盲目のスナイパー

クロム

第1話「盲目のスナイパー」誕生

1919年。6月26日。


フェルメール・ブランクという男が産まれた。


だが…、男は明らかに普通では無かった。


そう、フェルメールとは俺の事。


俺は、生まれつき目が見えなかった。


人が綺麗という景色も見ることはできない。


普通の人なら気づく色に気づかない。


そして、自分の親すらも分からない。



そして「普通の人達」は皆、口を揃えて言う。


「可哀想に。」


と。


目が見えない俺を助ける訳でもなく、ただそう一言。


蔑み、憐れみ、そんな感じだ。


俺の毎日は。


確かに俺は目が欲しかった。


みんなの可哀想だと言われる目が。


だが…。目が見えれば、相手の表情が分かる。相手の気持ちが少なからず、わかってしまう。


それは、本当に幸せなのだろうか?


俺は日常でそんなことばかり考えていた。


だが…、そんな日常がある日突然変わった。


20歳になろうかという年だったか。


第二次世界大戦が発令された。


俺はその時、大学に在学しており、これからどうなるかと不安を抱えていた。


だが…。その不安を知っているかのように、事は起きた。


一通の手紙が来たのだ。


手紙には、アメリカ政府からと書いてあり、ただ、他には一文だけ。



「あなたをアメリカの徴兵制度により、アメリカ陸軍への入隊を決めました。」


そして、もう一枚の紙に何やら難しい契約書が同封されていた。


ああ、断っておくが、目が見える訳じゃない。ただ手紙の凹凸を指でなぞって、読み取っているだけ。


俺は手紙を受け取ると、とりあえずアメリカ陸軍基地の受付へと向かった。


「あの…。俺は盲目なんです。病気による徴兵は禁止されているはずでは?」


すると受付の男は冷静に言った。


「数が足りないのです。あなたのような目の見えない人でも、兵士、もしくは衛生兵などの役割を果たしていただかないと…。」


何で何だ?目が見えない俺に何が出来るってんだ?


それに何より禁止されているはずだ。


俺はもう一度言った。


「私に兵士が務まるとは思えません。誰か他に適役の人が居るはずでしょう?」


すろと、男は鬱陶しかったのか、怒ったように言った。


「言ったでしょう?数が足りないのです。それとも、あなたは祖国を見捨てるというのですか?」


俺は少しムッとしたが冷静に返す。


「そうは言っていない。ただ、わたしは盲目なのだ。こんな身体では、精々、他のひとのかわりに犠牲になる事くらいだ。」


そう言うと、受付の男は驚くべき一言を放った。


「では、そうしてください。」


「なっ…!」


「失礼。言葉が過ぎました。ですが、あなたもアメリカ市民なのだ。愛国心を示していただきたい。」


「…………。」


俺は何も言い返せなかった。


「詳しい事は陸軍本部で決めます。それまでは、基地内で待機していてください。」


俺はただ、従うしか無かった。


俺の父が「愛国心」を持って生きろ。


と、いつも言っていたから…。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


そして、俺は陸軍の入隊テストで一通りの訓練をしたあと、何やら別室に通され、驚くべき事を陸軍のお偉方に言われた。



「君は目が見えないが…、他の感覚が鋭い。射撃訓練でも最高スコアを叩き出した。」


「はぁ…。」


呼び出された俺は訳が分からず相槌を打つ。


「よって…。狙撃部隊。その中でも特に優秀なエリート部隊…。」


「チーム、レイブンに入ってもらうことにした。」


「え!?」


訳が分からず聞き返す。


「喜びたまえ。こんな偉業は我が軍初だよ。私としても鼻が高い。」


「待ってください…!私は目が見えないんですよ!?なのに…。」


お偉方は俺の言葉を遮るように言った。


「そんな事は関係ない。君の腕は確かなのだ。動く標的を、音と感覚だけで全て命中させた。その事は揺るがぬ事実なのだ。」


「ですが…!」


「愛国心を示したまえ…!」


男は怒ったように一言言った。


「…………。」


俺はまたもや何も言い返せなかった。


「とにかく決定事項だ。詳しい事はまた後日話す。今日は基地の部屋で休みたまえ…。」


こうして、「盲目のスナイパー」が誕生したのだ。

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