クトゥルフ百物語

上倉ゆうた

ようこそ、百物語パーティーへ

 重いきしみみを上げて、からみ合う触手が浮き彫りされた扉が開く。

 パーティー会場の大広間に入ったあなたを出迎えたのは、

 ロウソク、

 ロウソク、

 ロウソク、

 ロウソクロウソクロウソクロウソクロウソクロウソクロウソクロウソクロウソクロウソクロウソクロウソクロウソクロウソクロウソク――。

 無数のロウソクだった。

 人の手をかたどった燭台しょくだいに、怪物像がささげ持つ皿に、何かの骨を組み合わせたシャンデリアに、大広間の至る所に灯っているというのに、なぜか暗闇を払う役には、全く立っていない。

 暗闇に、無数の陰火がただゆらゆらと燃えている。

「ようこそ、百物語パーティーへ!」

 長大なテーブルのホスト席に着く少女が、大袈裟おおげさな身振りで歓迎の意を示した。

 漆黒のアンティークドレス、うねるプラチナブロンドの長髪、フランス人形のように愛らしく――そして、どこか険の潜む顔立ち。

 しかし、それに気付く前に、あなたの心の目はくらまされる。彼女の、ルビーのような深紅の瞳に。

「はじめまして! あたし、鳴羅戸なるらとアリス。このパーティーの主催者なの。さあさあ、お席にどうぞ」

 誰も触っていないのに、すうと椅子が引かれる。どういう仕組みなのだろう。不思議に思いながら、席に着く。

「さてさて、お客様もそろったことだし、まずはパーティーの趣旨について説明させて頂こうかしら」

 客が揃った? ここにいるのは、自分と彼女だけでは――そう思って周囲を見渡したあなたは、いつの間にか大勢の人々が列席していることに気付く。

 皆、パーティーに相応ふさわしい華やかなよそおいだ。老若男女は様々なようだが――顔は、暗くてよく見えない。

「百物語はご存知かしら?」

 困惑するあなたを他所よそに、主催者――黒衣の少女アリスの司会は、よどみなく進行していく。

「元々は、江戸時代に流行した遊びね。百本のロウソクに火を灯して、みんなで怪談を語る。一話語り終えたら、一本ロウソクを吹き消す。そうして、どんどん暗くなっていって――最後の一本を吹き消した時、暗闇の中に本物の怪異が現れるという――本当かしら?」

 何処からともなく吹き込んだ生温なまぬるい風が、ロウソクの灯りを揺らめかせる。

 あなたは気付く。では、このロウソクは丁度百本なのか。おそらく招待客も、自分を含めて百人。

「それを確かめてみようというのが、このパーティーよ。ウフフ、面白そうでしょう?」

 やあ、それは面白そうだ――楽しい夜になりそうですな――私、とっておきのお話がありましてよ――。

 ざわざわと答えながらも、何故か招待客達は身動みじろぎ一つしない。ただ、気配だけをまとってそこにいる。

 あたかも、背景の一部であるかのように。

「楽しみねえ。このロウソクが全て消えた時、一体何が起こるのかしら?」

 アリスがくすくすと笑いながら、あなたに視線を送る。

 そこで、ようやくあなたは不思議に思い始める。

 自分は何故なぜ、ここにいるのだろう――。

「前置きはこれぐらいにして、早速始めましょ。じゃあ、まずはIさんどうぞ!」


 *


 それでは、どうぞ楽しい恐怖の一夜をお過ごし下さい――。

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