オイラは迷犬「タロー」

北風 嵐

p1

 漱石の名作に『吾輩は猫である』がある。主人に「何で、猫に負けているんや、吾輩のこと書いてくれ」と言ったが、「お前はアホ犬や、どうして書けるねん」と言われた。

 主人は、自称「小説家」である。出版した本は1冊もない。「なんやらノベリスト」とかに投稿して、たまに1位になったとかで、「俺は小説家や」と自慢している。


 文を書いているのか、恥を書いているのか、飼われている身としては、後者でないことを願っている。主人は機嫌のいい時、悪い時が激しい、それも、良いと思っていると、急に不機嫌になって、怒り出す。合わせるのに大変だ。

 でもお陰で、人様の顔色を見るのに長けた犬になったと、思っている。せやのに、「アホ犬とはなんちゃ~!」。犬は飼い主に似るという。ならぬよう勤勉努力これ努め、自分では名犬とはいかぬまでも、「それなりの犬」と思っている。


 主人は腰が悪くてオイラが楽しみにしている散歩も最近おざなりだ。毎日は行くのだが、2年前は1時間、1年前は30分、最近ではいつものコースは週1回で、近回りばっかりで、やっとこさ、おしもの大小を済ませられる。それも、せっつかれて忙しいものだ。どうも、最近便秘気味なのはそのせいかも知れない。お陰で、愛しの「メリー」ちゃんとは週に1回しか会えない。ごめんね、メリー。

 奥さんは犬にてんで興味がない。怒りもしない代わりに、可愛がってもくれない。ただ、餌だけは怠りなしにくれる。オイラは「タロー」というのだが、名前を「ジロー」と呼んだので、知らんぷりしていたら、「これ、イヌ」と呼んだ。

人様に「これ、人間」と呼ぶか!失礼な人だ。


 食事は隣の「ジェームス」君のように、ドッグフードとやら上等なものではなく、主人たちの食べ残し、残飯である。朝は冷や飯に、冷めた味噌汁のぶっかけが定番。冬はチトつらい。でも、隣のジェームス君を見ていると、毎日同じものだ。その点、「夕食は何だろう」という楽しみがある分、いいのかも知れない。

 昔は残飯といえども、ビフカツの端くれ、すき焼きの残りとご馳走があった。退職し年金だけの生活になって、そんなものは無くなった。消費税が上がるという。また、食事の内容が落ちるのではないか心配している。


 オイラは「イケメン犬」として、近在ではモテモテであった。メリーちゃんは無論、散歩で行き交う「じゅん子」ちゃんに「ハナ」もおいらに流し目を送ってくれていた。「じゅん子」ちゃんは、素直な性格なのだが、「ハナ」は「花子と呼んでおくれ」とチトうるさい。

 最近、主人のせいで運動不足がたたり、途中「じゅん子」ちゃんに、「ワンワン!愛してる~」と吠えたら、横を向かれ「メタボ」と言われた。ああー、飼い主に似て来たのだ。


 隣のジェームス君のところには、柵の壊れ目から度々訪問する。隣は大学教授で、敷地はオイラの主人の家の3倍はある。芝生の庭を自由にジェームス君は飛び回っている。オイラもご一緒してダイエットに努めている。ジェームス君はオイラより三つ上で、物知りだ。

「最近の安倍くんはよくない」とか「靖国参拝はいけない」とか言っている。座敷でTVを見ているのだ。おいらも勉強の必要を感じ、座敷に上がってつけ放しのTVを見ていたら、奥さんに「こら~!アホ犬」と追い払われた。

 ジェームス君の話を聞いていると、「これからの日本はどうなるのか」と心配で寝れないこともある。「今晩のメニューは何だろう」ぐらいの心配で収めて欲しい。


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