チート持ちで異世界転生したけどこんなハズじゃなかった(笑)

悠戯

第1話 チート持ちで異世界転生したけどこんなハズじゃなかった(笑)

 ごく普通の少年が異世界に転生する。

 昨今のライトノベルや漫画においては珍しくもない、ありふれた展開だと言えるだろう。前世で死んだ俺がその記憶を持ち越したまま赤子の姿になっていた展開も、それらの作品群による予備知識のおかげで「ああ、こういう展開か」と割とすんなり受け入れることができた。


 俗にチートズルと呼ばれる強力な特殊能力を持って転生する。あるいは後天的に身に付ける。それも特に珍しいわけじゃない。ごく普通の中学生の能力で過酷な異世界を生き抜く為には、ズルの一つでもしないとどうしようもないだろう。


 だが、ズルには罰が付き物だ。

 今生の俺には、生まれつきある呪いがかかっている。

 これがゲームなら運営にアカウントをBANされる程度で済んだかもしれないが、俺をこの世界に転生させた神だか悪魔だかは、相当に性悪だったらしい。

 埒外の能力の代償と考えれば安い物なのかもしれないが、だからといって「はい、そうですか」と納得できるものではない。

 だから、何度でも言おう。

 「こんなハズじゃなかった(笑)」


 ◆◆◆


 「お前は今日限り赤の他人だ。二度と当家の門を潜る事罷りならん!」

 「そんな父上、お考え直しを(笑)!」

 「失せろ、二度と顔を見せるな!」

 こうして俺は、前世での享年と同じ十五歳で今生の実の父から勘当を言い渡された。重厚な門は固く閉じられ、父の心を表すかのように俺を拒絶している。

 こうなるに至った経緯を考えると悪いのは全面的に俺だし、むしろ今までよく我慢してくれたものだと今生の家族には感謝が尽きない。

 ワケあって言葉では表せないけれど、せめて心の中で言っておこう。ありがとう、お父さん、お母さん。信じてもらえないだろうけど、貴方達にはとても感謝しています。

 「……さよなら(笑)」

 こうして俺は、十五年住んだ我が家をでて独り立ちすることになったのである。


 ◆◆◆


 さて、こんな具合に家から追い出された俺の名はショウトという。

 前世では笑う人と書いて笑人ショウト。今生での名はショウト・ラフマンという名前。そう、過去形である。今さっき勘当されたので、もうラフマンという家名は名乗れない。

 色々面倒なしがらみが付いて回るほどには金持ちすぎず、それでいて貧乏というわけでもない、それなりの格式の貴族家の三男。家の財産を自由に出来るわけではないが、衣食住には困らず、転生先としてはまさに申し分のない家だと言えるだろう。俺はこの家で貴族の子弟として何不自由ない暮らしを送る……はずだった。


 ここで突然だが、今生において俺が生まれつき持っていた三つの能力のうちの二つについて説明しよう。

 『取得経験値増大(百倍)』

 『必要経験値減少(百分の一)』

 この世界は一般的なRPGのようなレベル制が採用されており、スキルやステータスなども存在する。意識を集中すれば自分のステータスを確認できるし、他人のステータスを見ることの出来る能力も存在する。

 ちょっとでもその手のゲームの経験がある者にならば、先述の二つの能力がこの世界においてどれほどの効力を発揮するかは想像が付くだろう。

 言ってしまえば物覚えが良くなるだけなのだが、二つの能力の相乗効果によって、その効率は一万倍にまで跳ね上がっている。

 一例を挙げると、本ならば一読すれば完璧に内容を暗記できるし、武術ならば二、三日ほど教わった型を繰り返していただけなのに、その道何十年の達人以上に技を極めることができた。子供の俺に負けたショックで道場を廃業して田舎に帰った師匠にはとても申し訳なく思っている。


 本来ならば、これらの恩恵によって俺は快適で楽勝な異世界ライフを送ることができていたはずだった。だが、三つの能力のうちの最後の一つのせいで、未だに十五年間鍛えた能力をちゃんと発揮できずにいる。その三つ目の能力というのが……


 「言葉の語尾に(笑)かっこわらいが付く能力だ(笑)」


 能力というか呪いみたいな物だろう。『神の祝福(笑)』というのが正式名称だが、とても祝福とは思えない。一見ギャグみたいなこの『神の祝福(笑)』のせいで、俺がどれだけ苦労してきたことか……。


 最初に気付いたのは生後一ヶ月の時だった。

 使える方の能力二つのおかげで異常に物覚えの良い俺は、周囲の人々の会話を聞くだけで早くもこの世界の言葉を覚えつつあった。流石に身体の成長が追いついていないので舌足らずではあったけれど、当時赤ん坊だった俺は両親に話しかけてみたのだ。

 「おとうしゃん(笑)、おかあしゃん(笑)」

 語尾に意図せぬニュアンスが入った。なんというか人を小馬鹿にしたような、内容に関わらず聞いた相手が怒り出しそうな感じだ。

 とはいえ、この時の両親は赤子の俺が言葉を話したことを驚きながらも喜んでいたし、俺自身も生まれてからこの時まで不明だった『神の祝福(笑)』の効果を知ることができて愚かにも安堵していた。名前だけで効果がはっきりわかる『取得経験値増大』と『取得経験値減少』とは違って、『神の祝福(笑)』は名前だけでは効果が分からなかったからだ。所詮は特にこれといったデメリットのないネタ能力スキル。他の二つがあれば、こんなのがあったところでどうにでもなるだろう、とそんな風に考えていたのだ。


 甘かった。


 赤ん坊のうちは良かったが、成長するに従ってそのデメリットははっきりと本領を発揮してきたのだ。



 たとえば……

 「兄上、そこの計算が間違っていますよ(笑)」

 俺が四歳の時、前世でまがりなりにも中学生だった俺は、年上の兄姉達に親切のつもりで勉強の手助けをしようと思った。兄や姉達も年齢的には小学生程度だし、やっている勉強も相応の難度でしかない。この世界の歴史や言語関係の学問にしても、異様に物覚えの良い俺は子供の勉強程度なら充分に教えられる知識が既にあったが……それが失敗だった。

 「ほら兄上、そこの問題も間違っていますよ(笑)」

 「姉上、カバラリの革命は七九五年ではなく七六五年ですよ(笑)」

 親切のつもりで間違っている箇所を指摘した俺は兄姉達から大いに嫌われた。優秀さを鼻にかけていると思われてしまったのだろう。

 俺が口だけ野郎だったならまだしも、年上の兄姉よりも勉強ができるのもマイナスだった。この時点で周囲から俺への評価は「優秀だが性格の悪い子供」となり、それは悪化することはあれど最後まで覆ることはなかった。



 またある時は……

 六歳の時、俺は屋敷の近くにあった道場に通い始めた。家にいることに居心地の悪さを感じることもあったし、せっかく剣と魔法のファンタジー世界に転生したのだから、その手の物を実際に経験してみたいと思ったのだ。

 その道場は城勤めを引退した老騎士がやっていたところで、厳しいが確かな指導をするので有名だった。初日に俺は師匠に剣の握り方や構えなどの基本を教わり、俺も久しぶりに隔意なく接してくれる師匠や道場の門下生達などの人々と仲良くなった。今から思えば、当時の俺は家の中に居場所を失いかけていた分、剣術を頑張って道場に新たな居場所を作ろうとしていたのだろう。嬉しくなって家に帰ってからも庭で木剣の素振りをし、夜も自室で教わった型の練習をしていた……が、それがまずかった。

 「先輩、もっと教えて下さいよ(笑)」

 「師匠、もう一本お願いします(笑)」

 通い始めた翌日には門下生で俺に勝てる者はいなくなり、更に次の日には師匠も俺の動きについてこれなくなった。そして先述の通り、俺に負けてショックを受けた師匠は道場を畳んで田舎に帰ってしまった。俺は悪評が街中に広まったせいで友達を作ることもできず、今に至るまでボッチ人生を過ごすことになったのである。



 他にも色々とやらかしてきたのだが、俺の方も色々諦めがついてきたせいか、極力人と関わらないようにしてどうにかやり過ごしてきた。

 言葉を話すことを諦めて筆談や手話で意思疎通を図ろうと考えたこともあったが『神の祝福(笑)』は口頭で話した言葉だけでなく、他のあらゆる意思表示にも効果を及ぼすようだ。文章を書けば俺の意思とは無関係に手が動いて、相手をイラつかせる落書きや煽りが勝手に書き込まれ、手話やボディランゲージで意思を表現しようとすると、これまた無意識に変顔やびっくりするほどユートピアな動きを取ってしまい結果的に相手を怒らせてしまう。


 それでも辛抱強く、極力他人と関わらないようにして過ごしてきたのだが、つい数日前にとうとう決定的な失敗をしてしまった。俺が勘当される直接のキッカケになった事件だ。


 俺の二人いる姉の一人の縁談が決まり、相手方の家族が挨拶にやってきたのだ。ラフマン家よりも格上の、大貴族と言っても過言ではない家の長男らしい。家の格が異なる為に普通ならば成立しない婚姻だが、当人同士の強い希望があって例外的に認められたと聞いている。

 同じ家で暮らしながらも家族とは疎遠になっていた俺だが、そういう事情では挨拶くらいしないわけにはいかない。俺はあくまでも脇役だし、一言二言挨拶をしてあとは黙っていれば大丈夫だろう。そんな事を考えていたのだが、俺はまだ『神の祝福(笑)』を甘く見ていたらしい。


 「どうも(笑)、よろしく(笑)お願いします(大爆笑)」


 この『神の祝福(笑)』は、俺が真面目にしようとすればするほどに効果を発揮する性質があるようだ。意に反して顔は勝手にニヤケ面になり、いつにも増して相手を馬鹿にしたようなニュアンスが言葉の端々から発せられてしまった。慌てて弁解しようにも……


 「別にふざけてないので(笑)、許して下さい(笑)」


 弁解は逆効果にしかならず、相手方の家族を大いに激昂させるだけに終わった。決まりかけていた縁談は破談し、俺のような人間のいる家と縁を結ぶことはできないと言い残して怒り心頭で帰ってしまった。

 それからは何が起こったのかよく覚えていない。

 姉は自殺未遂を図り、母は白目をむいて卒倒。俺は怒り狂った兄達に首を絞められ、内心ではこのまま殺されてあげてもいいかと投げやりな気持ちになっていたのだが、圧倒的なレベル差のせいでそれもままならず、つい先程追い出されるまで父から自室で謹慎を命じられていたのだ。

 以上が、ショウト・ラフマン改め、ただのショウトとなった俺のこれまでの人生だ。


 「改めて思い出したら悲しくなってきた(笑)」


 悲しんでるんだよ、ホントだよ?


 ◆◆◆


 「これからどうするかな(笑)」

 家族から縁を切られて無一文で放り出されたのに、まるで深刻さが感じられない。この『神の祝福(笑)』は独り言にも有効なのだ。

 せめて俺と縁を切ったことで、姉が相手と復縁できるといいのだが。ここ数年はロクに会話をすることもなかったけれど、俺がまだ嫌われる前の幼い頃は優しい姉だったのだ。俺にこんなことを願う資格はないかもしれないけど、できれば幸せになってほしい。


 「……よし、決めた(笑)」

 転生して十五年、今までは騙し騙しやってきたけど、もう自分を誤魔化すのはお終いにする。

 『神の祝福(笑)』がある限り、どれほどの力があっても俺は幸せになれない。ならば、この呪いを解くための方法を探しに行こう。

 この世界は広い、なんの手がかりも無しで探すのは難しいだろうけれど、このまま何もせずに手をこまねいているよりは打開策を探して動いたほうがマシだろう。


 「さよなら(笑)」

 俺は最後に一度だけ、もう二度と帰ることはないであろう生まれ育った街を振り返って呟き、そして街に背を向けて歩き出した。

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