1パロディ見たら30パロディ

 いや、ゴキの繁殖力を示す標語だけどこれって昨日観た新作アニメでも言えそうだなぁと思って。露骨すぎな「ゲートオブ尻ロン」とか、ちょっとは知ってるネタが幾つかあって、これは詳しい人じゃないから解からんってだけで詳しい人が観たらネタだらけなんだろうなぁと思ったわけです。


 さすがムスメが「今期ピカイチアニメ。」と太鼓判を押しただけあるぞ、競女。


 王道スポコンストーリーも、ガジェットとギミックでこんなにスタイリッシュになるんだな、と。泥臭くなりそうな展開とかセリフなのに、胸と尻に集約されるとすんごい尖んがった表現になる。これぞラノベ的表現の先鋭化だろう。一周回ったリノベーションというか、古いモノが革新されたわけだ。


 いや、真面目に評論するよ、私は。


 性的記号以外の何者でもないだろう胸と尻、特に尻をこうフリフリさせてもまったくの健全アニメっぽく見せてしまうというのが凄い点だ。まぁそれでもまなざし村住民辺りなら惰性で文句言ってきそうな気もするが、昔からある健全エロティシズムのスカート捲りとかと同レベルなので文句言うほうがどうか、という案件。


 これは壮大なパロディなのだ。性的記号の胸と尻、その背景には本来ノスタルジアが漂い、シャーマニズム的な信仰だの宗教だのが隠されている。女神信仰である。本来あるべき女性性へのリスペクトなのだ。

 作品全体を覆う大らかな空気、冒涜的エロに行きがちな男性主導の性表現が信仰にまで昇華されることで、逆に男性性の暴力衝動が消える、という結果に繋がっているのだろう。男性主導はどうしても征服、暴力装置への憧憬に行きがちな故に。


 胸と尻の表層を性的に捉えることには二面の意味が隠されている。男性性的支配征服の欲求への象徴、トロフィーとしての胸と尻が一つ。これは報酬として描かれる胸と尻である。あと一つ、宗教的信仰の対象である胸と尻となるとまったく別になり、いわば神として君臨する胸と尻とに変化する。畏怖である。

 二者は対立するものでありながら、一つの表層の中に同時に存在する。愛と憎悪がそうであるように。表裏一体だ。胸と尻には憧憬と敵視が隠れる。敵視とはオディプスコンプレックスに代表される、自立の欲求であり、母性からの解放を願う心だ。征服欲、トロフィーとしての胸と尻には、自立が絡む捩れた精神性がある。


 登場キャラたちは惜しげもなく、また羞恥も見せず、堂々と胸と尻を駆使して競技を繰り広げる。そこで繰り出される技巧は超人的であり、これがトロフィーとしての受動系の胸と尻ではなく、能動系の戦う胸と尻であることを現している。

 報酬として描かれる女性や胸、尻が、実際には主として描かれる男性の付属品でしかない事に比べると、能動系の戦う彼女らは完全に主役なのである。主役と見せかけての欺瞞的逆転の表現ではない、男の代わりに戦うのではないからこの作品世界に男は不要なのだ。

 だから男性キャラは登場がほぼないのである。ユリ系の作品の一部には反転した男性性がしがみついていてみっともなかったりするが、この作品ではスポーンと男性という中途半端な存在を潔く消し去ることで女神の神具として描かれる胸と尻が際立って能動的になる。

 しかしながら、胸と尻は完全なる独立を果たしつつも、その一方には存在意義的な欲求で常に男性性を求める、という循環があることを忘れてはならないと思う。

 そこにはまた別種の反転表現があり、彼女らが胸や尻を強調しているのは男性へのアピールと見せつつ、実際は自身への報酬なのである。存在意義、女神賛歌である。

 男性勢が女性の胸や尻を讃えようが讃えまいが無関係に、彼女らは自らして自らの為に胸と尻をエロティックに飾るのだ。数ある宗教のうちの、最高峰の神具として。女性が着飾るのは男性の為であるようで実は男性の為などではない。女性は単一でも生存できることをどこかで理解しているが故に、残酷な神なのだ。


 男性性というものを丸々無視して描き出される女性だけの世界、戦う胸と尻の世界観は、宗教曼荼羅の様相を示す。一種崇高であり完全な世界であるが、現実には男性が必ず存在し、現実の世界は不完全である。不完全が幾重の繋がりと重複を生み、深刻さや悲劇のネガティブをも生み出す。それらを廃しているから、この世界は「おおらか」だ。だから、この作品は壮大なパロディとしても成り立つのである。何重もの意味で、パロディだ。


 要約すると、競女は面白かった、という話。


 

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