歌音の罰

              ――※※※――


 六年前から、私の罰はまだ終わっていない。


 一番の親友だった圭介を失ってから、六年。

 圭介が死んだのは私のせいだ。

 告白する手伝いを頼まなければ圭介は死ななかった。

 あんな雨が降る日を選ばなければ圭介は死ななかった。

 蛍にこだわらずに、すぐに響に告白していれば圭介は死ななかった。

 考えれば考えただけ、いくらでも分岐点が浮かんでくる。

 圭介の葬式で、私はどれだけ泣いただろう。

 人生で流す涙の半分は、あの日に流した気がする。

 泣いて泣いて、泣きじゃくって、声が出なくなるまで泣いて……泣き止んで、声を出そうとしても本当に出せなくなっていて。


 ――罰だ。


 そう思った。

 親友を死に追いやった報いに、私の一番大切な『歌』を神様は奪ったんだ。

 歌を奪われて、私の『夢』も一緒に奪われることになった。

 ずるい私には当然の報いだと思う。

 あの日以来、私は言葉を失ったまま。

 圭介を殺しておいて、響に告白なんて、好きだなんて言える訳がなかった。唯一救いだったのは、響がずっと私の傍に居てくれた事だ。響は響で、圭介の死にも、私の声が出なくなった事にも責任を感じていたんだと思う。

 私は、響のせいではないと思いながらも、響にそれを伝えなかった。私がそう言えば、響も少しは楽になれたはずなのに。言ってしまったら、響が離れて行ってしまう様な気がして怖かった。

 結局、私は響に甘える日々に慣れてしまった。


 声を失うって事は想像以上に大変だった。

 例えば、遠くにいる人を呼ぶ手段がない。

 例えば、危険な状況でも悲鳴が出せない。

 でもそれ以上に辛かったのは、感情や意志が伝えられない事だった。

 小さい頃から褒められる事と言えば歌に関する事で、歌う事は大好きだったし、それこそ息をするのと同じように、当たり前の事として歌っていた。

 歌えば、私の感情は周りに伝わるみたいだったから。歌う事でコミュニケーションが成り立っていたと思う。

 それなのに、歌うことが出来ない。

 メールとか手紙とか、方法は一杯あったけど、歌とは比べられる訳がなかった。

 私にとっての『歌』は、一番の表現方法だったから。

 嬉しい時も、悲しい時も感情が高ぶるといつだって、感情が体の内側から旋律になって湧き上がってきて、自分でも抑える事が出来ないから歌にしていた。それこそ、物心がつく前からそうしていたのだから、代わりになるものなんて見つけようがなくて……。

 告白する時に、迷いなく歌に歌詞を付けようと思ったのはそれが一番伝わると、考えるまでもなく分かっていたからで。

 自分の気持ちを――響を好きだという気持ちを伝えられるとしたら『歌』しかなかったのに、声を失っては伝えられる訳がない。

 だから、これは罰なんだ。

 受け入れて、私は罰の終わりを待った。

 六年しても私の声は戻ってこない。

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