【ネタバレ注意!】自信喪失… あるいは「何様ですか?」感想【ネタバレ注意!】

 このミス大賞のかくし玉として出版された枝松蛍氏の「何様ですか?」を読んだのだけど、これ、このレベルで大賞が取れないって、どんだけハードル高いんや。orz


 2016年の発売だから、たぶん15年に選考委員はお目にかかったわけだよね、この作品。もう、私的にはかの「星降山荘」に匹敵するんだけど。

 これが取れないってのが、もう、驚きで……。そうかぁ、今のミステリ界のレベルはこれが取れないってほど高いのか、そう思うと暗澹たる気分。大賞作はお目にかかってないけど、これより凄いってもう想像できんわ。


 確かに、トリックとかストーリーはほぼ予測可能なんだけど(特に私は解説を先に読んじゃう人なので)、だってさー、辻村先生の作品は未読だけど、文中に「学園ノワール」「よくも悪くも容赦がない」「キャリー」とくれば筋書きはだいたい解かるじゃん、だけどなんというか、この作品はさ、解釈の幅がえらくデカいのだ。


 私の率直な感想は、「バカばっかり寄り集まったら、そらこうなるわな、」で。


 この作品のテーマは『厨二病』だろうと思うんだけども、なんというか、残虐性の高い行動を起こすヤツ順に、アホウなんだよね、いわゆる地頭が悪い?(本人は賢いと思ってるんだけど)それを、作者さんは意図的に書いてるよーな感じで、そこが凄いと思ったんよ。星降山荘でも作者さんスゲーだったけど。


 この作品、ダントツで頭悪いのは倉持っちゃんなんだけど、彼女はまたレクタータイプの劣化品。頭が悪いくせに頭がいいと思ってる、しかも頭のネジが一本抜けたサイコさんって始末に負えないな、というストーリーですわ、ひと口に言うなら。


 んで、このストーリーの根幹のこの部分を、作者さんは解かって組み込んだよーな感じがあるんだよね、この作品。そこが、凄いと。


 倉持っちゃん、お友達に新聞読めとかいうんだ、新聞読んでるくせにこういう行動を実行に移せるくらいには後先考えなしのおバカさんなんだよ。自分の企みで自殺者出てんのに何とも思わない脳みそ障害で。で、日記を書いてる思春期ボーイなんかは赤裸々に単純バカとしての本性を文面に晒してるでしょ。設定は秀才君なのに。これ、作者さんが意図的に書いてるなら、すげぇな、と。高校生なんてこんなもんよ、みたいな、いや、これ、中心の特に倉持っちゃんは小学生マインドじゃん、て。それを補強するカタチで思春期ボーイが書いてるバカ手紙が生きてくんのよ、この作品構造。この手紙は彼女のバカさ加減を読者に納得させるためにあんのかも、だわ。(彼女が一番おバカだってのが通じないと、深読みさせる部分不発だもんね)


 この構造が、人物の本当のトコが解かった上で読むと、なんとも言えない読後感よ、イヤミスといってもこういう感情ってあんま体験ないなぁと思ったわ。怒りとかまったく沸かないのね、彼らの行動は酷いとしか言いようがないのに。バカすぎて。


 なんというか……、哀れみをこめて、「バカだなぁ……」て。


 イタいんだよね、倉持っちゃんを筆頭に、出てくるキャラが揃いも揃って、厨二的なイタさを何か持ってて、恥ずかしくなっちゃう。星村しおりという作家を槍玉に挙げてっていうシーンは最高潮。質問内容も恥ずかしいなら、質問してる行為も恥ずかしい、そのシチュエーションも構図も恥ずかしい、とにかく隅から隅までイタい。


 なんかもう……読んでるこっちまで黒歴史思い出して口元引き攣っちゃうというか、「うーーーーわーーーーーーやーーーーめーーーーてーーーー」て感じ。弾劾されてる方も恥ずかしいなら、弾劾してる方は数百倍、恥ずかしい。リアルタイム恥。


 ここでもう一発、「コイツら……、バカだなぁ……」としみじみ。イタいイタい。


 黒歴史。イタタ。厨二。お前ら全員、酔っ払ってんのか?的な恥ずかしさ。

 それをもう、これでもか、と容赦なく描いてくんだ。ヘンな笑い込み上げるよ。

(ネットじゃ一応匿名だから皆好き放題言ってるけどリアルでやるバカは居ない)


 解釈の幅が大きい、てのはメインキャラの心情に切りこんで描写たっぷりあるから、心理学的にアレコレと分析かませられるだけの懐の深さね、これも色々の描写が少ないタイプだと「書いてないことは分析かけられんよ?」て感じで解釈の幅は小さくなるわけでさ。心理たっぷり書くと矛盾とか不整合出てきて、逆に作品を薄っぺらくする危険あるけど、この作品みたいに分析に耐えるだけの強度を保った描写が出来てるバアイは、幅が広がって凄みが増すよね。心情描写も諸刃だもんで、実力ないと使うの危険だけど。そんで、ここまで各自心理が見事に作用しあうよーに書けるってのが、また。レベル高ぇーな。(><)


 いやぁ、これ、この作品でも大賞は取れなかったんだよね……へこむわぁ。

 (大賞作品、どんだけスゴかったんや…)


 このレベル以上の筆力とか、ぜんぜん自信ないよ…

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