第301話 「生命は」




 誕生日前日(法律上は誕生日の前日の午後12時で一つ歳をとってしまっているのだが)に、吉野弘の「生命は」を思い出す。


 ***


 生命は

 自分自身だけでは完結できないように

 つくられているらしい

 花も

 めしべとおしべが揃っているだけでは

 不充分で

 虫や風が訪れて

 めしべとおしべを仲立ちする

 生命はすべて

 そのなかに欠如を抱き

 それを他者から満たしてもらうのだ

 世界は多分

 他者の総和

 しかし

 互いに

 欠如を満たすなどとは

 知りもせず

 知らされもせず

 ばらまかれている者同士

 無関心でいられる間柄

 ときに

 うとましく思うことさえも許されている間柄

 そのように

 世界がゆるやかに構成されているのは

 なぜ?

 花が咲いている

 すぐ近くまで

 虻の姿をした他者が

 光をまとって飛んできている

 私も あるとき

 誰かのための虻だったろう

 あなたも あるとき

 私のための風だったかもしれない


 ***


 この詩を読むたびに、自分も誰かの風だったり虫になりたいと思うけど、なかなか形には現れないから妙に焦ったり、もどかしかったりするね。

 どうでもいいことばかりが目について、大事なものはからきし見えないことの方が多いね。



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