恋味アイスキャンディー

終末禁忌金庫

第一話 深山青子

 ○第一話


 季節は夏、夏休み。高校を卒業して、大学に進学したところで、僕の身辺の何かが変わるという訳ではなく、恋人のひともできやしないし、無難に上半期を過ごしてきた。

 大学の夏休みは二ヶ月あるという。なんたる至福か。が、それも1ヶ月経てば考え方が変わってくる。残りの1ヶ月、なにをして過ごそう。

 幸か不幸か、ゲームをするような性分でもないし、際立って読書好きという訳でもない。かといって、部屋でクーラーをつけっぱなしにして、一日中寝転がっているというのも不健康だ。

 一念発起。コンビニへ向かおう。目指すはアイスキャンディー。

 と、玄関を出たところで、早速くじけそうになる。夏の暑さは地獄的だ。

 気を取り直して、自転車にまたがる。スムーズに発進して、いざコンビニ。

 十分ほどの道中を颯爽と駆け抜けて、自動ドアでをくぐる。途端に、心地よい冷房が額を、頬を、首筋を撫で付けていく。このままコンビニに居付こうかしら。悪魔的な思考が鎌首をもたげてくる。しかし、頭を振って考え直す。冷凍庫でアイスキャンディーをつかみとりレジへ向かう。精算を済ます。

 再び自動ドアをくぐる。思わず唸り声すら上げてしまいそうな暑さを、アイスキャンディーに意識を向かわせてかわす。さて、

 不意に、ゴミ箱の前に立つ女の子に目が行く。あの子の手にも々アイスキャンディー。持ち手がふたつ付いていて、半分に割れるタイプのものだ。

「あ」

 ふたつに割るタイプなのだから、ふたつに割って食おうというのが、ふつうの心意気だろう。それにならって、彼女も木の柄をつかみ、左右に引っ張った。その時、事件が起こった。

 アイスキャンディーが彼女の指をすり抜けて飛び出した。あとは言わずもがなである。

「あ、ああ」

 女の子が小さくうめく。あわれ少女よ。僕は君の分まで堪能して見せよう。

 肩を落としてあからさまに落胆する少女の体が跳ねる。

 おもむろに頭が動き出し、視線は僕の方へ。思わず僕も目を合わせてしまう。


「はんぶんこしてください!」


 それが、僕と彼女――深山青子の出会いだった。


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