最終話・俺達の戦いはこれからだ!


 「はは、やるじゃないか」


 満身創痍の俺達に向かって、神の野郎は楽しそうに笑った。

 四人の仲間の力を合わせて特訓に特訓を重ね、以前に挑んだ時の何倍にも強くなって再戦を仕掛けたのだが、それでもなお神は強かった。


 「そりゃそうだろ。俺様が与えた力で俺様に勝てるとでも思ったか?」


 ムカつくが、理屈としては正しいのだろう。神に与えられたチートでは神に勝てない。


 「だが、まあイイ線行ってたよ。久々に本気で戦えて結構楽しかったぜ」


 俺達はもう死にかけのボロボロで、逃げ出すことはおろか、悪態ひとつ吐くこともできそうにない。俺はこのまま死ぬのだろうか?


 「ああ、死ぬな。お前ら全員、もう持って一分か二分ってとこだろう」


 神は俺の心の声に返事をしてきた。

 それにしても、いくら不遇な人生だったからとはいえ、いくら自分の意思で戦うことを選んだとはいえ、結果的にどうにか頑張って生きていた仲間を巻きぞえにしてしまった事が心残りだ。



 「よし、楽しませてくれた褒美にえらばせてやろう」


 それは同情などではないのだろう。

 ただの気紛れなのだろう。


 「一つ目の選択肢は、今生と同じく生まれつき強力な力を持ったまま転生させてやろう。その代わりに俺様の祝福も引継ぎでな。俺様は、またお前らが七転八倒するのを楽しく見させてもらうぜ」


 それが一つ目の選択肢。同じような呪いがあっても、二回目ならばもっと上手く立ち回れるかもしれない。


 「二つ目の選択肢は、何も特別な力のない普通の人間として生きる道だ。デメリットはないけど、まあ面白味には欠けるだろうな」


 もう一つは、何の特別な力もなく普通の人間として生きる道。デメリットがない代わりにアドバンテージもない。


 「さ、それじゃ死ぬ前に選びな。心の中で思うだけでいいからよ。ああ、選ばなかった場合は道端のぺんぺん草に転生させるぜ」


 そう言われてしまっては選ばないわけにもいかない。まあ、選択肢を聞いた時点で俺の答えは決まっていたが。


 「オーケー。じゃ、安心して死にな」


 意識が薄れていく。

 すでに全身の感覚も無く、痛みも感じない。それどころか妙に安らかで心地良くすらある。

 そういえば前に死んだ時もこんな感じだっけ。


 およそ十五年ぶりの懐かしい感覚に包まれながら、異世界での俺の人生は幕を閉じた。



 ◆◆◆



 「……う、ここは?」


 ひどく重いまぶたを持ち上げると、視界には見慣れぬ天井が映った。

 身体がだるくて動かせないので視線で周囲を探ると、少しずつ脳味噌が回転しだしたようで、状況が把握できてきた。手足に巻かれた包帯や点滴のチューブを見るに、ここは病院なのだろう。いったい、どうして病院なんかに……?


 「先生、二〇一号室の患者の意識が戻りました!」

 「信じられん! あの状態から回復するとは、まるで神の奇跡だ!」


 病室に入ってきた看護師さんに声をかけると、まるで死人が口を開いたかのように驚かれた。状況が理解できずにしばし戸惑っていたが、俺は学校からの帰りにトラックに轢かれて何日も生死の境をさまよっていたらしい。一時は完全に心肺停止の状態にまで陥っていたという事を知り、今更ながらに背筋が冷える。

 どうにか一命は取りとめたものの意識が戻らず、そのまま一生を植物状態で過ごす可能性もあったそうだ。そんな状態からはっきりと意識が回復したのは、まさに『神の奇跡』と言えるだろう。

 

 だが、イマドキの神様は随分と気前が良いようだ。奇跡は一回だけでは終わらなかった。


 「先生!? 二〇二と二〇三、二〇四号室の患者も意識が回復したと!」

 「そ、そんな馬鹿な! 一人だけならまだしも四人連続だと!?」


 ベッドの上からまだ動けないので、ハッキリと内容の全てを聞き取れたわけではないが、他の病室にいた意識不明の患者も続々と意識を取り戻したらしい。会ったことのない赤の他人とはいえ、なんとも喜ばしい。


 ◆◆◆


 「なあ、笑美。もう一回分かりやすく言ってくれよ」

 「もう、笑人ったら、そんなんじゃ留年しちゃうわよ」


 意識を取り戻してから数日後、入院患者用のリラクゼーションスペースで、俺は同い年の少女に数学の問題を教わっていた。なんと彼女も俺と同じ日に意識不明の状態から回復したうちの一人なのだとか。初対面の時から感じていた妙な親近感はそのせいなのだろう。


 「ほら、手が止まっているわよ」

 「あ、悪い悪い」


 どうも俺の頭は物覚えがイマイチのようで、勉強に取り掛かろうとしても、すぐに関係のない事に意識が飛んでしまう。だが、もう来週には退院の予定だし、そのすぐ後には期末テストが待っている。苦手だろうがなんだろうが頑張らないと本当に留年してしまうかもしれない。


 「もっと頑張らないとな」


 世の中にはほとんど努力しなくても結果を出せる天才もいるかもしれないけれど、残念ながら俺はそうじゃない普通の人間なわけで、足りない分は努力でカバーするしかないのである。



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チート持ちで異世界転生したけどこんなハズじゃなかった(笑) 悠戯 @yu-gi

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