第17話6か月(噛みながらカミングアウト)-5
(そういやお義父さんたちに最近全然会ってなかったなぁ)
電車に飛び乗り、席につくと一抹の不安に襲われた。
(急にやって来て、俺のお腹の中に子供がいますなんて言ったら……普通信じないよな……。それどころか変な奴とか思われて無理やり別れさせようとしたりとか……。ああ!どうしよう!)
「何て言おうか……」
とりあえず、静流の実家へと急いだ。とは言っても妊娠中なので走ったりは出来ない。
「もどかしいなぁ」
世の妊婦さんは緊急事態には一体どう対処しているのか?一度聞いてみたいと思った。
「やっと、着いた……」
玄関のチャイムを鳴らす時、正直戸惑った。どんな顔して会えば良いんだろう?これが静流の妊娠だったら大喜びで出迎えてくれるだろうに。玄関前で百面相の様にころころと表情を変えて悩んでいたら、急にドアが開いた。
「あら!理さん、どうしたの?」
ドアを開けたのは静流のお母さんだった。
「ごっ、ご無沙汰してます……」
引きつった笑顔でとりあえず挨拶だけは済ませた。
「ちょうど良かったわ~。静流の様子がおかしいのよ~。あの子、何かあったんじゃないのかしら?理さん、何か聞いてない?」
ああ、やっぱり。お袋が思った通り、静流は言えなくて困っていたようだ。
「とにかく中に……」
一刻も早く静流に会わなくては。俺が助けてやらなきゃ。居間に通されるとそこには静流と義父、義妹の美千歌が座っていた。
「理く~ん」
今にも泣き出しそうな顔で静流がすがってきた。
「んん?理くんじゃないか、一体どうしたんだ?」
義父が不思議そうにこちらを見ていた。
「んんん?理くん、少し太ったんじゃないかね?」
「あれ?本当だ!ちょっと太った?」
美千歌にまで指摘されてしまった。
「あらあら本当ねぇ。今流行りのメタボ?」
お義母さん、メタボは流行りでなるものじゃないでしょう、と言いたかったが、今はそんな事言ってる場合じゃなかった。
「実は大事なお話があって、来たんです」
もうこれ以上誤魔化せないと悟った俺は静流と一緒に説明を始めた。
「……と言う訳で今、僕のお腹の中には子宮があって、その中には二人の赤ちゃんが居るんです。必然的に産むのは僕で、父親にも母親にもなるという不思議な感じなんですが……、二人の子供なのは間違いなくってですね……」
義父達は意外にも落ち着いて物静かに聞いてくれた。
「という訳なの。今まで黙っててごめんね」
静流が義父の顔を覗き込んだ。
「お父さん?」
「お義父さん?」
表情が変わらない義父を、俺と静流と義母と美千歌が覗き込んだ。義父の目の前で手のひらをヒラヒラさせている。
「あっちゃ~、お父さん、気絶しちゃってるよ」
美千歌が義父の肩を揺するとそのまま倒れてしまった。
「どこまで聞いてから気絶したのかしら?」
義母は呑気な心配をしていた。
「でもお姉ちゃん、これってマスコミとかが黙ってないんじゃないの?」
美千歌はマスコミの心配をしているようだった。
「もしそうなったら、アタシの所にもインタビューとか来ちゃったりして!ひゃ~!何着て出ようかな~?あ、新しい服、買いに行かなきゃ」
「ちょっ、ちょっと!それじゃ理くんが晒しモノになるって事?!そんな事にならないように教授とかも慎重に進めているのよ!……まさかあんた、マスコミに理くんを売るつもじゃあ……」
「やっ、やだなぁ、そんな訳ないじゃない。もし、そうなったらって事で……」
「そうよねぇ、そうならないとも限らないし……お母さんも服、買いに行こうかしら」
「ちょっ、お母さんまで!」
女性は強いなぁ、と改めて思った。
「あの〜……、お取り込みの所悪いんですけど……。お義父さん、このままで良いのかなぁ…?」
「ああ、理さん、悪いけどお父さんにお布団掛けといてくれる?」
「……はい」
義母にそう言われて、俺は義父にそっと布団を掛けた……。
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