第44話 隣の部屋の名は『やまなみ』・・・編

 海地獄の隣にある山地獄は先の二つの地獄に比べるとだいぶ迫力に欠けていた。山の形をした岩から蒸気が吹き出していたが、それ以外は穏やかなものだ。特徴は地熱を利用した動物園であろうか。閉園時間の5時も迫っていたので私達はさらっと一通り見学して山地獄を出た。

 そしてそのまま由布院にある旦那の会社の保養所に向かう。旦那の話しによれば他の地域にある保養所とは違い、由布院仕様の離れタイプになっているとの事だ。今までそういったタイプの宿泊施設に泊まったことがないので、いやが上にも気分は上がってくる。

 そんな浮かれた気分のまま暫く車を走らせていると、私達は会社の保養所に到着した。普通の保養所であればチェックイン後に部屋のキーを渡されるだけなのだが、何せ由布院の保養所は離れタイプである。初めてでも迷わぬよう宿泊する建物まで受付の人が案内してくれるのだ。


「ではご案内します」


 チェックインを済ませた私達を案内してくれるため、受付のお姉さんがフロントから出てくる。そしてそのお姉さんの後について行くと、こじんまりとした平屋の建物に辿り着いた。あくまでも会社の保養所なので情緒にはやや欠けるものの立派な『離れ』だ。


「こちらが本日のお部屋『くじゅう』になります」


 お姉さんの説明によるとこの部屋『くじゅう』は九重連山から名前をとっているらしい。九州を感じる良い名前なのだが、私の視線は自分たちの部屋ではなく隣の建物の名前に釘付けになっていた。


(何だって?隣の部屋の名前が『やまなみ』だとぉ?)


 そう、私達が泊まる『くじゅう』の隣の部屋はよりによって『やまなみ』という名前が付けられていたのである。普通の人なら『山並み』と脳内変換するのだろうが、新選組ヲタの私の脳内変換は勿論『山南』だ。


(うわぁ。何でよりによって『やまなみ』なんて名前の部屋があるかな?しかも隣って・・・ウウッ、今からでも遅くないから部屋変えたい!『やまなみ』に泊まりたい!!)


 部屋のネームプレートをちらりと見つつ、私が心の中で歯噛みしたのは言うまでもない。

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