程度の高度では、周回する科学衛星にアリスの大きさが探知されるとは思えない。

 ドミニクはなるべく高度を100m以下に押さえろと言っていたが、ほんの10km程度の距離だし、アリスが何も言わないところを見ると、数機周回している衛星は上空にいないようだ。


 眼下にイグナスの群れを見ながら、数km離れたところで再び高度を80mに戻した。

 尾根を廻るように今度は北上していく。

 イグナスを狙う大型の巨獣は見当たらない。

 少し潅木の混じる荒地を更に飛んでいくと、尾根が折れ曲がり俺達は何時の間にか東に向かって飛行している。


 その時、前方に黒い何かを見つけた。


『前方に洞窟です。大きさは直径150mです』

「ヴィオラがそのまま入れそうだな。ひょっとして、あれがドミニクの探していたものか?」


『ドミニク様に通信しますか?』

「そうだな。……巨獣の口が開いた……で、分るかな?」


 明確な目的を俺に告げなかった。果たしてこれがそうなのかも断定出来ない。どんな返事が返ってくるか楽しみだな。


『返信です。……周囲を警戒。可能ならば口に飛び込め……。以上です』

「内部調査をしろってことかな?」


戦機ナイト戦鬼オーガではかなり危険ですが、この機体は戦姫バルキリーです。容易に実行可能と推測します』

「武装をレールガンに変更。何が出るか分らんぞ」


 俺の指示でアリスの抱えていた40mmライフル砲が、その姿をブレるような残像を残して消えた。直ぐにシルエットがそっくりな銃が出現する。これが40mmレールガンだ。


 洞窟の入口から500m程離れた空中でアリスが停止した。

 洞窟内を3時限レーダーで探り、簡単な内部画像を作り出す。

 どうやら、内部が少し広がっているようだが、かなり奥に続いているように見える。

 内部に動体反応も無い。


 肩口を開いてサーチライトを点灯させたアリスは、ゆっくりと洞窟に入って行った。

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