もふもふ日記
和泉ユタカ
一日の始まり
朝。
私の朝はパキパキポキポキと指を鳴らすところから始まる。続いて手首を鳴らし肘を鳴らす。手首はバキッと折れそうな勢いで我ながら凄い音がする。実に爽快だ。よく指を鳴らすと関節が太くなるわよ〜などと言われるが、小三から鳴らしてウン十年、特に影響なさそうなので、この癖をやめる気は全くない。
私がパキポキ始めると、さっと二匹の白い犬が駆け寄ってくる。そしてベッドの端から期待に満ちた上目遣いでじっと見つめてくる。しかし自慢じゃないが私は寝起きが非常に悪い。最初のパキポキから三十分は起きることが出来ない。生きていけるギリギリラインの超低血圧なのだ。機械で自動的に血圧を測ると、必ず腕に痣が出来るほど締め付けられ、ピーピーと死んでますアラームが鳴る。だって上が90ないんだもんね。
まぁとにかくそんな訳で、私は起きたくない。しかしベッドの端には無言の眼玉が四つ並んでいる。私の犬は間違っても私に向かってクンクン鳴いたりしない。彼等は理解しているのだ。神は催促されるのが大嫌いだということを。そんな信心深い彼等に神は天啓を与える。
「ジェイちゃん起こしておいで!」
ドドドドッと二匹が隣の部屋に駆け込み、遠慮会釈なくベッドに飛び乗る音がする。ジェイちゃんが掛布団の下に潜り込んだらしい。(奴も寝起きが悪いのだ。)掛布団をガガガガッバリッと掘る音がした。アレは
二匹の犬に滅茶苦茶に掛布団を剥がされ耳許で喚かれ、「ウールーサイッ」と叫びながらジェイちゃんが起きる気配がした。私は掛布団を頭から被って死んだふりをする。
「また僕のこと起こすように言ったでしょ! 毎日毎日ズルイ!」と私の部屋を覗き込んだジェイちゃんが文句を言ってくるが、死んだフリ死んだフリ。神は下々の事情などには関わらないのだ。
「エンちゃん! ママを起こしてきなさい!」とジェイちゃんが私のベッドを指差す。エンジュがふん、と鼻を鳴らしてソッポを向く。当たり前だ。彼女は賢い。彼女は敬虔なる信者であり、神を畏怖している。ヒトの言うことなど聞くわけがない。そもそもエンジュの中ではジェイちゃんは自分より下、下僕に位置している。ちなみに吹雪はそれより下、ケモノである。
「フブ! ママのベッドに飛び乗れ! Up!」とジェイちゃんが吹雪に命令する。吹雪が実に困った顔で下を向き、尻尾の先をハタハタと弱々しく振った。吹雪はジェイちゃんが好きなのだ。だが彼にとっても神は絶対者なのだ。ヒトよりも選ぶべきは神。犬は実に賢い。ヒトは犬を見習うべきだ。
そうこうするうちに痺れを切らしたエンジュがジェイちゃんに向かってワンッと一声吠える。エンジュはコヨーテのハイブリッドなので、声がやたらと鋭い。耳が痛い。
「文句を言うなんて、なんて生意気なんだ」とかなんとかブツブツ言いながらジェイちゃんがトイレに行く。トイレの中までついていく二匹。
「トイレくらいゆっくりさせてくれっ」と喚くジェイちゃん。
ジェイちゃんと犬の朝のトイレが終わり、二匹が満腹になった頃、神は悠々と起き出す。二匹が朝の礼拝に駆け参じる。昨夜ジェイちゃんにシャンプーしてもらってふわふわの二匹を撫でる。二匹が慌てて口を閉じる。神は犬のヨダレが嫌いなのだ。二匹が頭を低くして尻尾を千切れんばかりに振る。
一日の始まりである。
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