01.

私立奏雅そうが学院高等部


――キーンコーンカーンコーン…


 放課後を知らせる鐘が鳴り、生徒たちは各々談笑しながら帰路や部活へと向かっていく。

その廊下を全速力で駆け抜ける、一人の男子生徒。

目的の教室に到着するや否や、満面の笑みで声をあげる。


「美月せんぱーい!祐希せんぱーい!帰りましょー!」


最早日常茶飯事だと言わんばかりに、呼ばれた本人たちや、残っていた生徒たちも気にする様子はない。

 彼の名前は久我練くがれん、奏雅学院高等部二年生。

そして練に呼ばれた二人は、一ノ瀬美月いちのせみつき黒崎祐希くろさきゆうき。それぞれ三年生だ。

 去年二人は生徒会幹部で、練は友達の代わりに出席した委員会で二人に出会い、それからちょくちょく仕事を手伝ったりして、今の関係に至っていた。

三人で並んで帰り道を歩く。何気ない、たわいもない会話。

しかし、練には美月に聞いておかなければならないことがあった。

足を止め、二人を交互に見つめる。


「どーかしたか?」

「練…?」

「美月先輩…、昨日……港にいました?」


練の言葉に、二人は一瞬互いの顔を見合わせる。


「…昨日?確か…港で昨日、なんか事件あったのよね?」

「貨物船襲撃事件、だっけか」


必死に言葉を探す。


「…そう、なんですけど……そうじゃなくて…!俺、昨日あの辺りにたまたまいて、その時に……その…」


言いたいことが上手く言葉に出来ない。ふと顔を上げると、二人と目が合う。


――ゾクリッ

背中に冷たい汗が流れる。

目が合った瞬間の二人の表情。

一瞬だけ自分に向けられた、冷たくて射抜くような視線。初めて彼らを”恐い”と思った。


「…私に似ている人でも見たの?でも、ありえないわ」

「だな。だってこいつ、俺と一緒にいたしな」

「…そう、ですよね…。あんなとこに、美月先輩がいるわけないですよね…」


思い出しただけでも、何かが胃からせり上がってきそうになる。


「他には何か見たの?」


練の背中をさすりながら、美月は問う。


「…いえ…、あとは…鉄みたいな臭いがしてただけで……」

「そう…」


 それからしばらく、美月に背中をさすってもらいゆっくり歩く。落ち着いた頃には、自分の家に着いていた。二人にお礼を言って、練は家の中へと入っていく。

練が家の中へ入ったのを確認すると、歩きながら美月は顔をしかめる。


「……っ。見られてたなんて迂闊だったわ」

「あいつは、お前だってはっきり気付いてるわけじゃねーべ?

あの様子だと、離れた場所から見たみたいだったし、死体は見られてないじゃねえか?まあでも…一応、あとは俺が引き継いどくわ」

「祐……、アンタが動くの?」

「おーよ。ちょっと調べ物あるし、ちょうどよかったつうか。んじゃ、俺忙しくなるから明希への報告頼むわ」

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