Man In The Mirror

橘 希珂

「前置きは甘え。」

 昔の事を思い返す。昔の気持ちと今の気持ちを書き残す。チラシの裏じゃなくてノートの切れ端だ。もしこの文章を読むならそんな程度で読んで見て欲しい。


 「前置きは甘え。」

学生時代にネットで言われた事がある。媒体は覚えていない。動画か掲示板だったかと思うが、この一言でやる気を削がれて、その場所での活動を辞めた。

 こんな言葉が自分の何に引っかかってやる気を失ったのだろう。二十歳前後だから「この低能ビチグソが!」とか思っていたと思う。「前置きするのがマナーだろが!」とか。

 今も同じ気持ちがある。謙るのは当たり前じゃないか。私は高名な人間じゃない、見る人はどういう相手かわからない。ネットだからって無作法であって良い理由にはならない。

 同時に今だから見える気持ちがある。確かに甘えていた。「私は高名な人間じゃないからいじめないでね?」と心のどこかで言っていた。でも私自身は耳を塞いでいたのだ。前置きしていながら偉そうな事、知っている事を言おうとしているのに。

 心の柔らかい場所を突き刺されたら嫌になる。誰だって弱い部分がある。そして防御しようする。私にとって前置きは盾で、理由は心を守る為なんかじゃないと思っていた。時が過ぎてわかったのは、思っていただけ、だった事だ。

 誰だって攻撃されたくない。ネットは不特定多数で言葉に遠慮が無い場合が多い。言いたい事が有っても、言った後の事を考えたら何も言えなくなる。道徳という見えない監視カメラが這い回っているから死角は無いのだ。

 それでも何故、私はこんな文章を打ち込んでいるのだろう。きっと文章で動き出した瞬間があるから、私もそんな文章を書いてみたい。という傲慢で、夢見がちな理由からだ。言いたい事があっても、道徳の網で捕縛され、正義という縄で絞殺される。だから上手く変換する方法を探している。

 今ならギャーギャーいう人には「この人は矛を構える事で守るタイプなのかな。」なんて相手について考える事もできる。あの頃の自分に言ってあげたい。そんなもんだよ。と。

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