第110話 夏の終わりに枯れても
夏の終わりを見届ける前に、ベランダの花々が次々と枯れてさみしい。
マーガレットも紫陽花も、花は萎み、それだけでなく葉や茎が真っ黒になってしまった。
粲々と差す日光に焦げてしまったかのようだ。
ありし日の花の可憐さを知っているだけに、死を迎えたそれは痛々しい。
どんなに美しく咲いても最後は皆同じ。萎れて、葉は力なく垂れ下がって、からからに干からびてしまう。
いっそ引き抜いてしまおうかと近づいたところで気がついた。
紫陽花の真っ黒で干からびた茎の根本から、ちょこんと小指の爪程度の緑の新芽が生えていた。
ほんの小さな芽が一つ、二つ。
完全に枯れたと思ったのに、実はまだ生きていて、懸命に水を吸って、これからまた新たに伸びようというのだろうか。8月も終わりなのに? 秋と冬は再び青々しい姿を取り戻して越えるつもりなのだろうか。
力尽きた老人から、小さな子どもが産まれてきたようだ。
しばらく無心で芽を見つめていた。
西に傾きかけた太陽が、じりじりと背中をあぶっていった。暑いを通り越して、痛かった。
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