The second person No.2

 あなたは、いつもそうだった。

 すぐに衝動で動いてしまう。

 そしてあなたは、そのことをよく知っていた。

 が、とめられない。


 仕方がない。今回も早く片づけよう。

 そう思ったあなたは、両手を背後から回し、引きずりながら運んでいく。

 やはり、力が抜けていると急に重くなるものだ。


 あなたがズルズルと引きずるたび、土の地面に二筋の線がついていく。

 それを見たあなたは、「後で消さなくては」と考える。


 頭上には、雲一つない空に月の鏡がひとつ。

 その月明かりしかない中でも、これだけしっかりと見えてしまうのだ。

 昼間になったら、言い訳のしようがない。


 あなたの耳に、ミミズクの鳴く声が聞こえる。

 ミミズクって、こんな鳴き声だっけと回想する。

 木々に寒々と残った枯葉が、風にかすれる音がする。

 かさかさと響いてる。


 その中に、ずるっずるっという異音が重なる。


 その音を聞く度に、あなたの鼓動が早くなる。

 誰かに聞かれていないかと心配になる。


 だが、幸いだった。

 あなたは、ラッキーだった。


 誰にも見つからずに目的地に辿りつけたのだ。

 そこには、さっきあなたが掘った穴がある。


 掘り返した土の臭いが、あなたの鼻腔を刺激する。

 ほら、そう。あの湿気臭いやつだ。


 あなたは、その臭いを払うように、大きくため息をつく。


 さてと。

 重いながら運んできたこれを中に入れなくてはならない。


 しかし、あなたは見比べて、やはりと肩を落とした。


 はたして、穴が小さかったのだ。

 掘った時に、予想はしていた。

 だが、岩盤が固くて、これ以上は深く掘れない。

 周りも、木々の根っこが邪魔をして広げることができない。

 さりとて、他に適当な場所はない。


 あなたは、あきらめて最後の手段をとることにした。


 運んできたそれを地面に広げたブルーシートの上にのせる。

 必要になるかと、あらかじめ立てかけておいた斧に手をかける。


 木製の柄は、湿気を吸って少し冷たい。

 それを片手で握って……だが、あなたは重くて持ちあげられない。


 しかたなく、あなたは両の手でそれを握って持ちあげた。

 先端に偏った、ずっしりとした重みが伝わってくる。


 あなたは転がした物を見ながら、よく見ながら考える。

 そして、やはり四本とも切ってしまおうと決めた。


 まずは、一本。


 あなたは、斧を振りあげる。

 これほど重さがあれば、自重で切ることができるだろう。

 それほど力はいらないはずだ。


 力むよりも、慎重に行おう。

 そう考えたあなたは、狙いを定める。

 付け根より少し先。


 ――ふりおろす。







 あなたの耳に斧でたたき切られる音が響いた。


 飛び散っている。

 すごく飛び散っている。

 水風船が破裂したみたいだと、あなたは思った。


 薄暗いから色まではよく見えない。

 しかし、あなたは知っている。

 想像すれば、鮮やかに色が浮かびあがる。


 上手く切れた。

 ブルーシートも切れたが、このぐらいの漏れならごまかせるだろう。

 あなたは、そう思いながら、残りの三本も無事に切り落とした。


 そして、ブルーシートごと引っぱって、穴の中に落としてしまう。


 いつのまにか、生ゴミのような臭いに包まれている。

 あなたは早く帰りたいが、まだやることが残っている。


 あなたは、小さなライトでそこを照らしてみた。

 青いシートに赤い模様。

 転がる残骸。

 取りこぼしはないかと、よく確かめる。


 ちょうど、目が合う。


 あなたは、その目の色を見た。

 あなたを見る、愛しそうな瞳。


 あなたは、その声を思いだした。

 あなたを呼ぶ、嬉しそうな声。


 あなたは、おもむろに近づくと、その髪をひと撫でした。

 いつも撫でていた、その感触を想起した。


 だが、目の前に在るのは、とても知っているモノと一緒には思えなかった。


 だから、シャベルを手にして、あなたは土をかけた。


 見ないように。

 見えないように。

 あなたは、ひたすら土をかけた。


 あなたの目の前に在るのは、不自然に盛られた土の跡。

 そこに穴はなくなった。

 運んできた物も見えなくなった。


 あとは痕跡を消せばいい。

 それで終わりだ。

 見た者は……あなただけだ。



 ところで、あなたに訊ねたい。


 よく思いだして欲しい。





 あなたが最後に見たのは、どんな顔だった?

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