第2話 咲埜
物心つく頃には、祖父はもういなかった。
墓参りも行ったことがない。
祖父の話など一度とても聞いたことがない。
祖母は健在だ。
だが私は、気づいたら祖母のいない環境にいたから、彼女のことをよく知らない。
祖母は私のことを常に遠ざけてるような気がしてた。
何となくだけど。
気丈で、寂しい目をした人だった気がする。
いや、覚えてる。
厳しい眼差し。
一時期、母が働きに出るとき、私を祖母の家に預けるため連れて行ったことがあるが、ひどく祖母は険しい表情をした。
嫌われてるのだと感じた。
祖母は必要以上に私に近寄ろうとしなかった。
踏み入れない何かを感じ、祖母と過ごす時間が子供ながらに不安だったのは。
その目に宿る言いしれぬ闇を読みとったからかもしれない。
そんな祖母が、入院することになったらしい。
「お祖母さんのところ、行ってくるね」
「うん、いってらっしゃい」
母は、私を見て、何かを迷ったようだが、結局口を開いた。
「一緒に行く?」
「行かない」
そうよね。という顔をして、母は、出かけようとしたが、ふと気付いたように言った。
「咲埜。あなた、アレ以来、黒い犬、見たことある?」
「犬?」
妙に引っかかるワードだった。
「あ、いいの。見てないなら」
踵を返し、靴のかかとをトントンやる母は、私の表情を仰ぎ見て複雑な表情をした。
「…私が出てる間、外に出ないでね」
「お母さん、私もう子供じゃないんだから」
「そうよね。わかってるんだけど」
釈然としない妙な間があって、母は、自分に言い聞かせるみたいにかぶりを振ると、
「行ってきます」
と出かけて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます