第5話

 昨日ギルドで女神エリス感謝祭が来週行われると聞き、ダクネスとは朝ギルドに集まる約束をして別れたのだが……


「朝からすごい人だね」

「そうだな」


 ギルドの中は冒険者でいっぱいだ。沢山の冒険者がクエストを受けるため掲示板に群がっている。こんなに人が集まるのは緊急クエストの招集がかかった時くらいじゃないだろうか?


「今年もレッサーワイバーンが山に巣を作りました!このままにしておくと危険なため討伐をお願いします。現在バインドが使える盗賊と、空の敵という事で狙撃が可能なアーチャーを特に募集しています!強敵ですが、その分報酬は弾みますよ!参加者あと五人です!」

「森に昆虫型モンスターが大発生していまーす!数が多いので、人数を必要としています!数十人での大規模な討伐となります、職不問、レベル不問!」

「平原にも草食型のモンスターが大量発生していますので、そちらもお願いします。放っておくと、彼らを餌にする大型のモンスターが集まってきます、その前に駆除をお願いします。現在ギルドでは、様々な支援物資を無償で提供するキャンペーン中です。報酬も普段より上乗せします!この機会に頑張ってお仕事してくださーい!」


 あちこちでそんな声が飛び交い、人々がギルドを飛び出していく。


「この付近のモンスターを駆除しないと安全に祭りが行われないから、みんな必死なんだ。冬は強いモンスターが活発化するが、夏は弱いモンスターが最も行動的になる。この時期はモンスターの討伐報酬も上乗せされるし、冒険者にとって絶好の稼ぎ時というわけだ」


 そうダクネスが説明してくれる。天界から祭りの様子を見たことはあったけど、この祭りを開催するためにこんなに頑張ってくれるなんて。


「行くよダクネス!絶対お祭りを成功させるよ」

「お、おいクリス!?急にどうしたんだ。ま、待ってくれ!引っ張らないでくれ」


 私はダクネスの手を引き、クエストを受けに向かった。




「皆さん、エリス感謝祭のため一匹でも多くのモンスターを狩りましょう!」

「「はいっ!」」

索敵さくてき!皆、その先に五匹いるよ」

 

 私たちは平原のモンスター討伐に参加した。今は同じタイミングでクエストを受けたウィザード職の三人と臨時パーティーを組み、草原に到着したところだ。

 さすが夏、敵感知にもかなりの反応がある。遠くにさっき反応があった五匹の姿が見えてくる。頭に角をはやした日本のサイのようなモンスターだ。こちらに気付いていないのか足元の草を食べている。


「「「『ファイヤーボール』っ!」」」


 ウィザード職の三人が放った火球は五匹のモンスターをまとめて焼き上げる。敵感知から五匹の反応が消え、今ので全員倒されたことが分かった。


「やっぱり魔法ってすごいね」

「そうだな。あの威力、当たったらすごいんだろうなぁ」

「…………」


 ダクネスの反応はいつもの事なので無視して私は敵感知で周囲に気を配る。あれだけ派手な事をしたんだ、モンスターが集まって来るかもしれない。


「次、右側から三匹!」


 思った通り、さっきの爆発音でモンスター達がこっちに向かって来ている。魔法は敵の間合いに入ることなく攻撃が出来たり、動きを封じたりと種類も豊富で便利ではあるが使う魔法によっては周りの敵のヘイトを集めてしまうことがある。

 

「「「『ファイヤーボール』っ!」」」


 こっちに向かって突っ込んで来たサイ型モンスターは火球の直撃を受けて動かなくなる。しかし、敵感知の反応は終わらない。


「左側から四匹来てるよ!」

「「「『ライトニング』っ!」」」

「今度は後ろから五匹!」

「「「「ブレード・オブ・ウインド』っ!」」」 


 私たちに向かって来たモンスター達は雷に打たれ、風の刃に切り裂かれた。敵感知で確認するがもう向かって来る敵はいないようだ。


「な、なあクリス。私の出番は………」

「この調子だと無いかな?」

「………グスッ………」


 戦闘が一息ついて(とは言っても私は索敵をしただけ)周りを見てみるとあちこちで雷が降ったり、火球が飛んだりしている。


「さあ、どんどん狩りますよ」

「クリスさん、索敵お願いします」

「エリス感謝祭のため頑張りましょう」


 その日はウィザード職の三人が魔法で敵を倒し、私が周囲を警戒するという流れでひたすら狩り続け、三人の魔力が切れたところでクエストを切り上げ解散した。




「ねえ、ダクネス?」

「ん?どうかしたか」


 平原でのクエストを終え、三人のウィザード職さんと別れた私たちはギルドの酒場で夕食を食べていた。


「気になってたんだけど、エリス感謝祭のときっていつもあんな感じなの?」

「あんな感じ?……ああ、冒険者たちの事か。そうだな、女の冒険者には敬虔けいけんなエリス教徒が多いからな。みんな祭りの開催のために活発になったモンスターの駆除をしているんだ」

「女の冒険者?あれ、男の冒険者たちは何をしているの」

「男の冒険者たちはほとんどが森でのモンスター討伐に行っているな………そうだ、明日は森に行こう」

「どうしたの急に?でもいいよ、今日は敵感知ぐらいしかしてなかったからね。明日はモンスターを狩ってレベルを上げるよ」

「夏の森……楽しみだなぁ」


 ダクネスが嬉しそうなのがすごく気になるが明日も頑張ろう。そう決意する私だった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「では、防御に自信のある前衛職の方は、モンスター寄せのポーションを体に塗ってくださいねー。皆さん、相手は格下の昆虫型モンスターばかりとはいえ、数が多いので油断しないようにお願いします!」


 場所が変わって森の中。

 森の討伐クエストを受けた私たちはほかの冒険者パーティー達とともにギルドの職員からの説明を受けている。

 今回のようなクエストは大規模狩りと呼ぶらしい。

 数が増えすぎて一パーティーでは討伐が困難になったモンスターの群れを、ギルド職員の指示の下、複数の冒険者パーティーが寄り集まって退治する。

 普段はこんな所まで出てはこない職員たちだが、大規模狩りや緊急クエストなどの統率者が必要な場合などは出てくるそうだ。


「~~♪♪~~♪」

「ず、ずいぶんご機嫌だね、ダクネス」

「モンスター寄せのポーションはこういう時ぐらいしか支給されないからな。囮スキルを使っても敵は寄って来るがポーションを塗ったときはそれよりももっと集まって来るんだ」

「そ、そうなんだ」


 だから昨日あんなに嬉しそうだったのか、と今更ながら納得していると敵感知スキルに反応があった。


「冒険者の皆さーん!モンスター第一陣が集まって来ましたよ!殺虫剤も大量に用意してあります。では、お願いします!」

「おっしゃー、俺たちの夜を守るため行くぞー!」

「「「「「おおおおお!」」」」」


 何があそこまで男の人たちを駆り立てるのかは謎だけど、耳障りな羽音を立てて、昆虫型モンスターがやって来た。


「イタッ!ちょっ……!数が多い!援護頼む!」


 前衛の冒険者の叫び声が聞こえる。

 見ると、飛来してきた子犬ほどのカブトムシみたいなものにたかられていた。

 この世界の生き物はとてもたくましい。そのカブトムシのようなモンスター達は飛来してきた勢いはそのままに。その体に回転でも掛けるかのように、角をねじり、えぐり込むように……!


「ぐはっ!?」


 一人の冒険者がその一撃を腹に受け悶絶する。

 金属を打つ甲高い音。

 金属鎧を着こんでいた冒険者の腹には……。


「いってええええ!くっそお、ちょっとだけだが腹に刺さってやがる。気を付けろ、安物の金属鎧だと穴が開くぞ!」


 涙声でそう叫ぶ冒険者の鎧には、カブトムシが深々と刺さっていた。鎧を着ていてあれだと、直撃したらどうなるかちょっと考えたくない。


「五匹、いや十匹だ!十匹までなら耐えられる。さあ、かかって来い!」


 そう言ってダクネスが次々と飛来するモンスターを受け止める。彼女の鎧は特別製らしいが本人の防御力も有ってか耐えられるらしい。

 ほかの盾職の人たちも必死でモンスターの猛攻を耐え続ける。

 私も頑張らなくちゃ!

 ギルドから支給された、竹で出来た水鉄砲のような殺虫剤を次々とモンスターに散布していく。薬を浴びたモンスターはしばらくすると力尽きぽとぽとと落ちてくる。

 飛来するのはカブトムシだけでは無い。

 クワガタのようなものやカマキリのようなものなど。

 ほかにも様々なモンスターが飛来するが、どれも軒並み体が大きい。

 カブトムシなどのモンスターは体当たりをしてくるだけだが、カマキリなどは鎌に挟まれたらひとたまりもない。

 

「『バインド』っ!」


 私はロープをカマキリに投げスキルを発動する。それと同時に全力疾走。カマキリは鎌を使おうとするがバインドによって拘束されているため使えない。勢いを殺さずにカマキリに向かって跳躍、空中で腰のダガーを引き抜きすれ違いざまに一閃……!頭部を失ったカマキリは倒れそのまま動かなくなる。


「お疲れダクネス。待ってて、すぐ片付けるから」

「ま、待ってくれ。私のことはいいから先にほかの人たちを助けて……ああ止めてくれ!私はまだ耐えられるから!虫を殺さないでくれー!」


 殺虫剤を片手に虫を狩り続け、虫の襲撃が収まったところでギルドに帰還することになりました。




「いやぁー楽しかったね。報酬も良いし、レベルが二つも上がったよ」

「ああ、やっぱり夏の虫は良い。どうだクリス、明日も森の討伐クエストを受けるというのは?」

「賛成!明日も森に行こう」


 レベルが7になり、新たに《解錠スキル》と《逃走スキル》と常時発動型スキルがいくつか解放されました。

 解錠スキルは文字どうり鍵を開けるためのスキル。専用の道具があって初めて効果を発揮するタイプなので時間がある時に道具を買いに行こう。

 逃走スキルは移動速度と回避率を上昇させるスキル。防御力の低い盗賊職の生存率を上げてくれる便利なスキルです。

 常時発動型スキルは習得した瞬間から効果を発揮するスキル。単純に筋力が上がったり、防御力が上がったりするのでポイントに余裕があるなら取ってみるのも面白いと思う。


「そういえばまだお昼だけどこれからどうする?」

「まだ時間もあるし、もう一つくらいクエストを受けよう。幸いクエストは沢山あるしな」


 二人で手ごろなクエストを受けたりしながら一日が過ぎていった。




【祭りまであと3日】


 いま私は山に来ている。草原や森の昆虫型モンスターよりももっと強そうなモンスターと戦いたいとダクネスが言ったからだ。幸い盗賊職を募集しているクエストがあったのでそこに参加したのだが……


「『ファイヤーボール』」

「『ライトニング』」

「『ファイヤーボール』」

「狙撃、狙撃、狙撃」

「ぐ、がああああああああ!」

「『ブレード・オブ・ウインド』」

「『ライトニング』」

「狙撃っ!」

「『ブレード・オブ・ウインド』」

「ぎゅあああああああああ!!」

「……これ、あたしたちの出る幕ないよ」


 バインドで動きを封じられた哀れなレッサーワイバーンはウィザードとアーチャーの総攻撃で次々と屠られていく。私とダクネスは遠距離攻撃が出来ないのでバインドを使うくらいしかやることがないダクネスに至っては見ていることしか出来ない。


「ごめんダクネス、これが終わったら次は………」

「一切容赦のない攻撃の数々……ハア……ハア……」

「…………………」


 ま、まあ、本人が嬉しそうだからいいか。

 




 その後も私たちは森や平原のクエストを受け続けた。毎日が充実していて楽しかった一週間が過ぎ、ついにその日がやって来た。


「さあ、準備はよろしいですか?今ここに、女神エリス感謝祭を開催を宣言します!」

「「「「「「「うおおおおおおおおおおお!」」」」」」」


 拡声の魔道具によって開催宣言が町中に響き渡る。

 それと共に、空には色とりどりの魔法が打ち上がり、地上では歓声がわき起こる。

 遂に感謝祭が始まった。



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 まだまだ頑張ります。次回もお楽しみに


 更新ペース上げていくつもりです


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