萌黄色の恋

村乃

萌黄色の恋

絶対音感と相対音勘

 これはかなり昔の話。

 高校生の頃、僕が初めて絶対音感の人を間近に見た時の話。

 その人は僕の目の前で、和音だろうがいとも簡単に聴き分けていた。音感のない一般人にとってはもはや魔法のそれだ。

 もうどんなに足掻いてもだいぶ手遅れだと知ってはいたが、その魔法が欲しいと思った。だから僕はその人に音を聴き分けるコツを聞いた。


「そうだなぁ、よくわからないけど、単音ごとに色があるよね」

「色? 例えばレは?」

「んー、黄色かな。ソは青っぽい感じ」

「あーそう言われると。じゃあファは肌色っぽい気がするな」

「うんうん。音の色を想像したら何の音階かわかるかも」


 その答えは僕の無理難題な願いからその時咄嗟に考えた1つの策であって、絶対音感がある人が実際にこの方法で習得しているわけはない。

「無理だよ」なんて言いたくなかったんだと思う。

 多分そんな時期だったから。

 まあ勿論、言うまでもなく、この方法で音を見分けられるはずもなかった。すべての音が黄色だったり青かったりするのだから。


 ラは橙色。

 ミはオレンジ色。

 シはかなり薄い黄色。

 ドは緑色。

 僕にはそう見える。

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