第266話 「寒い!」




中原中也の「寒い!」という、そのまんますぎるタイトルの詩があって、そのまんまや……と思いながら冬の日は過ぎていく。


***


毎日寒くてやりきれぬ。

かわらもしらけて物云ものいわぬ。

小鳥もかないくせにして

犬なぞ啼きます風の中。


飛礫つぶてとびます往還おうかんは、

地面は乾いてつやもない。

自動車の、タイヤの色も寒々と

僕を追い越し走りゆく。


山もいたって殺風景さっぷうけい

鈍色にびいろの空にあっけらかん。

部屋にこもれば僕なぞは

愚痴ぐちっぽくなるばかりです。


こう寒くてはやりきれぬ。

行儀ぎょうぎのよい人々が、

笑おうとなんとかまはない

わめいて春を呼びましょう……


***


わめいて寒さが薄れるならいいけど、そうじゃないから憂鬱。

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