no contribution is good contribution.

 営業マンというのは究極的には契約を取ってきた数・額面で評価される存在で、これは完全に数値化可能である。となれば、実労働時間とかはわりとどうでもよくて、たとえば月に何万円の売り上げをあげたらそれに応じた報酬をあげましょうみたいな、そういう成果報酬は可能で、なんなら実際そうやってるところもあるだろう。


 で、完全に一人で契約を取ってきたとなれば、この成果報酬はものの原価と雇用主が支払った経費を差し引いた後に、もともと決められた比率の報酬を受け取るということでOKであるが、複数人だった時は話がちょっとややこしくなる。もちろんこの複数人が全く同比率で貢献をしているのなら、人間が「自分が一番頑張っている」的なことを思いがちということを差し引けば、その比率通りに配分すれば良いということになる。少なくとも理屈は立つ。

 問題は、"基本報酬"みたいなのが定められている場合である。たとえば、上司と部下がいて、実質的には上司がめちゃくちゃコントロールして契約を取ってきたとする。そうすると、(会社が相応の取り分を取った後で)実際の貢献量に応じて成果を配分すると、上司95 %、部下5 %とかになってしまうかもしれない。でこれだと部下が干上がってしまい、業界は衰退する一方であるが、さりとて上司に「ちょっと分けてやんなよ」というとこの上司に逃げられる可能性がある。となると会社の側は涙を飲んで、「相応の取り分」から、関係者した人員に"基本報酬"を与えるということにするかもしれない。そうすると、上司95 % + 基本報酬10万円、部下5 % + 基本報酬10万円 みたいになるので、上司はちょっと増えるからラッキー、部下は基本報酬分があればなんとか干上がらずに済む。

 という仕組みを作ると、人間は欲深なので絶対にこうなる。この契約を取るのには、運転手が必要だった。タイピストも必要だった。プレゼンのパワポを作成したのは部下A,B,C……である。都合10人が関与しているので、この契約による取り分100万円は、上司91万円 、運転手~部下それぞれ1万円で分配するが、それはそれとして"基本報酬"を別に100万円用意してもらって、これを10人で分配することにする。


 これはあかんやろ。というわけで、会社は次のようなルールを作る。基本報酬は、最低限次のような貢献をしたものにのみ与える。そのことは参加者全員の承認を得たうえで、文書に残さなくてはならない。虚偽の申告をした場合は死を以て償ってもらう。


 最後の罰則が重すぎることによってこの条文は無効! 倍返しだ!!


 いや、そういう話ではねえんすよ。ノイズを入れてしまったな。

 まあとにかく、こうなると、例えばそうね、運転手って必要じゃあないですか。自分で運転するのはだるいし、駐車場とか探すのもめんどい。その辺の手間は全部この人にやってもらうことで、結果的に契約を取るのには役立っていた。ところが、今の制度だと「運転」は「最低限の貢献」に認められていないことになる。まあそれはそれで正しいのかもしれんが、それじゃあ運転手のあなたは基本的な運転にまつわる料金だけ払いますからそれで終わりにしてねってなると、「じゃあ干上がってしまうのでもうお前らのところで運転はしないが?」と言われるかもしれない。そんじゃまあ、ぎりぎり合理的に認められる範囲で"最低限の貢献"をしてもらいましょう。ってわけで、一応契約書類に目を通してもらって、気になることをコメントしてくださいって言う。で、してもらって、「(運転手であるところの)X氏は、契約文書の作成及び校正に貢献した」ということで基本報酬を貰いに行く。

 ところが、この時に、この運転手氏が、「うーん、この契約文書で【甲】とか【乙】って書いてるのは時代遅れですよねえ。今時十干なんてカレンダーにも載ってませんよ。ここは今風に、十二支にしましょう。会社は【子】、契約者は【丑】でどうですか?」とか言い出したとする。いやいや。あなたには"最低限の貢献"を「してもらったこと」にしたいわけで、その、コメントを貰ってしまうと、校正に参与してもらうという建前上、真剣にコメントを返さないといけないのですが? あなたの最良の貢献は、(少なくとも文章については)何も貢献しないことなんですよ。


 というようなことを5年前だったら言ってる、あるいは書いてるかもしれないが、残念ながら今はその5年後なのでまあなんか柔和にやっています。やっているんですが、イラついたので体重を測るのを忘れてしまいました。明日測ります。

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