俺か、俺以外か

 職場最寄りの地下鉄駅がなんか工事をしていて、エスカレータが使えなくなっている。まあ、デブなんで歩きゃあいいと思ってるから別に歩くのは苦ではないのだが、エスカレータだと乗ってる間は停まるじゃあないですか。しかし、階段だと移動し続けなくてはならないので、前の人の歩行スピードの影響を受ける。で、昨日階段の前を歩いているのがおそらくカップルで、指を絡ませながら歩いてるので遅いんですよ。さりとてブン抜いていくのもちょっとどうかと思うし、その前もなんかカップルなんですよ。ここをスタスタスタ―と抜けていく独身中年男性(デブ)、なんかハラスメントになりそう。と思うので、まあ、モデラートにペース合わせて付いていってたんだけども、目の前のカップルが、エレベータ前に行って、「昇」ボタンを押したのね。ああ、こいつらエレベータ乗るんだ~って思って、そしたら、その横をすり抜けようと思うから、ちょっとスピード上げるじゃあないですか。したらなんか本当に意味がわかんねえんだけど、「昇」ボタン押すだけ押して、階段上り出すんですよ。ハア? どゆこと? なんか、「後ろの人が通るかもしれないからドアを開けて振り返りましょう」のエレベータバージョン? そういうなんか気遣いのやつか? まあ、そうだとしたらこの人は気が利く素敵な人で、だからこそ恋人もいて愛を育めているのかもしれないが、俺としてはちょっとガクっとつんのめってしまったわけ。別に恨んじゃアいないが、印象には残った。


 で、職場に入ったら、こう、ロビーみたいなところがあるんですね。ロビーなので別にどこをどう歩いたって良い訳だが、でもなんか一応、「一番まっすぐ行ける道」ってあるでしょ。自分の席に行くのに最短距離になる道っていうか。アイシールド21が見えるヤツよ。で、普段だったらその「道」を歩いていけばいいわけだが、なんかその「道」のど真ん中にぬぼーっと突っ立ってる男がいるわけ。なーんじゃコイツ、と思いながら、ちょっと避けて歩くじゃん。いや正確に言うと、なーんじゃコイツとも思ってないが、少し違和を感じながら歩くわけね。したら、その男のところに女が駆け寄っていって、で、また手に手を取り合いながら歩いていく。あーだから、ロビーで待ち合わせて、一緒に部屋まで行こ~うね♡、つってたワケね。でそのー、普段そこが「道」になってたということは、つまり、普段はそこ空いているわけで、まあ、昨日今日あたりからそこで待ち合わせ始めた関係なのではなかろうかと思う。そう考えてみると、「エレベータはとりあえず地下に呼んでおこうマナー」を発揮している人間なんて今まで観たことなかったわけで、これもその恋人に「マナーも分かる俺」を演出するためにやってるのだとしたら、この関係性が出来たのも結構最近なんちゃうかなと思うわけ。


 仕事が終わって夜。食いものが無くなったので、魚かなんか買おうかなあと思って夜スーパーマーケットに向かうと、アパートの前で男女が話し込んでいる。こんな寒いのに良く外で話すね。つか、どっちかの家の前なんだろうから入れば? とか思いつつ、まあそういう駆け引きが楽しいのかな~って歩いてったら、こんだ交差点のガードレールに腰かけた男と女が話し込んでいる。ここは鴨川か?

 でなんか魚はちょっと高かったので、まあ、豚ロースでいいか~って安い肉買って、豆腐とかも買って、帰る。ガードレール・カップルは流石に帰ってたようだが、アパートの前・カップルはまだ話している。いや……いよいよ入った方が良くねえ? と思いつつ、帰宅する。


 で思ったんですよね。これって俺ですか? 俺以外ですか?


 何を疑問に思っているのかというと、まあそのだから有名な防衛機制に「投射」または「投影」というのがあるわけね。「投影法」はそういう心理検査になるくらいメジャーな方法でもある。何? っていうと、つまり、自分の欠点や自分が気になってることほど他人の中に見つけるということですね。言われてみれば確かにそうかなって思うのは、例えば、俺は「アイツは数学の素養が全然ない」とかはずぇ~んぜん思わないわけですよ。なぜなら自分にも数学の素養がないし、数学を使うような生活を送っていないからである。ハウエヴァ、「アイツは全然飯を食わない、付き合いが悪い」とかは凄い思うわけ。これはやっぱ、自分が飯を超食うからですよね。自分にとって「飯を食う」ということが大事だから、それが重要な価値基準になって、他者の評価軸の一つになるわけ。というわけで、自分自身が気になることを他者に投射・投影して、他者の中に見つけてしまうって心のはたらきがあるんだよというわけ。


 それなのか? ってこと。つまり、俺はなんか恋人と手を絡ませながらチンタラ歩いたり、待ち合わせで邪魔になるところに突っ立ってたり、夜のアパートの前で話し込んだりしたい!! という欲望があって、その欲望がために周りのカップルに超気づいちゃうということなんであろうか。でもじゃあもしそうだとして、「なんで今?」というのはちょっと気になるところだよね。

 だとしたら俺以外か。つまり、ハロウィーンを契機に、あるいは、街に漂うクリスマスの空気に惹かれて、カップルが増え始めた。数が増えれば、変な行動というか、邪魔になる奴らも結果的に増えるので、それが目に付く。そういうこと? でもそうだとすると、札幌市民単純すぎるというか、行事に踊らされすぎてないか? という気は少しする。ただまあ札幌市民だしなー。こいつら(俺も含めて)めちゃくちゃ踊らされる奴らなんだよな。停電になりゃ発電機を買い占め、地震がくりゃあ日用品を買い占めるバカどもなのはもうさんざ見てきた。じゃあそういうことか。


 ま、だとしたら、別に俺が欲動に満ちた悲しきモンスターってことではないのかな。なら良かったな……って思ってたら、日付が変わる。『ハライチのターン』をかけながら、ツイッターを見る。そしたら、なんか、「11月11日」で、「1」が並ぶので、「独身の日」だって言うんですね。でいて、なんか独身の日にはこれまで中国ですげーイベントをやってきていたが、今年はなんかそのイベントをやってなくて? みんな大混乱!! みたいなことになっている。


 いや、知らんが? これまであったっけ? 「独身の日」。なんか、さも、「あの恒例の!!」みたいな感じ出してるけど、全然知らなかったが?


 でもまあなんかノリ的には、何年かはやってそうなんですよね。ブラックフライデーくらいは歴史がありそうに見える。ってことはやっぱ、だから、俺が寂しいのかもしんないですね。これまでは「独身の日」が目に入らなかったが、今はなんか寂しくて、「独身の日」に強く目が惹かれるようになっている。じゃあ俺か~。


 2022年11月11日 08時23分の測定結果

 体重:104.10kg 体脂肪率:34.20% 筋肉量:64.95kg 体内年齢:51歳


 特にオチはありません。あと、この話は「独身の日」に感じるべきであって、独身の日イブに思うことではなかったような気もします。ちょっとズレてんだよな。それではまた。

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