純粋脂肪批判

雅島貢@103kg

序論:存在と肥大

饗宴(悲しみとそして怒りの)

 こんばんは。汁粉を食いながら失礼します。


 以前からTwitterで告知はあったが、カクヨムで「エッセイ・実話・実用作品コンテスト」が開催されるという。なるほどと思った。

「読む者を感動させる熱い実話や、日々の生活やビジネスに役立つ実用書の投稿を、お待ちしています!

そして、たくさんの読者の人生を変える最高の一冊を、一緒に作っていきましょう!」

 とのことである。素晴らしい理念である。他人の人生を変えるだけの力を持つエッセイがたくさん生まれ出ずることは素晴らしい。たとえそれがどのような方向にであれ。


 さてそこで、俺も無い頭を捻ってみた。つるつるの脳細胞、白質しかない脳を必死で絞ってみた。ところが俺の人生には熱い実話と呼べるものがなかった。何一つ。欠片も。微塵も、である。これには俺も参るしかなかった。


 もちろん日々の生活やビジネスに役立つ実用的な知識もなかった。いや、正確に言えばこれに関しては無くもない。ないが、俺が知っている程度の実用的な知識は、当然に皆が知っているのである。たとえば俺がぱっと思いつく実用的な知識というのは、以下のようなものである。


 北海道って、知ってますか?

 北海道の冬は、とても寒いです。

 だから、道外から、北海道に行くときは、暖かい格好をしていきましょうね!


 あるいは、こうだ。


 北海道は、桜が咲くのが、遅いです。どうしてかな? きっと、寒いから、ですね。

 今が、桜の見頃です。五月に桜をみたい人は、北海道に、行ってみよう!


 または、こういうのもある。


 札幌の食べ物といえば? そう、ラーメンですね。

 札幌には、たくさん、ラーメン屋さんがあります。

 ラーメンは、中華料理が由来ですが、もうすっかり日本人の国民食になった、小麦で作った麺を、醤油や、味噌、塩の味のスープに入れて、チャーシューや、海苔を乗せた、食べ物ですよ。

 とってもおいしい!




 とってもおいしい! じゃあねえよ。アホか。おっしゃる通りである。


 結局俺にはこの程度のことしか思いつかないのである。だからエッセイなんて無理、ダメ、諦めよう。そう思って、草の葉なんかを銜えながら、一人で無頼を気取って河原を歩いていた。

 そしたら知人から連絡が来た。晩餐会でも開きませんかというので、いいですよと答え、酒や食事を餐することにした。めでたしめでたし。はい話はここで終わり。解散。


 となれば良かったのであるがそうはならなかった。それが世の常というものである。晩餐会の中、俺は何の気なしに彼らに問うた。俺に非凡なところは何かありますか? と。自分では気づかないが非凡なところがあるかもしれないと思ったからだ。たとえば、雅島さんは影では凄い尊敬されていますよ。こういうことがあって、とかそういう話が出てきたら、なるほどねえなんてにやけ面をさらして、そのエピソードのひとつもエッセイコンに書けば、なんだただの気持ち悪いおじさんではなかったのか、見直そうと世間も思ってくれるのではないかと思ったからである。


 ところがその期待ははかなく砕け散った。彼らが言うのは俺の欠点ばかりだし、なにしろそれはちょっと書くに書けない、血抜きをまったくしていない腎臓をただ炒めただけみたいな話で、臭みが酷すぎるのでどうしようもなかった。

 お前ら。俺をなんだと思っておるのか。

 そう思いながら、もう少しポップなやつで、とリクエストをする。

 と、一人の男がこう宣った。全然興味なさそうな顔で。LINEかなんかを見ながら。片手間で。適当に。


「体型ですね」


 殺す。

 そう思った。

 

 何を隠そう、俺の体型はクレッチマーに言わせれば社交的、親切、温厚の気質と相関があるやつで、つまりおおらかな体型。全てを包み込むような。愛のような。


 ようするにデブだということだ。てめえ。良くもまあそういうことを本人を前にして言えるな。

 

「言えといったのはあなたでしょうに」

 スマホから顔を上げることもなく彼は言う。再び思う。


 殺す。


 しかし俺は冷静沈着な男である。クール&クレバー。氷のような男なのである。

 だから俺はまず冷静に、沈着に、この人間を殺すことが法に触れる可能性について模索した。いやまさか、そんな法がある訳はないと思った。君もそうだろう。人間の体型について侮辱をした人間を殺戮することが違法? そうだとしたらこの世はもうほとんど地獄と同義である。ただ、たとえばゴルフのルールには、カニがボールにとりついた時にそれを取り外すのはルール違反、みたいな訳の分からない奴があり、たまにそういう「はあ?」みたいな法も存在するのは事実である。

 この失礼な男に生まれてきたことを後悔させるような苦しみを与えてから殺すのが、仮に、もしも、万が一違法であった場合を想定し、念には念を入れて、俺は六法全書を開いた。刑法の199条から203条を熟読した。そして俺は愕然とした。


第26章 殺人の罪

(殺人)

第199条 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。

《改正》平16法156

第200条 削除

(予備)

第201条 第199条の罪を犯す目的で、その予備をした者は、2年以下の懲役に処する。ただし、情状により、その刑を免除することができる。

(自殺関与及び同意殺人)

第202条 人を教唆し若しくは幇助して自殺させ、又は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は、6月以上7年以下の懲役又は禁錮に処する。

(未遂罪)

第203条 第199条及び前条の罪の未遂は、罰する。


 体型についての悪口雑言による除外規定が存在しない。嘘だろ?

 たぶん200条の「削除」のところにあったんだろうと思うが(※1)、今やこの日本では体型について正直に相手に言われた場合、そいつを殺すことができないのだと言う。法がそれを禁じている。ふざけんなよと思った。


 しかし。しかしである。悪法もまた法である。ソクラテスもそう言ってる(※2)。俺は涙をのんで毒杯を煽ることにした。そうして固く決意した。


 俺がデブであるには正当な理由があるのだ。本当なのである。

 決して怠惰・ものぐさ・ぐうたらだけが理由なのではないのである。

 本当だ。本当なんだって。


 そりゃあ確かに今はおやつとして汁粉を食ってますよ。六時以降に飯を食うと死にますよと健康診断の担当者が言ったのは確かに聞いていたけれども。

 餅の賞味期限が近いもんでね。しょうがない。汁粉にはちょっと塩を振るとうまいですよ。それはこの世における数少ない真実の一つである。

 

 ただ。ただね。確かにそう。君の言う通り。今汁粉を食っているのは事実である。普通の人間は、普段何もない日曜日の夜に汁粉は食わないね。言われてみればそうであった。自己を徹底的に客観視して、こういうエッセイを書き始めて俺はようやくそのことに気づけた。

 確かに俺にはそういうお茶目な、親しみやすい側面があるから、だから正当な理由がある、と言っても、なかなか信じて貰えない。君たちも信じていないだろう。

 

 だから俺は決意をした。

 この文章を読んだ人間が、ああそれじゃあデブでも仕方がないですね、しょうがない。僕はあなたを許します、と言ってくれるまで、俺はキーボードを叩くのをやめない。決して。決してだ。


 覚悟をするといい。



※1 尊属殺規定ですね。

※2 所説があるそうだということは知っていますので、指摘されるまでもありません。

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