第45話エピローグ(俺達の夢)-1

卒業式の後は校長の計らいで新学期までの間、育児休業を貰った。

その間は夢の世話と家事に明け暮れた。三時間おきのミルク、食事の用意、洗濯、掃除など。まあ、洗濯や掃除は以前から少しはやっていたので、苦にはならないし、食事も今はまだ大人の分だけなのでそんなに困らない。これも貴重な体験だと楽しんでいる。

夢の一か月検診では普通の赤ちゃんより詳しい検査などで時間が掛ったが、特に異常や問題は無かった。

もうすぐ夢が産まれてから二か月になろうとしている。

外は桜が咲き乱れている。

もう春だ。


 そして今日から新学期が始まる。今年は一年生の担任だ。

夢の保育園も決まって、すべて順調な滑り出しだ。

「理くん、今朝は私が夢を保育園に送って行くからね。お迎えはお願いね」

「了解!」

電車に乗り、学校までの通勤は妊娠前のそれとなんら変わらない。

ただ、気持ちの上で何かが違っているように思える。

「生徒は各教室で担任が来るまで静かに待機するように」

教頭の言葉で始業式が終わった。

実は入学式の日は育児休暇中で欠席していたのだった。

なのでこれが生徒達と初対面となる。

 もちろん俺が妊娠していた事など知るよしも無かった。

校長は俺が妊娠していた事を生徒に言うかどうかは俺に任せると言った。

教頭を始めとする他の先生は公表しない方が良いと言った。

もちろん新しく赴任して来る先生にも、だ。

以前の俺なら悩んだかも知れないが、答えはすぐに出た。

「今日からこのクラスの担任になる多田理です。かの文豪、太宰治に因んで名付けられたので先生は太宰治が大好きです。先生が入学式に出られなかった訳は、実は……」

そのうちどうせ二、三年生からの噂を聞く事になるだろうし、黙っていても仕方がない。

もちろんマスコミなどには秘密だと口止めをしておいたが、しかし今となってはお腹が大きい訳でもないし、子供がいても俺が産んだという事実確認など出来はしない。性質の悪い冗談だとしか思わないだろう。

それでもやっぱり、俺は命の大切さを教えていく為にも本当の事を話しておきたかったのだ。

たかが国語の一教師。教科としては専門外。何が出来る訳ではないが、伝えていく事は出来る。命の繋がり、人との繋がり。決して人は一人では生きてはいけないという事。

それを伝える為には、包み隠さず自分の事を話していきたかった。

「……と、いう事で俺は貴重な体験をしました。信じれない人も多いかも知れません。でも俺は命の大切さを教えたくて、みんなに聞いてもらいました。これから一年間、国語だけでなく、色々な事を教えていくつもりですのでみんな、よろしく」

やはり男子の方が信じないばかりか、俺を変人扱いした。

女子の方はというと、何故か俺は人気者になり、キャーキャー言われるようになってしまった。女心というのが俺にはよくわからない。

しかもこの事が後に静流の耳に入り、物凄いやきもちを焼かれて大変だった……。

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