第249話 「冬が来た」




毎日やたらと寒くて、ガスヒーターの効いた部屋でぬくぬくとしながらもしぶしぶ植物の手入れや換気のために窓を開ければ、びゅうっと身を斬るような風が吹いて身を竦ませる。

ああ、嫌だ。寒いのは本当に嫌だ。

……と思わず閉めてしまいたくなるけれど、不意に高村光太郎の詩「冬が来た」を思い出して、なんとなく自分を鼓舞してみる。

冬の詩は力強い。冬も強いが、冬に負けじと書く人も強い。


***


きつぱりと冬が来た

八つ手の白い花も消え

公孫樹いちょうの木もほうきになった


きりきりともみ込むような冬が来た

人にいやがられる冬

草木に背かれ、虫類に逃げられる冬が来た


冬よ

僕に来い、僕に来い、

僕は冬の力、冬は僕の餌食だ


しみ透れ、つきぬけ

火事を出せ、雪で埋めろ

刃物のやうな冬が来た


***


白い息を吐きながら、「刃物のような冬が来た」と呟いてみる。

きりりと尖って清らなことばが、染み通り突き抜けていく、平凡だけど特別な朝。


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