アンデッドマン・アンイージーライフ

koutori

プロローグ

第1話:目覚め


「……ああ、うう……」


 呻き声が漏れた。

 深い眠りから視界が開け、全身が重くて持ち上がらない。硬い地面に身体が縫い付けられたかのような、酷い倦怠感があった。


 何度か腕を立てて身体を持ち上げ、そして失敗する。

 赤ん坊でも出来るようなことが、出来ない。あんよもハイハイも。身体のあちこちがバラバラで、挙動が纏まらない。


「暗い……」


 ピチャン、ピチャンと何処かから水滴が跳ねる音が聞こえる。

 擦れる音、動く時の物音がいちいち木霊して響く。


 目が暗闇に慣れた頃、自分が剥き出しの土壁に囲まれていることに気付いた。

 狭くはない。吹き溜まりのように開けた場所だ。鼻をすすると、土臭さが咽頭に残った。


 やがて、肘を立て、膝をつき、這いつくばった状態から起き上がった。


 ゆっくりと、忘れてしまったものを一から確かめるように、立ち上がる。

 ぐらつき、重心はぶれ、足元が覚束ない。

 あまりの不安定さに、自分が寄せ集めた部位が集まっただけの存在であるかのように思えた。


 しかし、立てた。

 問題なく、二本の足で。


「ここ、どこだ」


 たった一言喋るだけで、喉は歪んだ。

 長い時間使われなかったのが分かる。


 立ち上がって辺りを見渡しても、やはり何も無い。がらんどうだ。


 そして、先程から一つ疑問であることを、口にした。

 いや、そうせざるを得なかった、と言うべきか。



「────俺は、誰なんだ……?」



 声に反響した木霊だけが、虚しくその問いかけに答えた。


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