この手で君の涙をぬぐえるならば

時織拓未

1. 墓参り

 俺は持参したバケツと柄杓ひしゃくを使って洗い清めた墓前に花を添え、線香を焚いた。『緒方家之墓』と彫られた墓石に向かい、妻と息子の3人で合掌する。

 3人とも厚手のダウンジャケットを着込み、高く晴れ渡った2月の冬空の下で思い思いの祈りを捧げた。俺達3人は台湾で暮らしており、旧正月の時期にしか墓を訪れられない。季節外れの共同墓地にたたずむ者は俺達家族だけである。

『緒方家之墓』に眠る一族の内、妻と息子は俺の母としか面識が無い。息子が産まれた時、孫を抱きたいとの母の夢を叶えられて、(本当に良かった)と俺は安堵した。

 だが、その母と俺の間には血のつながりが無い。

 俺は、母と家族になった経緯いきさつを振り返る時、どうしても他の2人を想い出してしまう。彼らが安らかに過ごしているように・・・・・・と、祈らずには居られない。

 数奇としか表現しようの無い経緯は、妻にも説明している。だから、こうして毎年、血の繋がらない『緒方家之墓』を欠かさずに訪れているのだ。

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