第42話 あな恐ろしや、坊主地獄編

 私の目の前にある看板―――それに拠ればこの坊主地獄があった場所には延内寺という寺院があったそうである。しかし1498年の日向灘地震で爆発が発生、寺院は吹き飛び、地が裂けて熱泥が噴出したと言うのだ。その際ここに住んでいた住職も爆発に巻き込まれたらしい。

 看板には『地面に呑み込まれ出てこなかった』とあるが、寺が吹き飛ぶほどの爆発が起きているのだ、五体満足のまま呑み込まれたとは思えない。想像するだけでも空恐ろしいものがあるが、それはあえて口にしなかった。私以上にスプラッタなシチュエーションが苦手な男が隣りにいるからだ。


「意外と活発だったんだね、ここの温泉。でも流石に現代は活動落ち着いているんじゃない?」


 坊さんもろとも寺院が吹き飛んだのは500年も前の話だ。庭園として整備されているし、きっともう大きな爆発は起こらないと想定されているに違いない。

 半ば安堵を感じつつ、所々にある泥池を冷やかしながら庭園を歩き続けていたその時である。庭園の中央にもう一つ看板があるではないか。何となく嫌な予感を覚えつつ、私達はその看板に近づく。するとそこには寺院爆発とはまた別のエピソードが書かれていたのである。


「なになに・・・昭和48年8月22日未明爆発跡?鳴動と共に10メートルの高さに熱泥を吹き上げた、だとぉ?」


 しかもその模様がNHK等で広く報道されたと書かれてある。つまり吹き上げる予兆があったか、報道陣がやってくるまでの長時間吹き上げ続けていたかのどちらか、ということだ。

 更に平成になってから現れた熱泥もあるという。未だに活発な活動が見られる『坊主地獄』、それは正に『生きている温泉』と言えるだろう。その事実を突きつけられると、今まで地味な泥池としか見えなかった坊主地獄が途端に恐ろしい物に思えてくるから不思議である。


「見た目は地味だけど結構コワイね、坊主地獄。いつ爆発するか判らないじゃん」


 私達は泥池に浮かんでは消える泥泡に怯えつつ足早に坊主地獄の庭園から抜けだす。そして隣接している『海地獄』へと向かい、その中へ入っていった。

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