ドシロウトによる科学のイチ考察
由文
ブラックホールとホワイトホール
ん?誰だい?
あぁ、君か。いつも唐突だね。でも待っていたよ。待ちくたびれていたほどさ。
入り口に立ってないで中に入ってきたらどうだい?
さあ、そこのソファにでも腰を掛けたまえ。コーヒーでも飲むかい?まあ、僕が話すのがメインで、君が話をする訳ではないけれど、話が長くなると喉も乾くだろう。さあ、遠慮せずに飲みたまえ。
さて、今日のテーマは宇宙についてだ。
ブラックホールは知っているよね?うん、当たり前の質問で申し訳ない。ではホワイトホールは?うん、これも知っているね。
いきなり何でこんな質問をするのかって?うん、いい質問だね。そう、僕は今回、宇宙について大発見をしたんだよ。今まで誰も発見していなかったとは、全くもって不思議なくらいだ。いや、偉大な僕だからこそ発見できたのかもしれないね。
是非、聴いてくれたまえ。
ブラックホールは宇宙に存在する、全てのモノを吸い込み続ける。厳密にいうと太陽を超える圧倒的な質量から生じる重力によってあらゆるものを引き寄せ、原子すらその形を留められないほど限りなく圧縮してしまう。その引力は一定の距離まで近づいたら、光さえ逃げることは出来ない。ブラックホールは想像ではなく観測されていて、実際に存在しているんだ。
ブラックホールという言葉が出ると、対となって出てくるのがホワイトホールだ。ホワイトホールは、ブラックホールが吸い込んだものを吐き出す対の存在だ。ブラックホールに吸い込まれたものは、ホワイトホールから別の宇宙に吐き出されるという訳だ。こちらは観測されておらず、残念ながら概念的な存在だ。
ところで少しだけ話が逸れるが、宇宙の始まりというのを知っているかい?そう、ビッグ・バンだ。今ある宇宙が生まれる前、そこには何もなかった。そこに大爆発が起きた、ビッグ・バンだ。これによって宇宙が始まり、今の宇宙が生まれた。このビッグ・バンは今も続いていて、宇宙は今も広がり続けている。宇宙が生まれてから約140億年、ずっと広がり続けているんだ。
もう一つ。ブラックホールはどうやって出来るか知っているかい?
ん?元々あるものだと思ったのかい?宇宙に始まりがあるように、ブラックホールだって始まりがあるんだよ。
宇宙には太陽よりもっと大きな、恒星がある。恒星というのは太陽のように自分で光る星のことだね。ちなみに月は恒星じゃないよ。光って見えるが、それは太陽の光を受けて光って見えるのであって、自分で光っているわけではない。
え?それくらい知っている?小学生の理科で習っただと?ああ、失礼。余計な解説だったね。
では、気を取り直して。
その、恒星は寿命が来ると、爆発する。これを超新星爆発という。寿命を終え、超新星爆発をした恒星には、二種類の結末が待っている。一つは元の大きさからするとずっと小さな、白色矮星と呼ばれるモノになること。もう一つは、そう、ブラックホールになるんだ。
ブラックホールになるには、生半可な大きさの恒星じゃなれない。もちろん、太陽では無理だ。太陽よりずっと大きな恒星じゃないとダメだ。質量で約30倍以上の大きさだね。
そんな大きな恒星が寿命を終え、超新星爆発を起こす。白色矮星になろうとするが、その大きな質量ゆえに、星としての形を維持できずに、自身の重力で崩壊してしまう。重力崩壊というやつだよ。これを起こすと、物質の最小単位であるという原子でさえその形を保てず、崩壊し、圧縮されてしまう。そして質量の中心に向かって永遠と圧縮され続ける。
そう、これがブラックホールだ。
ところで、先ほど宇宙の始まりの話をしたのを覚えているかい?そこまで物覚え悪くないって?ああ、失礼。話の流れの単なる確認だ。気を悪くしたなら謝るよ。
さて、ここからだ。襟を正して聞いてくれ。
一つ、宇宙はビッグ・バンにより生まれた。
一つ、宇宙は広がり続けている。
一つ、ブラックホールは恒星が爆発して生まれる。
一つ、ブラックホールは圧縮し続ける。
さあ、ここで話はつながる。
気付いたかい?そう、宇宙もブラックホールも、どちらも爆発で生まれるんだ。これは単なる偶然じゃない。宇宙は爆発で生まれた。その爆発、ビッグ・バンは、超新星爆発だったんだ。宇宙が生まれる前、そこには一つの大きな恒星があった。その恒星が寿命を終えたとき、大きな爆発が起きる。そして、その質量がある一定の量を超えると、あらゆるものを吸い込むブラックホールとなる。だが、ブラックホールが生まれるというのは外側から見た場合の話だ。
いきなり外側って言われても分からないって?これから生まれる宇宙の外側のことだよ。内側から見るとどうなるか。そう、爆発が起きた後、そこに広がり続ける宇宙が生まれるんだ。
さらに、ホワイトホールについて。実はこれも関係してくる。ホワイトホールは想像上のものなんかじゃない。
突然何を言い出すかって?いや、聴きたまえ。
一つ、ブラックホールは宇宙にあるあらゆるものを取り込む。
一つ、ホワイトホールは取り込んだものを別の宇宙に吐き出す。
一つ、ブラックホールは圧縮し続ける。
一つ、宇宙は生まれた後広がり続ける。
どうだい?この素晴らしい関係性がわかったかね?
ホワイトホールは、ブラックホールと表裏一体の存在、宇宙の外側から見るか、内側から見るかの、視点の違いだけで同じものなんだよ!つまり、ブラックホールとは、ホワイトホールであり、その中に宇宙が存在する。
今、僕たちが存在する宇宙は、生まれる前は名もない巨大な恒星で、寿命とともに爆発、新しい宇宙となった。そして、この新しい宇宙の中にもブラックホール、小さな宇宙は存在する。更に、宇宙が生まれる前の恒星も外側の宇宙に存在し、そこには他のブラックホール、つまり別の宇宙が存在しているってことなんだ。
宇宙は別の宇宙を内包し、そしてその宇宙もまた、別の宇宙に内包されている。星は寿命を終えると爆発し、新たな宇宙として生まれ変わる。
とても壮大で、それこそ天文学的にドラマチックな話じゃないか。
どうだったかね?すごい発見だろう!
ああ、コーヒーがもう無いようだね、おかわりでもいるかい?要らない?ああ、なら結構。
うん?どのようにしてこの偉大な発見をしたかって?閃きだよ。昨夜宇宙の特集をしていたテレビを見ていてね、その流れで夜遅くまでネットで宇宙の記事を眺めていたんだよ。そして今朝、目覚めたときに突然閃いたんだよ!すごくないかい?
観測?計算?理論の証明?君は一体何を言っているんだい?
科学に関してドシロウトの僕が、そんなこと出来るはずないじゃないか!
高校では理系だったが、成績は自慢じゃないが1、2を争う馬鹿だったんだ。特に数学や物理なんか、さっぱりだ。外国語どころか、まるで宇宙語を聞いている様な気分で授業をうけていた程さ。黒板の文字も宇宙語にしか見えなかった。悪いが授業の殆どは寝させてもらっていたよ。
でも、考えてもみたまえ。3年間、僕はそんな宇宙語を聞いていた。聞き続けていたんだよ。それはつまり、知らず知らずのうちに宇宙の真理のことを教わっていたってことじゃないか?まるで最近流行りの、英語を聞き流して英語をマスターする教材のようにね!そんな知らないうちに宇宙マスターになった僕が、宇宙の真理に気づくことは必然とは言えないだろうか?
おや、頭を押さえてどうしたんだい?
え、頭が痛い?大丈夫かい?残念だが頭痛薬は常備していないんだよ、すまないね。
ああ、もう帰るのかい?そこまで調子が悪いのならしょうがない。
そうだ。今日の話は誰にも話さないで欲しい。何故かって?こんな素晴らしい発見を他の人に盗まれるのは心外だからね。
親愛なる君にだから、話したんだよ。真理を知るのは、僕と君だけでいいのさ。
ああ、引き留めて悪かった。話が聴きたくなったらまた来たまえ。僕はいつでも待っているよ!
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