息子がひとりで○○した話
息子がひとりでふらっとトイレに入って、用を足して、なんともない顔して出てきた時は、かなり驚いたものだった。君、いつの間にそんなことできるようになったの、と。
そういう種類の、「ひとりでできた話」は嬉しいことなのだが、今回はもう少し危ない話である。
その1。
4歳の時だったと思う。その頃、息子はなかなか寝ないうえに、朝早くから起き出していて、親としては勘弁してくれという状態だった。
その日も早くに起き出して何かしているな、ごそごそ音がするなあ、脱衣所にいった、戸棚ひっくり返していないかなあ、ああ眠いなあ、勘弁してくれよ。
などと思いながら起き上がり、朦朧とした頭で脱衣所に行ってみると、服が脱ぎ散らかしてあって、お風呂場の電気がついている。お風呂場のドアをあけると、裸の息子が湯船の中に座っていて、お湯を出してお風呂に入っていた。
どうして、風呂にはいってるのか。
どうして、裸なのか。
どうやって、深い湯船に入ったのか。
どうして、お前は笑っているのか。
子供は、数センチ程度の水深でも溺れることがあると聞いていた。だから風呂の水は抜いておかないといけない、と。
彼は、湯船に入り、風呂の栓をして、お湯を出して、つかっていた。すでにお湯は数センチたまっていた。見方によっては放置したら死んでもおかしくない状況だった。
その2。
保育園の年長、6歳の時だったと思う。
いつものように朝保育園に送っていこうとして、マンションの外階段あたりで息子を見失った。彼はたまに気まぐれに外階段を上から下まで登ったりする。つきあうのもかったるいので、後からついていくのだが、途中の階で中に入られて見失ってしまった。しばらくマンション中を探したのだが、どうにも見つからない。それでも上から下まで行ったり来たりして探しているうちに、やがて携帯電話が鳴った。保育園からだった。
「ソイくん、ひとりで来ているんですけれど、お父さん、どこにいます?」
「え?家の周りで見失って、家の周りを探しています」
「もう保育園にいますよ」
あわてて保育園に向かった。
保育園までは、子供の足でも10分かからないので、いけない距離ではないのだが、途中に4車線の国道を渡る必要がある。信号を待って、ちゃんと手を挙げて渡ったのだろうなと想像はできるものの、危なっかしいのは事実だ。その後も、ちゃんとした歩道がない道を車とすれ違いながら進まないといけない。
保育園についてみると、先生たちが心配して取り囲んでいて、ひとりで行かないように言い聞かせていた。僕も息子に、ひとりで勝手に行かないように、お父さんと一緒に行くようにと言い聞かせた。
この時点では、すでにADHDの薬は飲んでいたのだが、それでもこんな感じだった。
それから数週間後に、妻が同じように息子をマンションの中で見失って、たまたま掃除をしていた管理人さんに手伝ってもらってエントランスにいるところを発見した。
さて、ここまでなら、ADHDあるあるかもしれないが、運が悪けりゃ死ぬで、という話でもある。
(それはそうと、ADHDの話も別項で書かないといけないな)
そして、ここから先は、僕自身の話。
これらの状況に直面して、僕はとても驚いた、かというと、別にそうでもなかった。正直、自分が勝手なことをして事故にあったのなら、しょうがないな、こいつの人生はそこまでだ、と思ったのだ。
あの当時は(今もだが)とにかく心身ともに参っていて、どうにでもなれという気分が強かったというのはある。
そもそも僕は基本的に他人にあまり関心がない。スキゾイド気質と診断(病気じゃないから診断というのはおかしいが)されていて、簡単にいうと、どうでもいいやと思ってしまうと本当にどうでもよくなるのだ。
だから、このエッセイ群も、丁寧に子育てしているかのように読めてしまうかもしれないが、心の奥のほうでは子供のことなんかわりとどうでもいい。彼は彼の人生を好きに歩めばいい。などと思っている。
冷酷なのとも少し違う、空虚なのだ。
もしも目の前で息子が自動車に轢かれようとしていたら、自分はどうするだろうかと考えることがある。まあ多分、全部を放り出して助けにいくだろうなとは思う。でもそれは、義務とか責任とか愛情とかではなく、自分の命のほうが「どうでもいいや」というスイッチが入るというだけのことな気がする。
もし僕のことを子供好きの優しいお父さんだと思いながら読んでいる人がいたら申し訳ない。僕はこのような人間である。
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