21.メタ認知 - 物が分からなくなった

 休学を決めた頃から、物が分からなくなることが増えたの。

 ティーポットが一番目立ったわね。お茶飲みたくてもティーポットが何だか分からなくなって手を止めてしまうのよ。調子が良ければ鼻歌混じりでお茶を淹れられるのに。

 そこにティーポットあるじゃない。ねぇ、あなたはこれがティーポットだって分かった?

 注ぎ口があるから? でもヤカンもあるわよね。

 ヤカンと違って陶器だから? でも急須も陶器よね。しかも今このティーポットには緑茶が入ってる。

 急須より背が高いから? なるほど。比較すればそうね。

 驚くべきはあなた、ティーポットを見た瞬間に全て検討し終えて、結論を出しているのよ。


 ティーポットが分からなかった時の私は多分、共感覚が強すぎた。強すぎた? うーん。ちょっと待って言い換える。

 誰でも世界って何層も重なっているじゃない? ティーポットで言えば、お客にお茶を淹れる道具であり、創作においてリラックスタイムを演出する道具であり、誰かとの優しい思い出があればその象徴であり。ティーポットを見た瞬間、その人の中で複数の意味が重なり合ってる。

 そんな重なりの中で、私の世界には「共感覚の意味」の層があるの。

 あの頃は「赤くて白くてちょっと黄色い」という共感覚層の情報が強すぎて、社会におけるティーポットを見出すに必要な情報、集めることも検討することもできていなかったと思う。

 他の人がティーポットを定義するのには使われない、だから私自身も体系化できていない、暗号みたいな情報だけがそこにあった。

 上手く言えたかしら。


 今は治ったわ。よほど過労しない限り、もう無いと思う。あの体験は「私がどうやって世界を認識しているか」考える、非常に良い機会だったわね。

 私は心理学者ではないから、間違った自己解釈かもしれないけど、とりあえず納得はしてる。なんか変な経験をしたってだけじゃ、次が怖くなるからね。これでまた同じ状態になっても、カフェインの錠剤で共感覚抑えるとか何とか足掻けそう。

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