第5話 小さな君とプレゼント
その日の放課後、オレは無理矢理強引に琉依ちゃんを公園に誘い出すことに成功した!
「…なんで…わたし…?」
「とりあえず、オレより琉依ちゃんの方が断然洞察眼が上そうだし」
沙希ちゃんと朱希ちゃんにあげるクリスマスプレゼントを、本人たちに悟られずにまずは希望を聞き出さないといけない。
そういうオレの一大作戦にてついでに琉依ちゃんともっと仲良くなろう!な、二重の作戦なのだ!
「あ!昨日のお姉ちゃんだ!」
公園で走り回って遊んでいた沙希ちゃんが後から来た琉依ちゃんに気付いて声をあげた。
ニコニコと可愛い。
「沙希ちゃん、このお姉ちゃんは琉依ちゃんだよ。将来オレのお嫁さんに」
「…ならないよ…」
「――今日は一緒に遊ぼうね」
琉依ちゃんの冷たい横槍が痛い。
「うん!さーちゃんね、『おすばば』がいい」
沙希ちゃんはそう言って、朱希ちゃんがいる砂場に走って行った。
「…おすばば…?」
「――あ、お砂場ね!」
小さなアハ体験をオレがしている横で、琉依ちゃんはじと目でこっちを見た。
「…沙希ちゃんたちの髪…」
よくいるアニメなちびっこを意識してツインテールにしてあげようとオレなりに頑張ってみたんだけど……
「今日母さんパートでいないからオレがやった」
お世辞にも可愛いとは言えないボサボサ頭になってしまっていた。
「…へたくそ…」
「だって、やったことないもん」
初めてやったよ?
褒めて?
「…あれなら…縛らないほうが…マシ…」
沙希ちゃんがトテトテ戻って来て突然叫んだ。
「お姉ちゃんきらい!」
琉依ちゃんもオレもびっくりして沙希ちゃんを見た。
「どうしたの沙希ちゃん?」
オレはオロオロしながら膝をついて沙希ちゃんを覗き込む。
「さーちゃんうれしかったもん!お兄ちゃんがんばってさーちゃんを可愛くしてくれたんだもん!」
「…あ…」
琉依ちゃんは呟いた。
「…ごめん…」
「大丈夫だよ沙希ちゃん!琉依ちゃんは凄く髪縛るの上手いからだよ、ねっ?やってくれるよね?沙希ちゃんをもっと可愛くしてくれるから」
「さーちゃん、お兄ちゃんがやってくれたのでいいもん!」
出かける時に凄い喜んでくれてたからなぁ……オレなんか、嬉しいやら申し訳ないやら。
「…沙希ちゃん…泉谷…ごめん…悪かった…」
いつもと同じ涼しい顔で、でも琉依ちゃんはまっすぐ沙希ちゃんを見て謝った。
「琉依ちゃん可愛い……」
オレが思わず抱きつきたい気持ちで琉依ちゃんを見てると、今度は沙希ちゃんがオレを覗き込んできた。
「お兄ちゃん怒ってなあい?」
「ないない、だって琉依ちゃん可愛いし、沙希ちゃんも朱希ちゃんも琉依ちゃんに可愛くしてもらいたいし」
沙希ちゃんはほっとしたように笑う。
「なぁんだ、さーちゃんねぇ、けんかしちゃうかと思ったのよー」
どこのオバサンだよとツッコミたくなるセリフ回しの沙希ちゃんは、大袈裟にやれやれとポーズをとった。
それを見て琉依ちゃんも小さくニコッと笑う。
琉依ちゃんの笑顔は見逃すくらいの小さな笑顔で、でも初めて見たそれをオレは目に焼き付けた。
「…いい子だね…大丈夫…喧嘩は…嫌い…」
それからしばらく四人で普通に遊んで、双子ちゃんたちを一度家に連れて帰ってパート帰りの母さんに任してからオレは琉依ちゃんを家まで送ることにした。
「…朱希ちゃんも沙希ちゃんも…可愛い…」
「うん!」
プレゼントはまだ決まらないけど、きっと何をあげても喜んでくれそうで。
だから何かワクワクして嬉しかった。
「泉谷、…」
「なぁに?」
琉依ちゃんがこっちを見てた。
じっとこっちを見る琉依ちゃんもめちゃめちゃ可愛い。
「…喧嘩は駄目…絶対…」
「うん…?しないよ?」
「…約束…」
何かあまりに琉依ちゃんが可愛くて、オレは顔が今さらに赤くなってきた。
「……結婚し…」
「…いや…」
気のせいかもしれないけれど、前より琉依ちゃんがちょっとだけ心を開いてくれているようなそんな錯覚がしてならない。冷たい感じが薄らいだというか、朱希ちゃん沙希ちゃんには優しいというか。
……オレにじゃないかぁ。
空を見上げて琉依ちゃんは白い息を吐き出した。
「…私も…サンタ…やりたい…」
琉依ちゃんがまた笑った。
「おおおオレに!?」
「…沙希ちゃんと、朱希ちゃんの…」
そういえばプレゼントを決めないとね。オレの盛大な勘違いはノーツッコミでスルーしつつ、ふと真面目に考える。
「プレゼントはどうしよっか」
琉依ちゃんの中ではもうとっくに答えは出ていたのか、するりと返事が返ってきた。
「……お父さんとお母さん…」
「えええーっ!?」
いきなりぶっとんだことを言われて、オレはぶっとんだ。
確かに沙希ちゃんたちには一番嬉しいプレゼントに違いないけど……一体どうすればいいんだ?
「泉谷…私のサンタ…、……沙希ちゃんと朱希ちゃんの、最高の笑顔…プレゼントして…」
「なんで、そんなに……」
嬉しそうに言う琉依ちゃんがわからなくてオレは琉依ちゃんを仰いだ。
「…私も…両親は離婚したから…喧嘩は嫌い…お母さんはもういない…」
哀しそうに見えたけど、琉依ちゃんはでも空を見て笑っていた。
「…最高の…クリスマス…用意してあげたい…」
「結婚しよう!琉依ちゃん!」
「…いやだってば…」
それで結局オレたちは、沙希ちゃん朱希ちゃんのお父さんとお母さんそれぞれにお願いをしてまわった。さんざん考えたんだけど他に思い付かなかったんだ。
クリスマスだけは離婚のゴタゴタ抜きにして、笑顔で喧嘩をしないで二人の傍にいてあげて……。何とも不躾で失礼で無茶なお願いをしたもんだと自分でも思う。
二人とも困惑してたし、オレなんて最後にはまた泣いてたし。
今でも思い出すたびすごく恥ずかしいんだけど、それでも。少しでも気持ちが届いてるといいな。沙希ちゃんと朱希ちゃんが幸せだったらいいな。あとはもう祈るだけ。
――12月24日。
「泉谷…雪…」
空を見上げる琉依ちゃんが呟いた。
イルミネーションのもみの木でそれまで気付かなかったけど。空から雪がチラチラ降っていた。
「積もるかなぁ」
「…明日…積もってたら…雪だるま…」
あれから琉依ちゃんはよく笑う。
クラスの皆は気付いてないけど。
きっと沙希ちゃんと朱希ちゃんが琉依ちゃんに笑顔をくれたサンタさんなんだろうな。
オレは何もしてないし。
でも琉依ちゃんの笑顔を、続けさせてあげるのはオレの仕事!
絶対にね!!
そこは譲らないよ。
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