パーソナリティ
伊豆 可未名
プロローグ
8月5日
人工知能達は順調に成長している。
脱走事件の後から、レガシーはずっと自意識に敏感だ。ネットの世界で自分を失いかけたのがいい経験になったみたい。勉強にも熱心になった。人間とは違う、ヒューマノイドに搭載された人工知能でしかない自分自身のことや、この世界や地球上で起こっている事を知りたがり、情報を集めては私や悠真に意見を言う。すごく面白い。まるでどこにでもいるちょっと頭がいい方の中学生みたい。悠真も悠真で、レガシーに新しい事を教えたり、ちょっとした難題を吹っ掛けたりして、様子を窺っている。
フィートは琉星と出かけるようになった。格闘技の試合を見に行ったり、スポーツ観戦したり、練習試合に出てみたり。琉星は「型を覚える(ダウンロードする)だけでなく、実際の試合で勝つために必要な勘や洞察力を鍛える」と言っているが、人工知能にできるのかどうかは私にもわからない。レガシーが「相手の動きを記録して、次の動きを予測することはできる」と言っていた。脱走した時はその方法で琉星を出し抜き、フィートを助けたそうだけど、私はその瞬間を見ていないので確かなことは検証の余地がある。スポーツの試合では予測不可能なことが沢山起こる。相手に自分の動きを読まれることだってある。そうした場で人工知能が選手として機能するのかどうか、私も知りたい。琉星が、フィートが出た試合の映像を記録してくれているが、なかなか見る暇がなくて後回しになっている。早く見ないと。
シバは私と一緒にいることが多い。友達がシバを気に入ってくれて話し相手になってくれている。「人工知能なのに滑らかに会話ができるのがすごい」と友達は喜んでくれるし、シバも「人間の話す言葉の文脈やニュアンスを読み取るために、相手の表情や仕草、それまでの会話の流れ、以前までにその人としてきた会話でどんなことが話されたかなど、色々な角度から判断して、一言一言の真意を読み取る方法がわかってきた」と言っていた。それと、何故だかわからないけど、フィートが外で遊んで汚した服を洗いに一緒にコインランドリーに行ったら、洗濯機が気に入ったらしく、いつもコインランドリーに行くと洗濯機の動きに見入っている。
ストリクトは体を動かすことより、考えることの方が多くなった。どうしてもヒューマノイドの性能上できないことがありすぎるので、人工知能とヒューマノイドとの繋がりが薄いとでも言えばいいのだろうか。試しに受信機を人工知能と直結させてみたら、電子書籍を読むようになって、「この本が面白い」とか「この本が気になるけど電子書籍化されてないから紙媒体を買ってくれ」とか言うようになった。本当は視覚センサーの性能を上げればいいのだけど、それではストリクトの実験のためにならないので、ストリクトのヒューマノイドに使われている視覚センサーの弱点を補った眼鏡を作ってあげた。それからは、いつも本を読んだり、電子書籍を読んだりしていて、まるで文学少女だ。
それぞれの人工知能は個性が顕著になってきている。それに、高度な事を覚え始めた。そろそろヒューマノイドをリサイズする時期かもしれない。でも、各機の成長の度合いは変わってきていて、人間で言うところの年齢みたいなものを合わせるべきか、それとも人工知能の成長に合わせて年齢を決めてバラバラにしてしまうか、どちらも興味深い方法ではあるが、決めかねている。どちらがあの子達のためになり、実験にいい結果をもたらすだろうか。
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