第341話 「眠りの誘ひ」
春眠暁を覚えずというけれど、最近はもう眠くて眠くて仕方ない。
夜いくら寝ても眠い。病気じゃないかと思うくらい眠い。
冬の間、寒さに耐えていた身体と心の緊張が春の陽炎に解けて緩むのだろう。
毎年この時期はそうなので驚きはないけれど、うっかりすると事故でも起こしそうで怖い。
こんな時にうっかり立原道造の詩「眠りの誘ひ」などを読む。余計に眠い。
***
おやすみ やさしい顔した娘たち
おやすみ やはらかな黒い髪を編んで
おまへらの枕もとに胡桃色にともされた燭台のまはりには
快活な何かが宿つてゐる(世界中はさらさらと粉の雪)
私はいつまでもうたつてゐてあげよう
私はくらい窓の外に さうして窓のうちに
それから 眠りのうちに おまへらの夢のおくに
それから くりかへしくりかへして うたつてゐてあげよう
ともし火のやうに
風のやうに 星のやうに
私の声はひとふしにあちらこちらと……
するとおまへらは 林檎の白い花が咲き
ちひさい緑の実を結び それが快い速さで赤く熟れるのを
短い間に 眠りながら 見たりするであらう
***
美しい。美しいが眠い。
寝落ちしそう。寝落ちる。寝落ちれば。寝落ちるとき。寝落ちよ。
世界中はさらさらと粉の雪。眠りはゆるゆると快楽の淵。
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