カシエの日常

猫又大統領

カシエの日常

 薄っすらと向こうに見える山の頂には、病院があるらしい。もっとも向こうの山は国境の向こう側、そんなところから手紙が毎月届く。

 手紙の内容は、その病院に入院している少女のこと。そして、その手紙の返事にはいつも私のことを書いているようだ。


「ねえ、私はこの手紙に書いてある女の子の親戚かなにか?」  

届いた手紙を男性は黙々と読み続ける。

「ちょっと聞いてる? タスカ聞いているか? お~~い」

 タスカは少女の方を見ずに、ゆっくり頷いた。 

 すぐに私が語気を強めて言った。

「その態度はなに? ずいぶん熱心ね。それにどうして私の様子を向こうに伝えるの?」 

 タスカはテーブルの上に手紙を置くと、今度は私の瞳を見て言った。

「月に一度の楽しみなんだ、ゆっくり読ませてくれ」

 私はテーブルを両手で叩いて言った

「少女のことが書いてある手紙を読むのがそんなに好きなの? あ~あ、この小屋から出て行きたい。 私の身が危ない」

すぐさまタスカは反論した。

「この手紙を書いている男のことが気になっているからだよ。」

突然の告白に一瞬戸惑った、そういえば、今まで女性の話なんて一つも無かった。

「あ…あっ、そうだ。私は外に散歩しに行ってくる、じゃ」

タスカは急いで呼び止める。

「カシエ、まっ、待て違うぞ! 勘違いだ! そうじゃない」

 タスカが言い終わる前に、ドアを閉めて軽快に歩き出した。

 私はまた一段、大人の階段を登ったような気がした。

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カシエの日常 猫又大統領 @arigatou

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